第9話
ご無沙汰しております。運営さんから連絡がきちゃったので、書籍版まで更新予定です!
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しかも今までとは全く違う表情をしているアリスに思わず喉を鳴らす。
アリスはにっこりと頬を緩めた。
「まぁ座ってよ。これからからの事を説明するから」
アリスの言葉に頷き、武器を外し、外陰を次元収納に仕舞い、もう一つのベッドに腰掛ける。
「ちなみにこの宿を経営している夫婦も、協力者だから安心して」
アリスの言葉に探査を使い、この宿の状態を調べると、上階にはかなりの人数がいることがわかる。
帝都だからか、この宿は三階建てで一階は食堂と簡易的なシャワールーム、二階からが客室となっている。
それにしてもおかしい。
各階に四つほどの部屋があるが、三階にいる人数は数十人ほどいる。宿屋としては密度が高すぎる。
――考えられる事は一つ。
「――――アリス、上の階は誰かを匿っているのか……?」
俺の言葉にアリスの笑みは一瞬だけ消えて、そしていつものように微笑んだ。
「……やっぱりトウヤだね。ジェネレート王国に占領されて匿う必要があるのは……」
「――亜人だな。獣人に森人#エルフ#たちは、ルネット帝国では差別の対象ではない。しかしジェネレート王国は人族至上主義だ」
「その通り。いくつかの拠点で逃げ切れなかった人たちを匿っているの。もちろん助けられたのは全員じゃないし、捕まって奴隷にされちゃった人たちも数多くいる」
説明しているアリスも拳を握り、少しだけ悔しそうな表情をした。
これだけの情報を知っているのは普通の商人ではありえない。
すぐにアリスが何者だか察することができた。
「アリスは、密偵か何かなのか……?」
「フフフ。察しがいいね。わたしは各地にいる密偵の一人。でも、トウヤだったら本当の夫婦になってもいいよ?」
「冗談はそれくらいにしておいて、話を進めてくれ」
俺の言葉に口を尖らせ、視線を逸らしてからさらに説明を続けていく。
その説明は夕食の時間まで続いた。
アリスと共に食堂で夕食を食べているが、やはり三階の住民達が下りてくる気配はない。
少人数ながら食事だけをする客もおり、俺たちも他愛のない会話をしながら食事を進めていった。
シャワーを浴びてから部屋へと戻り、ベッドに座ってアリスと向かい合った。
「時間は限られているから。深夜から動くつもり」
「そうだな。俺も問題ない」
基本的に深夜であろうと、レベルのせいか問題なく動ける。廃狩りで慣れているので数日なら少しの休憩でも戦い続けることが可能だ。
アリスが少しだけ仮眠を取るというので、俺も少しだけ眠ることにした。
「ねぇ、起きて。そろそろ向かうわよ」
アリスの声で目が覚めた。すでに着替え終わっていて、なぜか黒装束を着ており、顔を布で覆っていた。
「おはよう。それにしても準備万端だなぁ。本当に密偵っぽい」
ベッドから出て俺も次元収納から衣装を探す。アリスみたいに密偵みたいな服は持ち合わせていないが、黒っぽい服装を選び取り出して着替えようと――。
「おい、何見てるんだよ」
パンツを着替えようとした時に、ふと視線を感じて振り向くと、アリスが凝視していた。
「いやいや、夫婦なんだから気にしないでいいからっ」
笑顔で答えるアリスに黒いコートを投げつける。
「これで顔でも隠しておけ」
そう言って、着替えを済ませ、投げたコートを取り上げて羽織る。
顔を隠すのは持っていないから、フードを被って顔を隠す。
「その格好なら問題ないかな。そろそろ行くよ。出るのは裏口からだから案内するね」
一階に下りるとそのまま厨房に入り、裏口のドアを開けて外に出る。
こいつどれだけこの宿に詳しいんだ? まぁここは拠点の一つと言っていたからなんだろうけど。
人目を気にしながら細い路地裏を歩き、二〇分くらいで、城に近い一軒の民家の前で止まった。
アリスはリズミカルなノックをすると、合図だったのか扉が開かれ、四〇代くらいの男が顔を出した。
