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第4話


 朝ゆっくりと起きて、カーテンを開けると太陽がでていた。着替えてから朝食を取るために食堂へと向かう。


「おはようございます。朝食をお願いしますね」


 受付にいたリビンに声を掛けると、満面の笑みを浮かべていた。


「あらあら、今日はゆっくりなのね。メイアはもう仕事に出かけたわよ。それにしても――」


 じっくりと見つめられると背中に悪寒が走る。勘違いをしているのかもしれないが、間違いだった時恥ずかしいから自分から聞くことはしない。

 昨日と同じようにカウンターに座ると、数名食事をしていたが冒険者風の者は誰もいない。

 朝食はスープとパン、そしてサラダだった。のんびり食べていたらリビンから何を言われるかもしれないと思い、さっさと済ませて部屋へと戻った。

 冒険者の装いに戻し、鍵を預けて宿を出る。


「ふぅ。変な依頼を出されなければいいんだけどな……」


 のんびりと一〇分程度かけてギルドへ到着し、中へ入ると視線が集まるが、すぐに視線を外す人と熱い視線を送ってくる冒険者たちに分かれた。

 俺の存在に気づいた冒険者数人がいきなり駆け寄ってきて頭を下げてきた。


「昨日は回復ありがとうございました。お陰で助かりました」

「「ありがとうございます」」


 すでに二〇代で俺よりも年上とわかる冒険者たちが、まだ若い俺に頭を下げてお礼を言ってればいやでも視線は集まった。


「俺も依頼として受けただけですから気にしないでください。もう体調は大丈夫ですか?」

「もちろん、前に負った傷まで綺麗に治ってたし本当に感謝しかない」


 囲まれた冒険者たちと握手を交わしてから、カウンターに向かう。

 数人の受付嬢がいたが、メイアがいたのでその列に並ぶと、数分で出番になった。


「あ、トウヤさん。おはようございます。よく眠れました?」

「うん。いい部屋を紹介してくれてありがとう。料理も美味しかったよ」

「それなら良かったです。これからもこの街にいる間はうちの宿をお願いしますね」


 もちろん、文句のつけようがないので素直に頷く。


「今日呼ばれていることなんだけど……」

「あ、そうだ。ギルドマスターが呼んでるんです。すぐに案内しますね」


 メイアの後を追い、階段を上りギルドマスター室へと向かう。

 扉をノックし、俺が来たことをメイアが伝えると、すぐに入室許可が出た。

 部屋に入ると相変わらず自分の席で黙々と書類の決裁をしていた。


「そこに座っててくれ」


 エブラントの言葉に頷き、ソファーに座る。メイアは二人分の紅茶を入れるために部屋の隅で用意をしていた。

 目の前に置かれた紅茶を飲んでいると、きりが良くなった作業を止めたエブラントが目の前に座る。


「待たせたな。メイアは少ししたらアレ(・・)を応接室に案内しておいてくれ」

「わかりました」


 メイアは一礼した後に部屋を出て行く。


「この街の状況はある程度わかっただろう? それで森の調査の依頼を頼みたいんだ。この街にいる最上級冒険者でもBランクに成り立てだ。とてもじゃないが今回の依頼を出せない。だからといってそいつらを無視する訳にもいかない」

「もしかしてそのBランクたちのお守りをしろと……?」


 俺の言葉に満足そうにエブラントは頷く。


「あぁ、その通りだ。四人組でまだ若いがそれなりの技量はある。そいつらはこの街には必要な存在だから絶対に死なす訳にはいかないんだ」

「だからといって、俺がその四人のお守りをするって言って納得してくれるのか? プライドが高いなら余計に反感を買うだろう」


 少なからずBランクであるならば街でも上位にあたるはずだ。若くしてそのランクになったのなら余計そう思うはず。いくら俺がさらに上のAランクだからと言って納得できる訳ではないだろう。


「まぁ確かにそうだな。それは俺に任せておけって」


 ギルドマスターとなれば腹芸の一つや二つは出来ると。そういえばどこの街のギルドマスターやサブギルドマスター達も腹芸は達者だった気がする。何回も踊らされた事に思わず苦笑する。

