第12話
「そろそろ行くか……」
俺の言葉に全員が待ってましたとばかりに勢いよく立ち上がる。
「やっとですね。初めてのダンジョンです」
アルは拳を強く握り目を輝かせていた。
まぁ……後で謝るしかないか……。
俺はため息をついて、先頭を歩きダンジョンへと向かう。
入り口にはルネット帝国とジェネレート王国の兵士が互いに天幕を張り、ダンジョンから魔物が出てこないか見張っていた。
俺たちに気づくとルネット帝国の兵士達は姿勢を整え敬礼をする。
「この入り口を頼むな」
「はいっ! 魔物の一匹すら通しませんっ!」
俺は頷くと先頭に立ちダンジョンへと足を踏み入れる。ダンジョン内は不思議と明るさが保たれていた。これは最初のフロアだけ共通である。次のフロアからは各自で明かりを確保する必要がある。幸い、俺たちは魔法を使えるのが三人いる。
俺が先頭にたち、すぐ後ろをシャルとナタリーが歩く。その後ろにリーゼとマイラが並び、アルは最後尾を歩くことになっている。
これは後方から襲われた時に物理で対応するのにはアルの力が必要だった。リーゼも剣士なので可能かもしれないが、アルとは実力差がある。リーゼはシャル達に守られているということに少しだけ納得していない表情をしていたが、シャルから説得されたら首を縦に振るしかない。
それが皇族と貴族令嬢の身分差なのだから。
戦力外宣告をされたリーゼやマイラは、役に立とうと地図を開き道案内をするつもりだろうが、俺には必要がない。
自分の記憶を辿り、いくつかの角を曲がっていく。
「トウヤ! そっちは道が違うわよっ! 階段はこっちのはず……」
「いいからついてきて。あとで説明するから」
俺のたどり着いた場所は行き止まりだった。本当に正面に壁があるだけの行き止まり。
「地図にもここは行き止まりって描いてありましたよ? どうしてこんな場所に……」
俺は気にせず壁に向かって進み、その壁にゆっくりと手を当てる。
その手は壁に吸い込まれるように――消えていった。
――やはりそうか……。
俺はそのまま進むと壁の向こうにある螺旋状の階段が見えた。
一度皆の場所に戻ると、全員がおどろいたような表情をしている。
「トウヤ……一体何があったの……?」
リーゼも何度もこのダンジョンに潜っているからこそ余計に驚いているようだ。
「あからさまな行き止まりで誰も調べてなかったんだろう? ここに隠し通路があった。ここから下に降りるぞ」
もう一度壁をすり抜けていくと、後を追うように全員が壁をすり抜けていく。壁を抜けたところに広がる光景に一同唾を飲む。
「本当だ……こんな場所が……」
「信じられない……」
「まぁトウヤが規格外なのは前からじゃったしのぉ……」
リーゼとマイラは驚いているが、シャルとアルは呆れ顔だ。
「この螺旋階段の続く先は……?」
ゲームと一緒ならばこの先は十階にある守護者の部屋のすぐ近くだ。確証は得られないから言うつもりはない。
「まだわからない。でも確実にジェネレート王国の奴らよりは先に進めることはたしかだ」
俺が先頭に立ち階段を下りていく。ここのルートは魔物などでない。本当は連携などを確かめるのも必要なのかもしれないけど、正直俺だけで最下層までは行けると思ってる。しかしダンジョンコアを守る魔物がヒュドラ#アレ#であったら俺一人で勝つのは難しいと思う。
……あくまで同じ強さだったらの話だが。
実際に今まで戦ってきた魔物はゲームの時よりは弱い。アースドラゴンなど一撃で倒せるなどゲームではありえない。
しかしそれは俺たちにも言えたことだ。ゲームと違って死んだら生き返ることなど出来ないのだから。
だからこそ人は臆病になりレベル上げが難しくなっているのは容易に想像がつく。
無言のままニ〇分ほど階段を下りていると最下階に到着した。
「ここから一体どこに出るの……?」
俺も確証はないから答えない。ただ、出口の方へとゆっくりと歩いていく。
裏側からは真っ黒に見える壁をそのまま素通りする。
出た場所は予想通りだった。
「えっ、ここって……」
「多分思った通りだと思う。すぐそこが一〇階の守護者の部屋だ」
「こんなことって……。今まで一体なんだったの……。前にここまで辿りついた時は……」
悔しい気持ちもわかるが、経験もない冒険者がここまでたどり着いたとしても守護者に返り討ちにあうだけだ。この階層までくるまでに魔物と戦いレベルを上げることによって初めて守護者と戦う権利を得られると思う。
今回はジェネレート王国との勝負でもあるし、あの勇者#ラルクス#に負けないことが最優先だからこの手を選んだ。
レベル上げもしたいのは本音だが、そうも言ってられない。
俺は目の前にある大きな守護者がいる扉に手をかける。そのまま扉を開くと中は円形の広場のようになっている。
