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第16話 チートな食事


 少し席を外しただけでダイニングでは幼女賢者(ナタリー)がフォークを立ててまだかと待っていた。

 俺はため息をつきながら、目の前の料理を乗せた皿を置いた。

 

「なんじゃ? ただの肉の塊ではないかっ! 何種類も乗っているだけでわしを満足させられると思うなよ」

「いいから食べてみろよ。文句は食べてから言え!」

「むぅ……これで満足出来なかったら、魔法書は渡さぬからの!」


 俺は対面に座り様子を伺うと、ナタリーはフォークを刺し、ナイフで一口分を切り取っていく。

 

「なんじゃ……抵抗がなく切れる!? しかも中から汁がこんなに出てくるだと!? なんじゃこれは!?」


 口の放り込むとナタリーは目を見開き驚いた表情をする。俺はテーブルの下で思わずガッツポーズをした。

 

「この美味い肉はなんだっ!? 肉はもっと噛み応えがあるはず。しかし……これは間違いなく肉だ。他のはどうじゃ?」

 俺が置いた料理は“ミックスグリル”だ。ハンバーグと、鶏肉の照り焼き、そしてソーセージ。付け合わせでポテトとコーンが付いている。ゲームでも空腹ゲージがあり、回復させるアイテムだ。

 肉に夢中になっているナタリーの前にパンを二つおく。これも回復アイテムだ。回復量は期待できないが、それでもこの街のどの店のパンより美味い。残り数は限られているが、今日限りなら問題はないだろう。


「パンも一緒に食えよ。美味いぞ?」

「丁度良いのじゃ。肉ばかりだと思ってたところじゃ」


 ナタリーはパンを一つ手に取り、ちぎって口へと運ぶ。

 

「なんじゃ、このパンは!? モチモチとしてて柔らかい。わしはこんな物食べたことはないぞっ!」


 驚きながら食べているナタリーを横目に、俺も空腹で腹が鳴る。同じ物を取り出し食べることにした。

 

「やっぱり美味いな……」


 様々な調味料を駆使した現代日本の料理に俺は舌鼓を打つ。

 そのあとは食べ終わるまで無言が続いた。ナタリーは独り言のようにブツブツ言いながらも食事の勢いは止まらない。

 しかし賢者と言われているというが、小さな口をモゴモゴと動かしている様子は、やはり幼女にしか見えない。

 食事を済ませた俺は飲み物をのんびりと飲みながら、ナタリーが食べ終わるのを待った。

 

「――負けた。こんな物食べたことがない……。満足したのじゃ!」


 ナタリーは素直に認め、自分の次元収納(ストレージ)から魔法書を3冊取り出しテーブルに置いた。

 

「約束の品だ。受け取るが良い! 今日は満足じゃ」


 俺は魔法書を受け取ると、自分の次元収納(ストレージ)にしまい、代わりに1皿ナタリーの前におく。

 

「これは俺からのサービスだ。魔法書もらった礼だと思ってくれ」

「なんじゃ、この白いのは……しかも真っ赤な物が乗っておるのぉ」

「いいから食べてみろよ。美味いぞ」


 俺はニヤリを笑いながら新しいフォークをナタリーに渡す。

 フォークを受け取ったナタリーは不思議そうな顔をして――ショートケーキを口にする。

 

 生クリームを口に含んだ瞬間、驚愕した表情をしたと思ったら、次第に口元は緩んでいき、幸せそうな顔をする。その姿に俺も”勝った”と自信を持つ。

 眺めていると、止まらない手はケーキがなくなるまで続いた。そして、ナタリーは何もなくなった皿を眺めながら悲しそうな表情をする。

 チラチラとこちらを見て、お代わりが欲しそうな顔をするが、流石に再現できていないこの世界で、限られた数しかないものを全て出すわけにもいかない。


「――もうねぇぞ?」


 俺のその一言で、がっくりと肩を落とし絶望したような表情をする。しかしまだ諦められないらしい。


「のぉ……さっきの白いのがまた食べたいのじゃ……こんなに美味い甘味を食べたのは初めてなのじゃ……」


 だが俺は首を横に振る。


「どうしてもか……? 何かと交換ならさっきのをだしてくれるのかっ!?」

「そんなこと言われてもなぁ……もう残り少ないし……作れない可能性もあるからな」

「なんでもだすっ! もう一つ上のランクの魔法書も出そう。だから……さっきのを食べさせてくれ……」

「いやいや、そんな事言われても困るぞ?」


 俺が拒否の姿勢を貫くと、ナタリーは両腕を組んで考え出す。そして俺の予想を超える提案をしてきた。


「――わかった。魔法書とこの屋敷をつけよう。それでどうじゃ?」


 魔法書でもありがたいのに、この屋敷まで!? それならいい。

 ――まだ残り98個あるからな……。


「――わかった。それで手を打とう。あと一つだけだぞ」

「おぉ! いいのかっ! 感謝する!」


 感謝するのはこっちなんだけどな……。

 俺はもう一皿のショートケーキを出し、ナタリーの前に差し出した。


「これじゃ! この白い甘さと、生地の柔らかさ、そしてこの赤いものの酸っぱさが絡み合って最高じゃ」


 ナタリーはショートケーキをゆっくりと味わうように食べ始めた。その姿を頬杖をつきながら眺める。

 フェリスもいるし、この屋敷でのんびりするのもいいかもな……。いつかこの屋敷で嫁でももらって……。

 俺も頭の中で妄想を膨らませていく。


 俺が妄想を膨らませているうちにナタリーはケーキを食べ終えていた。


「わしは満足じゃ。約束通り、この屋敷をやろう。あと今日は持ってきておらんが魔法書も明日やるのじゃ。名前を変更するのは商業ギルドでやるからの。明日、昼前にくるのじゃ」

「わかった……ありがたくこの屋敷を使わせてもらう」


 ナタリーは食事をし、満足して帰っていった。

 俺は風呂へ入り、ベッドに入る。

 そして誰もいない部屋で天井に向けて話しかけた。


「フェリス、明日、この屋敷をもらうことになった。これからもよろしくな」


 その言葉を発してから、重くなった瞼を逆らわずに瞑って夢へと落ちていった。





いつもありがとうございます。

今週は頑張りましたが、来週は更新頻度を少し落とす予定です。

改稿作業もそろそろ本気を出していかないと……。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミックスグリル自体は昔からありそうだけど、使われているゲーム産食材のお陰で何とかなりましたな。そして、ケーキも食べたことがないなんてカード決済がある割に食は残念な世界みたいですね。
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