第20話
賢者ナタリーを探すためにサランディール王国へ逃げる途中のシャルロットとナタリーを助け、追っ手のジェネレート王国の兵士を打ち破ったこと。
王女たちを賢者ナタリーと引き会わせ、サランディール王国滞在中の二人の保護を行ったこと。
ジェネレート王国からの使者の圧力に屈した貴族と、冒険者ギルドからの追っ手を、冒険者でありながら敵対し、撃退したこと。
シャルロット、アルトリア、ナタリーのレベル上げに協力し、森を抜けてリアンへ導いたこと。
リアンを襲撃しようとしたジェネレート王国の指揮官を捕らえ、武器を全て放棄させ撤退させたこと。
協力者とともに帝都に侵入し、地下牢へ忍び込み王国兵を倒し、皇族の三人を救出したこと。
帝都奪還において冒険者ギルドとともに策略を用い、ジェネレート王国の指揮官である第三王子を捕らえたこと。
奪還後も帝都復興を冒険者ギルドとともに協力したこと。
俺の功績を聞いているが、確かに全て自分でしでかしたことだとわかる。
改めて聞くと恥ずかしいとしか言いようがない。確かに一人では出来ないことだったし、あくまで俺は冒険者として〝依頼〟を受けていたに過ぎない。
それでも俺の功績を読み上げられることによって、参列している貴族達からも感銘の声が上がった。
一人では到底できない程の功績だ。
もし、貴族だったらどれだけの褒賞を受け取ることになるのか。あくまで俺は冒険者として依頼を受けただけだし、報酬も決まっているから聞いているだけだ。
全てが読み上げられると、参列している貴族達から大きな拍手が起こった。
「静まれ。それではトウヤ殿の褒賞を伝える。トウヤ殿は――――侯爵に叙爵とし、我が娘、シャルロット及び近衛騎士副団長アルトリアと婚姻を結ぶこととする。それと帝都内に屋敷を授ける。但し、領地はなしとし、基本的に帝都を拠点としてもらうが、貴族の義務は負わせない。それと支度金として――――」
思わず目を見開き、唖然とする。
貴族になるのは拒否したよな? しかもシャルとアルと婚姻だと? 領地については通してもらったみたいだが。
それでも納得できるものではない。
咄嗟に皇帝とガウロスに視線を送るが、黙って頷くだけだった。
この場で怒りを露わにして退席してもいいが、さすがに大人げないのはわかっている。もしかしたら何か問題があるのかもしれないし。後でじっくりと聞かせてもらうしかない。
「――――以上でトウヤ殿の褒賞を終わりとする」
「――――あ、ありがたく褒賞をうけさせていただきます」
一度頭を下げて、ガウロスの横に戻る。
「ガウロス、……知ってたな……?」
俺が視線を向けずに声を掛けると、ゆっくりと頷く。
「それについては、後で説明させてくれ。受けてくれないと大変な事になりそうだったのでな……」
「大変なこと……?」
「あぁ、それは後で説明する。こちらも色々とあったのだ」
「わかった。もしつまらない理由だったら皇国あたりに出国するからな?」
「……それは困る。お主に逃げられるのはな」
それで言葉を一度切った。
どっちにしても、この場で説明を受けることはないからだ。
少しだけ不機嫌な俺に向けて、皇帝の隣に座っているシャルから熱い視線が届く。
頬を紅くして涙目になりながらこっちを見てくるのを、冷たく躱せるのかとため息を吐く。
無事に式典が終わり、貴族達は各自の屋敷へと戻り、俺は案内されるまま応接室へと移動した。
あからさまに不機嫌な俺に、待ち構えていたのは皇族の四人、そしてガウロスを含め数人の貴族たちだった。
「まずは座ってくれ」
俺は皇帝に頭を下げる訳でもなく、そのまま不機嫌そうに席へと座る。
「トウヤ殿、不機嫌そうだのぉ。まぁ、その気持ちを分からなくもない。しかしな、どうしても叙爵しなければいけない状態だったのだ」
どうして〝いけない状態〟なのか理解が出来ない。しかも、シャルとアルの二人の婚姻についても認めた覚えはない。
「実はトウヤ殿の功績については、ある程度貴族たちに出回っていた。しかもトウヤ殿は独身で見た目も良い。そして何よりも強い。娘を持つ貴族達は何を考えるかわかるか?」
「それは……」
容易に想定がつく。自分の配下とするか、娘と婚姻させる。何かあったら貴族の特権を利用する。
それはどこの国も一緒だ。
「ただの冒険者でいたら、貴族によっては何をしでかすかわからんからな。しかし、トウヤ殿は簡単にその権力を弾き返すだろう。そのときに、勧誘した貴族もそれなりの代償を払うことになるだろう。それを防ぐために今回叙爵させてもらった」
「簡単に言うと、自分の国の貴族を守るためですよね……」
「あぁ、そうとも言えるかもね。それでもトウヤ殿にもメリットはあるはずだ。領地の経営も貴族の義務も果たさなくて良いと言ってるんだからね。しかも下手に貴族に言い寄られても侯爵という立場上、あちらも強く言えないはずだ。侯爵位より上位はこの帝国に公爵は二家しかないからね。そのうち一家であるガウロスが後ろ盾になるんだ。しかも皇女も嫁ぐから、必要ならわたしも後ろ盾になろう」