 そんな時扉がノックされた。メイアが入室し四人を応接室に案内したと報告にきた。

 きっと俺が護衛をする四人組だろう。


「それでは行くかの」


 メイアが先導し、俺とブライトルは後を追い応接室の一つへ入る。

 席に座っていた冒険者は男女二人ずつ……。あれ、こいつらって……。


「ギルドマスター、何の用なのよ。森の調査は禁止されているし、やれることはないはずよ?」


 部屋で待っていた四人は、昨日街でぶつかった四人だった。明らかにイラついている様子だ。

 声を上げた女性剣士は確か……リーゼだっけか。あちらも俺の顔を見て気づいたようで少しだけ驚いた表情をする。


「あ、昨日の……」

「えぇ、そうですね。昨日はどうも」


 軽く頭を下げて肯定し、エブラントとともに席につく。


「まぁまぁ、条件付きで許可を出そうと思って呼んだんだ。悪い話じゃないだろ?」


 ブライトルの言葉に四人も少し落ち着きを取り戻したようだ。


「それで何よ、その条件ってのは……もしかして……」


 四人の視線が俺に集まった。


「そのまさかだ。隣にいるトウヤ殿を森の調査に同行させるなら特別に許可を出そう」


「「「「……っ⁉」」」」


 男二人の厳しい視線が向けられるが、俺は気にしないことにする。確かガルドとジルだっけか……。

 ブライトルもその視線に気づき、ため息を一つ吐いてから言葉を続ける。


「不本意なのは十分承知しているが、お主たちも回復術師(プリースト)がほしいであろう。トウヤ殿は回復術師(プリースト)としても優秀だからな。知ってるだろう、先日の訓練場のケガ人を一人で回復させたのが――トウヤ殿だ」


 ブライトルの言葉で少しだけ俺を見る目が変わったような気がする。特にリーゼとマイラの二人は肯定的に変化していった。


「……そいつが優秀だから、お守りしながら調査をしろっていうのか。見くびられているんだな、俺たちは……」


 ガルドはブライトルの言葉に納得していないのか、敵意を向けてくる。


「いや、お守りを頼んだのはトウヤ殿だ。未熟なお前らのためについて行ってほしいとな」


 あからさまに煽るブライトルに一気にガルドとジルの顔が真っ赤になる。怒りで拳を握りこみ今にも殴りかかりそうだ。

 こんなに煽っても仕方ないと思うが、もしかしたらブライトルに何か考えがあるのかもしれない。


「こんなクソガキに俺たちのお守りをさせるのかっ⁉ おい、どうなんだよっ」

「あぁ、その通りだ。確かにトウヤ殿はお前らより若い。だが……Aランクとしての実績として考慮させてもらった。どうだ? Aランクじゃ不服か?」

「Aランクだとっ⁉ こんなガキがっ⁉」


 信じられないような表情をするガルドとジルに、俺はギルドカードを取り出してテーブルにおく。


「Aランク冒険者で回復術師(プリースト)のトウヤです。よろしく」


 リーゼは俺のギルドカードを手に持ち、内容を確認する。

 その持っている手はギルドカードに記載されている内容を見て信じられないような表情をした。


「……うそ……本物……しかも……レベル、47⁉」


 隣から覗き込んでいたマイラも同じように驚愕の表情をする。俺のレベルを聞いてガルドとジルも信じられないといった表情だ。


「「「…………」」」


 応接室の中は無言となった。

 信じられないというのも仕方ない。まだ成人したての少年が国でもトップクラスと言われるような存在などと信じられる訳がない。


「……もしかして……エルフとか……?」

「いえ、普通の人間族ですよ。そこに書いてある通り一六歳です。冒険者となってからはまだ数ヶ月ですけど……」


 マイラから問われた疑問を否定し、あくまで普通の人間だということを説明すると、余計に困惑している。誰だって不可能だと思う。俺だって経験値一〇〇倍なんてチートアイテムがなければ〝賢者〟なんて職業につくことなど出来なかっただろう。


「……信じられない……うそよ、こんな……」


 力なくリーゼの手からテーブルにこぼれ落ちた俺のギルドカードを拾い、自分の懐に仕舞い込む。

 反抗する気もなくなった四人にエブラントは話を続ける。


「どうだ? わかっただろう。これがAランクの冒険者だ。見た目だけで判断するのは間違っているのがよくわかっただろう。これでトウヤ殿が同行しても問題ないな?」


 ブライトルの強めの言葉に、四人は素直に頷いた。

 素直になった四人にブライトルが依頼の内容を説明していく。

 今後、冒険者を集め、ダンジョンに対し、レイドアタックをかけるために、現在のダンジョン周辺の魔物の調査が必要らしい。

 ダンジョンの攻略をするつもりが、魔物が多くて辿りつけないのでは仕方ない。ある程度の魔物の分布を調べて必要ならば処理してほしいとのことだ。


「……それで倒した魔物はギルドで引き取ってくれるの?」

「もちろんだ。と言いたいところだが、低級の魔物の素材などいらないぞ? オークなら街での需要もあるし喜んで引き取るけどな」


 実際に街の食卓にオークは欠かせない。脂肪分をよく含んだ肉はステーキにもシチューにもよく合う。昨日宿で食べたシチューの肉もきっとオークだろう。それだけ一般的に親しまれた食材である。