中央には魔方陣が描かれており、冒険者たちが中に入り、扉が閉まると守護者が召喚されるのであろう。
全員が中に入ると、ゆっくりと扉が閉まり、同時に魔方陣が光り始める。
「一〇階の守護者はオークジェネラルと取り巻きのオークのはず」
リーゼが今までの経験から教えてくれる。
「うん、急いで抜けるつもりだからさっさと終わらせるよ」
現れたのはリーゼの言っていた通り、黒い身体で他よりもふた回りも大きなオークジェネラルが一体とオークが三体。
こちらを見て獲物を見つけたとばかりに咆哮を上げるオークジェネラルに向かって一気に駆け抜ける。
次元収納からバスターソードを取り出し、一気にオークジェネラルの首を一閃する。唖然として動きを止めたオークも次々と斬り倒し一分も経たずに戦いは終わった。
「……圧倒的……。ジェネラルですら相手にならないなんて……」
マイラが呟くが俺の耳には届いた。
「あ、トウヤ! ワシの経験値がっ! 何勝手に倒してるのじゃっ‼」
ナタリーだけは発想が違ったらしい。あくまでレベル上げに拘っているらしく、このダンジョンでもレベルを上げるつもりなのだろう。
「これから先はもう近道はないから、次からは任せた」
消えていった魔物が残した魔石を拾い上げ、そのまま次元収納に仕舞う。
ここから先は近道などない。単純に魔物を倒しながら進んでいくしかない。
全員が頷いたのを確認し、下の階層へ下りる扉を開いて進む。広がっているのはゴツゴツした採掘現場のような通路だった。
「このフロアに出てくるのはロックリザードです。前に来たときも硬くて苦労した記憶が……」
リーゼが苦笑している。剣士としてよほど苦労したのかもしれない。
ロックリザードは二本足のトカゲで頭から背中にかけて岩のようなゴツゴツした身体となっており、背中は硬くて有名だ。その分腹は柔らかいのだが、獲物を見つけると二本足だったのが四本足になって襲いかかってくる。
二メートルほどでそこまで大きくはないが、群れで襲ってくるので厄介な相手だ。しかし魔法には弱く魔法を得意とする者にとってはカモとも言える。
「アルとリーゼはナタリーとシャル、マイラを援護する形で頼む。魔法をメインで撃退していく」
俺の言葉に全員が頷き警戒をしながら進んでいく。もちろん俺は探査#サーチ#を使っているが、ダンジョン内部の場合は探査範囲が狭められているようで数十メートルの範囲しかわからない。でも、それで十分だ。不意打ちさえなければこのメンバーなら問題なく突破できる実力を持っている。
リーゼの先導で進んでいくとさっそく反応があった。
「もう少し先に五体いる」
俺の言葉にリーゼがいち早く反応する。
「……そんなことがわかるの……?」
リーゼとマイラには言っていないからな。探査#サーチ#はナタリーの研究資料から俺が創った魔法だからな。言わば合作魔法とも言える。
「わしも使えるぞ! トウヤより広く感知はできないけどのぉ」
「……今度、教えてください」
ナタリーは笑って胸を張り、マイラは羨ましそうに懇願をする。マイラはリーゼの護衛も兼ねているから知っておいたほうがいいだろう。
このダンジョンを攻略してから教えるのもいいかもしれない。
まずはこのダンジョンを攻略するのが優先だけど。
進んでいく先に予想通りロックリザードが五体現れる。俺たちに反応すると、鳴き声を上げ味方に知らせる。五体のロックリザードは獲物を見つけたとばかりに俺たちの方を見て長い舌を出す。
二足歩行だったロックリザードは、ゆっくりと前足を地面に付け四足歩行になると一気に襲いかかってきた。
「きたぞっ! 魔法で攻撃しろっ! リーゼとアルは三人を守れ」
二人は剣を構え、三人は次々と魔法を放っていく。
『燃やし尽くせ、火矢』
『真空刃』
『土の精霊たちよ、魔物を射貫け』
マイラは完全無詠唱とまではいかないが、短縮詠唱ができるようだ。ナタリーは賢者といわれるだけあって、無詠唱ができるが、シャルの精霊魔法だけは無詠唱が出来ない。精霊にお願いして現象を起こす魔法だから仕方ない。
五体のロックリザードはリーゼ達が手を下すまでもなく殲滅された。
「みんな強い……」
「私と威力が全然違う……」
リーゼはシャルやナタリーの強さに驚き、マイラも自分と威力の違いに驚愕♯きょうがく♯している。
まぁ無理もないと思う。三人にはチートアイテムの指輪を渡しているし、リーゼたちともレベルが違うと思う。
……あいつらの努力の賜物だからな。
少しだけあのシゴキのような森での訓練を思い出す。
残り五層はBランクからAランクの魔物が現れるが、シャルたちの相手にならなかった。
リーゼやマイラも善戦するが、やはりレベルの差があるのか実力不足が伺える。それでも強敵と戦ったことでレベルアップをしているようで、カードを見て一喜一憂している。
そして最下層へとたどり着いた。