伯爵や侯爵はいくつかあるが、公爵はルネット帝国に二家しかない。一つはガウロスであり、あともう一つはエルフ自治領をまとめている貴族だ。
各街を治めているのは、伯爵や子爵であり、侯爵に叙爵された俺に対して強くは当たれる筈もない。しかも、現皇帝と現公爵が後ろ盾とは……。
……よく考えたよな。自分の国の貴族も守れ、尚且つ、婚姻と貴族ということで、俺をこの国に縛り付けることも出来る。
まぁ貴族の義務もないのは温情ということか。
「まぁ……わかりましたよ。何かあれば……敵対した貴族の屋敷ごと破壊すればいいだけですしね……」
これだけは言っておかないとな。押しつけられたんだし。
何かあったら、その貴族の屋敷ごと次元収納に仕舞うという方法もある。
しかし、皇帝は帝都を脱出した時に、門を破壊した時の事を思い出したのか、その顔色は悪い。
「それよりも屋敷を手配している。すでにメイドも派遣しているからいつでも住めるぞ」
ガウロスが話題を変える為に口を挟んできた。
俺としてもありがたい。いつまでも城に住んでいたら気が休まらないし、フェリスとの時間も少なくなる。
城にいると、フェリスはあまり外に出たがらない。何か理由があるんだろうが、フェリスがそれを語ることはないので分からないままだ。
「それなら今日にでも……。見てみたいですしね」
「城から離れていない場所に用意させてあるから、すぐに馬車を用意しよう」
「いえ、のんびりと歩きたいので場所さえ教えていただければ大丈夫です」
「そうは言っても、一応公爵という立場もあるから……今日は馬車で行ってくれんかのぉ」
徒歩で行くことに難色を示すガウロスに仕方なく頷いた。
屋敷についてから周りを散策するのも悪くないしな。
「それではお言葉に甘えて。少しの間のんびりとするつもりなので屋敷に籠もっているかもしれません。何かあれば連絡をください」
「わかった。そうしよう」
話が終わったので早々に部屋を出ると、メイドの案内で城の外へ出た。
すでに連絡が伝わっていたのか、馬車が一台用意されている。
皇族用の馬車なのか、煌びやかで普通の馬車とはまったく違っていた。
「こんなの乗ってたら目立つよな……。屋敷に戻ったら自分の馬車を出しておくか……」
馬車へと乗り込み、御者が合図をするとゆっくりと馬車は動き出す。
一〇分もしないうちに屋敷へと到着した。
外から見ても馬鹿でかい屋敷がそびえていた。落ち着いた雰囲気で良さそうだが、一人で住むには大きすぎる。
門番の衛兵が二人待機しており、そのまま門をくぐり抜ける。屋敷までも距離があり、その途中は庭園が広がっていた。
「これ、一人で住むには大きすぎだろう……」
目の前に広がる建物を見て、思わず呟いてしまうほどの大きさだった。
すでに連絡がいっていたのか、屋敷の前には数人のメイド達が佇んでいる。
ガウロスからは、執事とメイドが数名、あと食事担当、厩舎担当、植栽担当など一〇名程度派遣されていると聞いていた。
俺が馬車から下りると、執事の号令とともに一斉に頭を下げた。
「「「「「トウヤ侯爵、おかえりなさいませ」」」」」
侯爵と呼ばれたことに、背中が痒くなる感覚を味わう。
「……皆、これから世話になるよ。よろしく」
軽く挨拶をした後、屋敷の中を執事によって案内された。
どの部屋も豪華に飾られていて、掃除も行き届いているようで埃一つない状態。
まぁこれに関してはフェリスがいるから問題はないと思っている。
ダイニング、リビング、浴室、寝室や客室など順番に案内され、最後に晩餐会を行うホールに案内された。
「ここはお客様をお呼びして晩餐会を開く場所になります」
……そんなの開くつもりもないんだけどな……。
しかし、そうも言えず素直に頷く。
「以上で屋敷の案内は終わります。何かご質問があればお答えいたします」
「ああ、うん。今はないかな……。あ、あと紹介があるから一度ホールに全員集めてくれるかな」
「ただいま」
すぐに一人が席を外し、その後をゆっくりとホールへと向かう。
全員が集まった事を確認してからフェリスを呼び出す。
俺の言葉と同時に、胸の精霊石が光り、そこからフェリスが現われた。
家精霊がいることは事前に通知されていたのか、少しだけ驚いた表情をしていたが、態度にまで出ることはなかった。
「トウヤ……どうしたの?」
「ここがこれから住む屋敷だ。あと、ここの屋敷を管理してくれる人たちだ」
「……そう、わかった」
素っ気ない態度で、フェリスは従者達を一瞥していく。
「覚えた。もう大丈夫」
しかし、フェリスが現われた事より、家精霊#エレメハス#が会話をしている事に驚いたらしい。
全員が口を半開きにし、フェリスを見たまま固まっていた。
「あ、フェリスは会話できるから。よろしくね」
俺の言葉に固まっていた全員が大きく頷くのであった。
こうして俺の侯爵としての生活が始まった。




