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第16話 勘違い

 

「次はアルだな。戦士の装備で問題ないな」

 

 俺はアルの返事を待たずに、装備を取り出す。白銀に光る鎧と、同じく装飾された片手剣、盾と取り出していく。

 

「これは、軽量効果がある防具と、属性魔法耐性が増幅されている盾と、剣は斬れ味が良い位だな。全部、魔法銀(ミスリル)製だ」

 

 アルは“魔法銀(ミスリル)と聞くと目を見開いた。

 

「まさか、魔法銀(ミスリル)装備なんて目にする事が……」

 

 二人の装備は、シャルはイベントで手に入れた物であり、アルの装備は俺が低レベル(100位)の時に使っていた装備だ。どちらも今や不要となった物だ。

 ……怪我をさせないようにするならこれくらいあれば問題ないだろう。

 

 二人は俺の出した装備にうっとりとして撫でている。

 

「あとは、これだな……」

 

 二人のために指輪を二つ置いた。

 

「こっちの赤い石のついた指輪はシャルがしてくれ。この緑のはアルだな」

 

 この指輪は、俺が賢者になるまで使用していた指輪だ。

 最上位職の賢者になってからは、効果がすでになく、不要となっていた。

 シャルに渡した指輪は、俺が使っていた経験値100倍。アルに渡した指輪は経験値30倍というものだ。

 二つ付けても効果は重複する事はなく、レベルの低いシャルに持たせれば、すぐに追いつくだろう。

 

「えっ……。いいのですか……」

「私も貰っても……」

「構わない。二人には頑張って貰わないといけないしな……」

 

 装備を見た以上に、二人は頬を紅く染め、目を潤ませて置かれた指輪を手に取ると、指にはめる。

 

「これで大丈夫だと思う。レベル上げは明日の朝から行うつもりだ。この家は魔物避けがされているから、問題なく眠れると思う。寝室は二階にあるから案内するよ」

 

 俺は席を立つと、二人を寝室に案内する。部屋はベッドとクローゼットだけが置かれたシンプルな部屋だったが、二人は頬を染めたまま満足した表情をしていた。

 

 この家はイベントで手に入れたアイテムであったが、照明もつくし、水も出る。動作原理は不明であったが、俺は日本にいた時の懐かしさを感じるだけであった。

 しかし、二人にとっては珍しい物だらけで、トイレで驚き、風呂でも「信じられません……」と呟く。

 

 夕食は慣れ親しんだ日本のキッチンを使用し、夕食をつくる。

 早々に食事を済ませると俺は明日からの為に寝室で寝転んだ。


「懐かしいな……この感触」


 懐かしいベッドの感触に、すぐに意識は沈んでいった。

 


 ◇◇◇

 


「指輪……貰っちゃいました」


 シャルは自分の左手の薬指につけた指輪に視線を落とす。


「そ、そうですね……。私も……」

 

 トウヤが寝静まった後、シャルとアルの二人は寝室で向かい合って話し合っていた。

 二人ともトウヤから貰った指輪を見ながら頬を染めている。

 

「でも、トーヤ様は想像を絶するほどの力を持っております。この家だってそうです。 わ、私が責任を持って(つがい)になりますから」

「だめよっ、国を救う為に手伝っていただくのですから、皇女として私がっ……ゆ、指輪もいただいてしまいましたし……」

「シャルは皇女でしょう。そんな簡単に決めることは……。私には兄がいますから、トーヤ様が平民でも嫁ぐのは問題ありませんし」

「……それでも……」

「――平行線ですね……。トーヤ様は素っ気ない態度が多いですが、何気ない態度が優しいですし、見た目も――」

 

 また思い出したかのように二人は頬を紅く染める。

 トウヤは理解しておらず、経験値倍増の為に指輪を渡しただけであったが、この世界では、婚姻の申し込みをする時に相手に指輪を渡す習慣があった。

 貴族、平民、そして――皇族でもそれは変わらない。

 しかし、この世界で育った訳ではないトウヤにとっては知る由もない。

 

 平行線であった二人の会話は、決着がつく事なく更けていったのは言うまでもなかった。

 


 ◇◇◇


 

「よし、二人とも行くぞ」

 

 元気よく言葉をかける俺に、二人は眠い目を擦りながら返事をする。

 昨日渡した装備を身に纏い、準備は万端であったが、二人とも眠そうな表情をしていた。

 少し心配になったが、気持ちを切り替えて探査魔法を唱える。


探査(サーチ)


 俺は探査魔法を使い、魔物の位置を確認していく。

 少し離れたところに魔物がいるのを確認すると、二人と共にその方向へと進んでいく。

 静かに森を進むこと数分で、俺が手で制する。


「すぐそこに魔物がいる。数は十ほどだ。準備はいいか? 俺は手出しはしないつもりだ。……危なかったらフォローはするが」


 俺の言葉に二人が頷き、それぞれの武器を構える。

 ゆっくりと二人が俺を追い抜き、魔物目掛けて走り出す。

 目の前にいるのはゴブリンの群れだ。ゴブリンからしてみたら、恰好の餌食が来たと思ったんだろう。ニタリと笑みを浮かべ、二人の下へゆっくりと集まりだす。

 

 先頭に立ち剣と盾を構え、シャルをガードするようにアルが立つ。

 

「行きますっ!」


 二人はゴブリンに向かって掛けて行き、アルは一刀でゴブリンを斬り捨てる。

 シャルも精霊魔法を唱え、風を刃がゴブリンを切り刻んでいった。

 十ほどいたゴブリンは五分も経たずに地に伏せていた。

 

「問題ないようだな。もう少し進んでいくぞ」

 

 アルはそれなりのレベルであり、もっと強い魔物の相手もできるが、シャルがまだ低レベルである。

 俺は二人の戦いを見て頷くと、討伐部位を切り取っていく。

 

 そして特訓という名の下の、レベル上げが始まったのだった。

 

 

 

 

 

いつもありがとうございます。

あと2話くらい回想が続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりコイツラの民度では装備を貸されたとかの認識なんて無いですよね、渡されたものは貰った扱い。
[一言] 同じく装飾された片手剣、盾と取り出していく。 →同じく装飾された片手剣、盾を取り出していく。
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