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第23話 ダンブラーの街


「もう驚くのにも疲れたのじゃ……」


 家で紅茶を飲みながら、ナタリーは力なく言う。俺がナタリーの立場なら同じ事を考えるだろう。


「まぁ、俺の次元収納(ストレージ)は特殊みたいだからな……」

「特殊にも程があるのじゃ……」


 呆れるナタリーを置いて食事の用意を始める。

 キッチンは日本のシステムキッチンになっており、操作方法が分からない三人にはリビングで寛いで貰っている。

 どういう原理か判らないが、この家は電気、ガス、水道が普通に使える。

 異世界だからこれは仕様なのだ、と言い聞かせ、準備を進めていった。

 食事の用意が終わり、食卓を囲んで食事をしながら今後の動きを説明していく。


「明日にはダンブラーの街につくと思う。そこで買い物を済ませた後に森を抜けて帝国に向かうつもりだ」


 俺の言葉に三人が頷いた。


「わしはレベル上げもしたいのじゃ!小娘に後れを取るなど我慢できんのじゃ」


 指輪についての性能を説明してからは、自分の成長のために意気込んでいるナタリーに思わず苦笑する。

 しかし、ジェネレート王国との戦いにおいては、確実に戦力となるナタリーのレベルアップは必要であった。

 食事を済ませた四人は順番に風呂に入り、早々に今後の為に眠る準備をする。

 ナタリーにはまだ使用していない個室に案内したが、ふかふかのベッドに軽くて温かい羽毛布団にご満悦だった。


 ナタリーは「わし、ここの家に住みたい」と言い出すほどである。

 特にシャワー付きトイレを経験した後は、目を輝かせていた。

 確かに否定はできない。日本の住宅はよく考えられており、動線を含み環境は快適である。無駄に豪華なものはないが、機能的に効率良く作られているお陰で、数人で生活するなら問題はない。


 俺も個室に入り着替えた後に、ネックレスの石を握りしめ、フェリスに声を掛ける。


「フェリス、この家でも出てこれるのかな?」


 問いかけると、精霊石が輝き始め、目の前にフェリスが姿を現われた。


「ん。この家でも平気。魔力の塊みたいで居心地は良い。でも、その石の中が一番いいかも」


 片言だった言葉も成長したからなのか、引っかかりもなく流暢に話せるようになった。


「それなら良かった。明日からまた石の中にいてもらわないといけないけど宜しくね」


 俺の言葉に頷いたフェリスはそのまま、精霊石へと宿るように消えていく。

 部屋の電気を消し、俺も快適な布団に包まれながら意識は落ちていった。




 次の日。

 早朝に軽い朝食を済ませ、コクヨウに馬車を繋いで出発の準備をする。

 全員が出た事を確認してから、俺は家を収納する。


「何度見ても反則としか思えないのじゃ」


 ナタリーの言葉に二人は頷くが、俺は聞き流して準備を進める。


 三人が馬車に乗り込んだのを確認し、俺は御者台に乗りコクヨウに出発の合図をする。

 ゆっくりと進み始め、次第にスピードは上がっていく。

 普通の馬車の倍以上で道を進んでいくと、夕刻よりも早い時間にダンブラーの街へと到着した。

 少し手前で馬車を次元収納(ストレージ)に仕舞い、徒歩で街へと入る。

 ナタリーも帝国にいた際に冒険者ギルドに登録していたお陰で、スムーズに受付をすませられた。

 しかし、いつこの街にも追手がくるかわからない。

 宿をとった後、一部屋に集まり明日からの予定を説明していく。


「明日は二手に分かれて買い出しをしようと思う。ナタリーと俺は次元収納を使えるとしてーー」


 シャルとアルの二人をどちらに分けるか悩むと、シャルが勢いよく手を挙げる。


「わ、私がトーヤ様とご一緒しますっ」

「あ、ずるいっ」


 確かにレベルだけ見れば、盗賊だろうが兵士だろうが問題なく蹴散らすだろうが、街中でそうもいかない。

 鎧を着たアルだったら絡まれる事もないだろう。


「そうだな、シャルはついて着てくれ。アルはナタリーと必要な物を揃えてくれ」

「うーー、わかりました……」

「わかったのじゃ。ほら、いくぞ」


 肩を落としたナタリーを連れて出て行く。

 アルとは逆にシャルはご機嫌が良さそうに部屋を出ていった。

 

 夕食の後は各自自由時間と伝え、俺は宿を出る。

 行き先は――孤児院だ。

 あの護衛以来、久々にきたダンブラーの街の歩く。すでに陽は暮れて薄暗い中、スラム街へと入って行く。

 懐かしいな……と思いつつ、目的の建物にたどり着いた。

 戸はすでに締められており、俺は扉をノックする。

 二回程戸を叩くと、ドアの反対から声がする。

 

「……誰?」

「トーヤだ。久々にこっちの街に来たから顔を出しにきた」

「?! トーヤさん!? ちょっと待って。すぐに開ける」

 

 ガタガタと戸の押さえを外し、戸が開いた。

 前と変わらず、サヤは笑顔を向けてくる。「どうぞ」と言われ中へ入ると、そこには期待の目をした子供達が待っていた。

 ……明日、たっぷり買わないとな。そう思いながら子供達の中へと入って行く。

 

