第19話
帝都は過去最大という程賑わっていた。
この二〇日間のんびりとしているつもりだったが、そうもいかなかった。
グルシアから呼び出しを受けて、毎日のように依頼をこなすことになった。
ほとんどが瓦礫の撤去という、次元収納頼みの依頼ばかりだった。
それでも、城から援助がかなり出ているらしく、他の冒険者と一緒に瓦礫を処理していた。
俺が参加してから数日で破壊された門や屋敷などがなくなり、所々寂しいスペースはあるが、それでも式典と祭りを十分に開ける程度まで回復した。
各街からも商店が帝都に派遣され、ルネット帝国復興へ向けて賑わいを増していく。
俺はそんな中、メイド達から色々な衣装を着せられた人形となっていた。
しかもシャル達に見られながらという羞恥に耐えながら……。
「トウヤ様、次はこちらを着てみましょう」
貴族が着るような服が何着も掛けられたハンガーから、シャルやアルが次々と持ち出し、それをメイドが俺に着せていく。
……なんでこんな事になってるんだ……。
正直、いつものローブ姿じゃだめなのか? 俺、冒険者なのに……。
「主役がその格好ではまずいですよ。褒賞もあるのですから」
シャルやアルはすでに服装は決まっているらしく、俺が冒険者の依頼で数日間、冒険者ギルドの近くの宿屋に宿泊していたことで衣装選びが遅れたのだ。
いや、ギリギリまで教えるのを控えていたらしい。俺の逃走防止として……。
言われるがまま着せ替え人形になった俺は、シャル達も納得したような貴族服を身に纏った。
「トウヤ様、とても素敵です。これらなら人前に出ても問題ありませんよ」
「トウヤさん、素敵ですよ! 本当は、私と一緒に鎧で出て欲しいですが……」
シャルはドレスで出席だが、アルは現在、近衛騎士団に所属している。白銀で彫刻がされた近衛騎士団の鎧を身に纏い、真っ白なマントを着ている。
いや、正直言うとその格好をするのも恥ずかしいんだが……。
着ている衣装を鏡越しに見て、思わず苦笑するがこれで決定らしい。まぁセンスは悪くないし良いかもしれない。
周りにいるメイド達も納得したようだった。
「それではわたし達は先に行ってますね。式典で会いましょう」
「トウヤさん、またあとでっ」
シャルとアルの二人は手を振りながら部屋を出て行った。
俺も案内役の執事とともに、謁見を行う場所に向かう。会場の近くには帝都に来た貴族達の控え室もあり、廊下には幾人もの貴族当主と思われる人たちもいた。
皆、それなりの年齢であり、若く見える俺に視線を送りながら話し合っている。
居心地が悪いな、と思いつつ控え室の一部屋へ案内された。
執事がノックをすると、中から声がし、扉を開けて中へ入ると、部屋ではガウロスが寛いでいた。
「おぉ、トウヤか。……それにしても見違えたぞ。今日は――楽しみにしておるぞ」
何か誤魔化したような気がするが、まぁいいかと思いつつガウロスの向かいの席へ座る。
すぐに控えていたメイドが紅茶を淹れてくれ、乾いた喉を潤した。
「それにしても、俺がこんな格好をする必要があるのか……?」
冒険者として参加したのなら、いつもの格好でも良さそうな気がしたが、シャル達を含め断固として拒否された。
「それは仕方ないだろう? お主が今回の主役みたいなもんだしな」
「俺はあくまで依頼をこなしただけだ。すでに報酬も決まっているしな。今回の場に出るのもどうかと思っているよ」
実際、貴族達の集まりに参加したいと思っていない。このルネット帝国はサランディール王国のクソ貴族のような者と会っていないが、あくまで『会っていない』だけであり、どのような貴族がいるかわからない。
顔見知りなのは目の前にいるガウロスや皇帝たちだけである。
だからと言って、ただの冒険者である俺が、いつまでも皇帝やガウロスと話している訳にもいかないのだ。
雑談をしながら今後の復興の話をしていると、扉がノックされメイドが呼びにきた。
「皆様お集まりになっております」
「あぁ、わかった。ほら、トウヤ、行くぞ」
二人で席を立ち、メイドの案内で式典の部屋まで案内される。
どこに並べばいいかわからない俺は素直にガウロスの後を追う。
部屋に入ると、礼服を身に纏った貴族達が雑談に花を咲かせていた。帝都の奪還を終えたからか、その表情は明るい。
獣人やエルフなども亜人も多くいるが、やはり人族が一番多かった。各種族毎に集まって話しているのが多いが、種族間で仲が悪いということはなさそうだ。
ガウロスが部屋に入ったことで、その雑談が一斉にやみ、視線はガウロスと俺に集まる。
何となく居心地が悪いな、と思いつつガウロスの後ろを歩いて行く。ガウロスのついた場所は玉座近くであった。
「トウヤ、ここに座れ」
言われるがまま用意された椅子に座る。
この会場では基本的に椅子は用意されておらず、各自が立ったまま雑談を交わしている中、数少ない椅子に腰掛けていることで居心地が悪い。