無言のまま顎で入れと合図をし、俺たちは家の中へと入る。
家の中は普通の民家と変わらない。
男はついてくるように、と一言だけ言葉を発し、一番奥の部屋へ行くとベッドを横に動かし、床板を外した。
「ここから下りるぞ」
中を覗くと、縦に梯子がかかっており、順番に下りていく。
不謹慎だが秘密基地みたいで少しだけドキドキする。
全員が下りると、男はランプに火を灯した。中は長い洞窟のようになっており、長い間掘り進められた通路となっていた。
目の前の扉を開けると、そこには数人の男女がいた。皆、人族であり、部屋の片隅には武器が立てかけられている。
俺たちは大きなテーブルを囲う空いている椅子に座るように促され、そのまま席につく。
テーブルには地図が開かれていた。
「自己紹介は省かせてもらう。ここで自己紹介しても皆、偽名みたいなものだしな」
地下のこの部屋まで案内してくれた男がニヤリと笑う。
「あぁ、それは構わない。依頼とは関係ないからな」
男が地図の一点を指さし説明を始めた。
「この地下通路は城まで繋がっている。緊急時の避難ルートだな。そしてこの家を代々管理しているのが俺たちだ。何代にもわたってな」
この国の皇族が慕われているのがよくわかる。こうやって何代にもわたって秘密を守っている。何かあったときのために。
それは一生使わないかもしれない。今回は意図があって使わなかっただけなのかもしれない。
俺にはわからないが、ここにいる人たちは、この通路を守るために生きている。そんな気がした。
「説明した通り、緊急時の城から避難ルートということは、逆を辿れば城へと入れるということだ。実際にはまだ誰もいっていないがな」
「それは何故……?」
すぐに助けにいけば、今軟禁されている皇族は助けられたかもしれない。
「俺たちだけで皇族を助けようとしても、責任感の強い陛下は必ずその場に残ると言われるはずだ。この帝都の住民が人質となっている限りな……。だから俺たちは助けられる者を待ち、この秘密の通路を守っている」
「確かに……。それで俺を待っていた?」
「持っているだろう。証を。ガウロス様から預かっているはずだ」
思い出した。ガウロスから預かっている紋章は刻まれている短剣を。
俺は次元収納から取り出した短剣をテーブルに置いた。
「それだ。代々、証を持つ者の指示には皇族であっても従うと言われておる。〝導き手〟としてな」
そんな大切なものを俺に託したのか、あのガウロス#おっさん#は……。
「それに大人数で皇族を助けにいっても、すぐに発覚する。もし進入したのがバレて皇族に何かあったらどうにもならん。だからこそ導き手は選ばれるのだ」
「そして、案内役がわたしだよっ。わたしは城の中まで知っている。色々とあったからね」
アリスが口を挟んできた。
城の中を知っている? 密偵の役目とはいえ、商人であるアリスが?
「アリスはなんで城の中を……?」
「うーん、それは今ちょっとね。そのうち話すよ」
言葉を濁すアリスに疑問に思いながらも話を進めることにする。
「それで、俺が城に侵入するのは……?」
「それは今日にでも救い出してもらいたいが、こちらにも準備がある。一〇日後を考えている。今はリアンからの敗退で敵内部はガタガタしていて予測がつかないしな」
確かに決行は早いほうがいい。助け出すにしても、安否の確認をするにしても。
アリスと二人で城へ忍び込んで、皇族を助けるのが俺の依頼。
ランクとしたらどれだけ高難度なんだよと思わずため息が出る。
しかし、ここまできて断るとは考えていないし、助け出すのには俺くらいしかできないはず。勇者がいないこの城ならきっと負けない。だからこそ俺がやる必要がある。
「わかった。予定通り一〇日後に決行で。今日と同じ時間にまた訪ねてくるようにするよ」
「あぁそれでいい。その証を持つ君にしかできない依頼だからな」
地下通路の確認をしてから、俺たちは拠点を後にした。兵士の巡回があったが身を隠すように路地を進み裏口から宿へと戻った。