「おう、お前ら。腹減ってるか?」

「「「「「うんっ!!」」」」」

「よし、これから何か作ってやる。ちょっと待ってろ」

「トーヤさんっ!? ……そんな……」

 

 申し訳なさそうな表情をするサヤに笑顔で「気にするな」と一言だけ伝え厨房へ入って行く。

 前に料理を入れた鍋ごと置いていったが、綺麗に洗われて使っているようで感心する。

 作り置きしたスープを鍋ごと次元収納(ストレージ)から取り出して市場で買っておいたパンをカゴに山程乗せる。

 切り分けられたオークの肉を取り出し、一口サイズに切ってから塩と香草を使って焼いていく。

 焼けてくると、香草から出る匂いに釣られてか、子供達が厨房を覗いていた。

 

「もうすぐ出来上がるからな。ちょっと待ってろ」

「「「「「はーい!」」」」

 

 子供達は自分たちのスプーンなどを用意し始めた。

 焼けた肉を数皿に分けて乗せ、厨房から食堂に運んで空いているスペースに置いた。

 

「ほら、出来たぞ。スープは順番に掬うんだぞ。ほら、サヤ、お前も手伝え!」

「あ、はいっ!」

 

 子供達は席につき、食事のお祈りをした後に、ガツガツと食べ始める。

 

「まったく……。そんなにがっついて……」


 ため息をつく、サヤだったが、スープを一口飲むと同じようにペースは上がっていく。

 やれやれと思いながら、子供達の食事風景を楽しみながら別に次元収納(ストレージ)から取り出した紅茶を飲む。

 

「美味しかったーー!!」


 満足そうにする子供達を見ているとつい頬が緩む。

 ……でも、当分ここには来れないんだよな。

 ふと、視線をサヤに送ると視線が交差する。

 サヤは顔を赤くし、下を向いたが俺は手招きする。

 

「トーヤさん、どうしたんですか……?」

「実は……ちょっと依頼でな、ルネット帝国に行くことになった。それで、当分顔を見せられないから今日来たんだ。明日の昼前にはこの街も出るつもりだ」

「えっ……ルネット帝国って……今、戦争をしている国じゃ……?」

 

 サヤの言葉に無言で頷く。その返事にサヤは目を大きく見開いた。

 

「も、もしかしたら……。もしかしたら死んじゃうんですよ!? それなのに……」

「うん、でも……大丈夫。一応、強いから……な」

 

 ……ステータスは誰にも負けない自信はある。――勇者さえ出て来なければ。

 そんな事を思った瞬間に、俺の視界は真っ暗になり、柔らかいものに顔を挟まれた。

 

「そんなっ!? そんなとこにトーヤさんが行くなんてっ! 私、嫌です。絶対に嫌ですっ!」

 

 俺は抱きつかれたまま、口を開く。

 

「でも、大切な人が苦しんでいたら助けたいだろ……? 大丈夫。きっと帰ってくるから」


 サヤの腕を解き、立ち上がってサヤの顔を見ると、目を赤くし、涙を流していた。

 俺はそっと手で涙を拭き取り、笑みを浮かべる。

 

「帰ってくるから安心しろ。少し時間がかかるかもしれないけどな」

「きっと帰ってきて下さい。子供達も……私も待ってますから」

「うん、分かった。帰ってきたらすぐに顔を出すよ」

 

 笑みを浮かべたサヤに頷き、席を立つ。

 

「じゃぁ、お前ら、また来るまで元気にしておけよ。それとサヤ……。厨房にスープとパンを置いてある」

 

 多少の金銭も、とは言わない。きっと受け取らないと思うし。後で気づくだろう。

 

「じゃぁ、帰るよ。また来る」

「「「お兄ちゃんありがとう!!」」」

 

 子供達に手を振り、俺は孤児院を出た。

 

「トーヤさんっ!!」

「うん?」

 

 チュッ

 

 振り向いた瞬間に唇に柔らかい感触があった。

 本当に一瞬であったが。

 

「――ちゃんと帰ってきてくださいね」

 

 顔を真っ赤にしたサヤはそのまま孤児院へと駆けていった。

 

 俺は少し呆然としたが、大きくため息を付き少しだけ頬を緩ませて、宿屋へ戻ることにした。





いつもありがとうございます。

なんか、サヤがヒロイン化してきた気がする。

あと、コミカライズスタートしました。皆さんが見ていただいたお陰で好調な滑り出しとなりました。

ありがとうございます!

※今回から投稿時間を7時にしてみました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今の所ヒロインとして主人公に損害与えてないのは家妖精とこの娘だけ!次点で宿屋の看板娘だけど他の客のせいとはいえ追い出して高い買い物するはめになったしなぁ…皇女のじゃロリ、獣人はヒロインと呼ぶ…
[一言] こ、これが現地妻ってやつか…
[一言] 久々にきたダンブラーの街の歩く。すでに陽は暮れて薄暗い中、スラム街へと入って行く。 →久々に来たダンブラーの街を歩く。既に陽は暮れて薄暗い中、スラム街へと入って行く。
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