貴族達もガウロスに挨拶をするために並び始めた。ガウロスも席を立ち出迎えたので、少し後ろに控えるように並んだ。
そんなに人気なのか、このガウロスは……。
「ガウロス様、お久しぶりです。今回の戦果、おめでとうございます」
「わしなど大した仕事はしておらん。兵達のおかげじゃな」
「そうですか……、そんなご謙遜を。それで――隣の青年は……?」
ガウロスに気を遣いながらも、視線をチラチラと向けてくる貴族に軽く頭を下げる。
「こいつはトウヤと言って、――冒険者だ。今回は世話になったからこの場に呼ばせてもらった」
「――冒険者ですか……」
貴族は眉間にシワを寄せ、怪訝な様子だ。この場にいるのは似つかわしくないだろう。
帝都の中では冒険者ギルドが情報を流したお陰で有名となってしまったが、貴族達には話がいってないのかもしれない。
しかも、一冒険者が貴族達の上席に座っているのだから余計にそう思うだろう。俺でもそう思う。
しかしガウロスは気にした様子もなく、次々と挨拶にくる貴族達に俺のことを紹介していく。
余りにも多いので、名前など覚えきれる訳もないが、友好的な者や敵意を向けてくる者もいた。特に友好的なのは亜人であり、敵意を向けてくるのは人族の貴族であった。
挨拶が終えた時にはどっと疲れがきて、椅子に腰掛けてため息を吐く。
ガウロスも同じ気分だったようで、すっかりとお疲れモードに入っていた。
「息子に全部任せておったからの……。久々にこれは疲れるわい」
「そうですよね……。隣にいるだけでも疲れましたよ」
「まぁ、これも貴族としての役目であるからな。あ、トウヤ、今日の褒賞についてだが、何を言われても全て受け入れろ。それがお前の為だ……」
ガウロスの言葉に思わず、首を傾げる。
全部受け入れる? なんでその必要が? 屋敷を貰うだけだろう。他にもあるのか……?
ガウロスが教えてくれないので、その場で対応しようと心に決めるだけにする。
雑談をしていたら、ホールに音楽が流れ始め、ガウロスは席を立ち、指定の場所へと動いていく。
「トウヤ、お主はわしの隣に立っておれ」
ガウロスの言うまま、隣に立ち待っていると、皇族が入場してきた。シャルや皇太子、続いて皇妃を伴って皇帝が入ってくる。
同時に全員が頭を下げたのを見て、俺も習って頭を下げる。
少しの間、頭を下げていると玉座から「頭を上げよ」の言葉と同時に頭を上げる。
皇帝は王冠をかぶり、堂々とした出で立ちでまさに皇帝と言わざる得ない。それだけの気品があった。
同じようにシャル達もいつもと違い優艶な笑みを浮かべている。
そんな中、皇帝が口を開いた。
「皆の者、こうしてこの帝都で再度集まれた事を嬉しく思う。わたし達は一度はジェネレート王国に敗れ、そして大事な同志を多く失った。しかし多くの手助けがあり、こうして帝都を取り戻し、再興を図れることをわたしは感謝し、そして――――」
皇帝は感謝とそしてこの国の再興へ向けての話を続けていく。
新体制を発表されたのだが、驚いた事に新しい近衛騎士副団長にアルがつくことになった。
団長にならなかったのは、シャル付きだからかもしれない。
そして筆頭宮廷魔道士にナタリーが再任すると発表された。一〇年以上までに職を辞してからの再任に貴族達からの驚きの声も上がったが、誰も文句を言う者もいない。
きっと誰もが子供の時に話で聞いたであろう〝黄昏の賢者〟が再任するということは、強国の復活を思わせる。
俺はただ、みんな大変になりそうだな、と思いながら話を聞いていた。
新体制の発表が終わると褒賞の授与に移る。
「今回の帝都奪還において褒賞に移りたいと思う。まずは、近衛騎士団長の亡きガレットに代わり、リアンの街からこの帝都の奪還、復興に多大な貢献をしてくれた、ガウロス。前へ」
「ははっ」
ガウロスは皇帝の前に行くと、そのまま膝をつき頭を下げる。
「ガウロスよ、この度はリアンからの出兵大義であった。こうして帝都を取り戻したのはお主の功績は多大である。よって――」
ガウロスの功績が述べられていき褒賞が渡された。リアンだけでなくもう一つの街を治めることになった。
さすがに遠地にあるため、代官を置くことになると思うが、それでもこの国での権威は上がることだろう。
褒賞の授与が終わり、ガウロスが隣に戻ってくると、俺の方を向きニヤリと笑う。
「次はお主だな。楽しみにしておれ」
正直、依頼を出した側と受けた側での関係しかない。すでに依頼に対しての報酬は決まっており、それを述べるだけだろう。
「それでは、今回の帝都奪還においての勲一等である――――トウヤ殿、前へ」
呼ばれた俺はガウロスを見習うように、皇帝の前に行き膝をつき頭を下げる。
「この度のトウヤ殿の戦果、この帝国においてこれほどの殊勲を上げた者は他におらん。参列の者たちも、このトウヤ殿が何をしたのか知らない者も多々おろう。まずはその戦果について説明しよう」
皇帝の言葉に、横にいた一人が功績を書かれた紙を読み始めた。