部屋へと戻り、着替えてからアリスとベッドに向かい合う。
「一〇日後が本番だな。案内頼むぞ」
「任せてっ! 明日の昼も街を歩くから早く寝るよぉ」
少しだけ離れているベッドに各自入り、アリスに背を向けて目を瞑る。
緊張による疲れからかすぐに眠りについた。
窓から入る陽の光で目が覚めた。
隣のベッドを見るとすでにアリスは起きており部屋には居なかった。
身体を起こし一度伸びをしてから、ベッドからおり一人の間に着替えを済ます。
「アリスどこにいったんだろ……」
部屋の鍵を閉め、下の食堂に下りるとアリスはカウンターに肘をつきのんびりとドリンクを飲んでいた。
俺に気づくと軽く手を振ってくる。
「トウヤ、おはよう。まだ食事してないし、一緒に食べよう」
アリスは自分のドリンクだけ手に持ちテーブルへと移動した。
食堂の中は朝なのに他の客がいない状態だった。
もしかして他に客は誰もいないのか。探査を無詠唱で唱えると、相変わらず上階には多くの反応がある。
やはり俺たち以外の客は全員亜人ということか。
すぐに宿の主人が出てきたので朝食を頼み、そのままアリスと今日の予定を確認をする。
「今日の予定はどうする? 昼間商業ギルドも行く予定だけど、トウヤが行きたい場所はある?」
正直言えば、冒険者ギルドにも行きたい。国が委託して経営しているとはいえ、多少の意向はあるが基本的に独立営業をしている。どうなっているのかも確認したい。
「俺は冒険者ギルドに行きたいかな。どうなっているのかの情報も欲しいし。まぁ依頼は受けるつもりはないけど」
冒険者ギルドという言葉に少しだけアリスの表情が曇る。
「冒険者ギルドにいくなら、わたしと夫婦にしておいて。ただでさえ依頼表もない状態で他国からきてるんだから」
確かにそうだ。もともと冒険者ギルドは種族問わずとなっているが、このルネット帝国は特に亜人比率が高いとリアンに居るときに説明を受けた。
今、ジェネレート王国に占領されているから、亜人の冒険者はいないはず。人族だけで賄うのは圧倒的に駒不足だと思う。
そこに他国からフリーの冒険者がふらっときたら、確実に捕まるかもしれない。
あくまで夫婦として護衛の直接依頼としていた方が安心かもしれない。
「――わかった。あくまで護衛最中としておくよ。もちろん夫婦というのは最終手段でしか言うつもりはないけどな」
「それなら分かれて行動しましょう。治安も落ち着いているみたいだし」
タイミングよく食事が配膳され、雑談を交えながら進めていく。
食事を済ませてから、一度部屋へと戻り、お互いに単独行動をすることになった。
事前に場所を聞いていたから、宿を出て一直線で冒険者ギルドへと向かう。
やはり広い道は軍が進んだ後だとわかる傷跡が多くみられた。冒険者ギルドは宿から二〇分ほどの場所にあり、すぐに見つかった。
扉を開けて中へ入ると、早朝だというのに人は疎らだった。やはり亜人の冒険者が全員逃げ出したか、捕らえられたことで一気に人が減ったのかもしれない。
建物の造りは基本的に一緒であったが、さすが帝都と言うべきか、受付カウンターの数など他の街と比べて多く、広く造られていた。
しかし多くあるカウンターは空席が多かった。
視線が一瞬集まったが、若造だと思われたのかすぐに散っていく。
まぁ普通に俺を見たら、新人の冒険者としか見えないよな……。
そのまま依頼ボードを見るが、貼られている依頼表は数が少ない。
俺はカウンターに近づき、暇そうにしている受付嬢に声を掛けた。
「サランディール王国から護衛で帝都に来たんだが、今はどうなってる?」
自分のギルドカードを懐から取り出しカウンターに置く。
「他国からでしたか。今は見ての通り閑散としております。高ランク冒険者は戦争に出てそのまま戻らず、亜人の冒険者も今回の戦争で……」
受付嬢は悲壮感を漂わせる。
しかし、いきなりギルドカードの中身を読むにつれ、目を大きく開くと、カウンターから乗り出してきた。