「それなら俺も協力できるかもしれませんね。次元収納(ストレージ)持ちなので」


 何もないところから杖を取り出して証明しながらさらに言葉を続ける。


「ある程度の量は持てると思ってください。まぁ何事にも――限度はありますけどね」


 正直言えばいくらでも入ると言える。同じ種類であれば俺の次元収納(ストレージ)は99ずつ入る。

 流石に建物など同じ物はないので、一つにつき一枠使うのはすでにわかっている。


「Aランクで……次元収納(ストレージ)持ちなんて誰でも欲しがる……」


 なんだかマイラの視線が向けられているのはわかっているが、気にしないでおこう。


「――わかったわ。ギルドマスターの言うとおり、トウヤさんを私たちのチームに迎えます」


 リーゼの言葉にブライトルは満足そうに頷いた。ガルドとジルも眉を寄せるがリーゼが納得したことに仕方ないと諦め頷いた。


「改めて自己紹介するわ。私はリーゼ、剣士をやってるわ」

「わたしはマイラ。魔術師(マジシャン)。風魔法が得意。よろしく」

「俺は……ガルド、盾役(タンク)兼戦士だ。攻撃もするけどな」

盗賊(シーフ)のジルだ。斥候がメインでやってる。まさかそこまで強いとは思わなかったよ。よろしく」

「改めてこちらもよろしく。普段は帝都にいるが、ちょっと休養のためにこの街へきたトウヤだ。職業については書かれている通り回復術師(プリースト)だ。次元収納(ストレージ)もあるから気軽に荷物を預けてくれ」


 複数日に亘る依頼の場合、必要な大量の荷物は冒険者たちにとって一番の悩みである。上級冒険者であれば、奮発して魔法鞄(マジックバッグ)を持つ者も増えているが、魔法鞄はダンジョンなどの宝箱から出てくる希少品であり市場に出回るのは珍しい程だ。

 容量が小さくても金貨数枚で取引され、容量が大きい物であれば白金貨で取引される。

 俺の次元収納(ストレージ)は容量の限度などあんまり考える必要ないけどな……。それに甘味などは食いしん坊たちのせいでかなり減ったし、それでなくてもまだ空き容量はいくつも残っている。


「私は魔法鞄(マジックバッグ)を持っているけど荷物だけでいっぱいで素材はそこまで入らないわ。頼むことになりそうだけどよろしく」


 リーゼの言葉に頷く。全員の挨拶を終えるとブライトルも満足そうな顔をする。


「よし、全員納得したな。この五人で森へと入るなら許可しよう。もし、勝手に森へ入っている奴らがいたら追い返すのも忘れずにな」


 いくらギルドで森へ入るのを禁止されたからといって、収入源を得ようと森に入ってる可能性もあるってことだな。


「それで……明日から森に入りたいんだけど、どうかな?」


 正直この街にいても何もすることもないし、必要な物は全て次元収納(ストレージ)に入っているから問題ない。


「あぁ、明日からでも問題ないです」

「それなら明日の朝食後、この街の東門に集合でいい?」


 特に問題もないので頷くとリーゼも満足そうに笑みを浮かべた。


「依頼票はメイアから出しておくから受付でもらっておいてくれ。話は終わりだ」


 ブライトルの言葉に全員が頷き、応接室を後にする。

 ホールでは代表者のリーゼが受付へと向かい、依頼を受けることになった。


「それじゃ、明日。遅れないようにね」

「明日からよろしくお願いします」


 いくらランクが上であっても、この街の冒険者を下に見るつもりもない。軽く頭を下げ挨拶をした後ギルドを後にした。

 市場を巡り補充する食料などを購入し、次元収納(ストレージ)に仕舞っていく。

 途中の屋台で昼食を取り早めに宿へと戻った。



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― 新着の感想 ―
やはりお守り依頼されちゃうのね。
[一言] 反抗する気もなくなった四人にエブラントは話を続ける →反抗する気もなくなった四人にブライトルは話を続ける
[一言] 軽く頭を下げて肯定し、エブラントとともに席につく。 ↓ 軽く頭を下げて肯定し、ブライトルとともに席につく。
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