第11話
衛兵たちの調査をが行われて二日が経った。
いまだ進捗はないとのことだ。実行犯は逮捕されたが、いまだ裏にいるであろうスエーン商会とマッグラー子爵にはたどり着いていない。
俺が屋敷に乗り込んだとしてもシラを切られておしまいになるだろう。
どうにかならないかと考えながら眠りについていると、フェリスに起こされた。
「トウヤ、来客。急いでいるみたい」
「う、うん……。わかった。起きる」
寝間着のままであったがホールに行くと、息を切らしたルミーナがいた。
「トウヤ! すまない! 子供とサヤが……誘拐されたっ!」
その言葉で眠気が吹き飛んだ。
「なにっ! ルミーナ! どういうことだ⁉」
肩で息をしながらルミーナは説明を始めた。
日帰りの依頼をこなし、養護院で寝ていると急に養護院が騒がしくなって部屋を出た
すると顔を隠した男が一〇人ほど養護院に侵入していた。
すぐに剣を持ち男たちに立ち向かったが、サヤと子供たちの首にナイフを当てられ人質にされていて、何もできなかったと。
サヤと五人ほど子供を連れていかれたと。
悔しそうに崩れ落ちるルミーナの肩にそっと手を当てる。
「――行先はわかっている。すぐに着替えるから待ってろ」
俺はすぐに着替えをし、ルミーナと一緒にコクヨウに跨る。いつもなら他の人を乗せるのを嫌がるコクヨウだったが、俺の真剣な表情を察してか、ルミーナも乗せてくれた。
二人で貴族街から一般街を抜けていく。
目的地はスエーン商会だ。
誰も歩いていない暗い街中を全力でコクヨウを走らせる。
裏手の荷捌き場に馬車が停まっているのを確認すると、そのままコクヨウに屋敷の扉を蹴破らせた。
勢いよく弾け飛ぶ扉を気にせず、俺とルミーナは屋敷へと侵入する。
建物の中を探査♯サーチ♯で探ると、一つの部屋に数人がまとめられており、すぐに子供たちの居場所はわかった。
しかし豪快に音を立てて侵入したことで、警備の男たちが次々と現れた。
「侵入者だっ! 早く集まれ!」
一〇人を超える男たちがすぐに俺たちのいる場所に集まってくる。
「……トウヤ、ここにいる奴ら、見覚えがある。養護院を襲ったやつらだ」
「……わかった。あとは俺に任せろ。ルミーナは自分の身を守れ」
俺はゆっくりと男たちに近づく。
「お前たち……俺はお前たちを許すつもりはないぞ。攫った子供たちを返してもらおうか?」
「ふんっ、そんなの知らんな。それよりもこの人数差でどうにかなると思っているのか?」
各自が剣やナイフを取り出して構えているのに、俺だけは手ぶらだ。
時限収納♯ストレージ#からバスターソードを一本取り出して構える。
何もないところから剣を出したことに男たちは身構えるが引くことはない。
「ルミーナは子供たちを頼む。いる場所は……そこの奥の部屋だ」
「わかった。子供たちは任せておけ」
子供たちの居場所を言い当てられて男たちに緊張が走る。
「これだけいれば怖くねぇ、お前らやるぞ」
男たちが一斉に襲ってくるが、バスターソードを一振りすると、三人が上半身と下半身が別れることになった。
今回だけは容赦するつもりはない。
三人が一振りで殺されたことに、動揺したところの隙をついてルミーナは子供たちの場所へと駆け抜けていく。
男たちを掻い潜りルミーナが向かった通路を塞ぐように立つ。
右手でバスターソードを構え、左手には魔力を込め空気弾♯エアバレット♯を放ち二人の身体に風穴を開けて吹き飛ばす。
……残り五人だ。数分で片がつくだろう。
一人を上から斬り捨ててそのまま返すようにもう一人を斬る。
残り三人になったところで、ルミーナが部屋から出てきた。
「トウヤ! 子供たちは全員いる! でもサヤがいないっ!」
「わかった。お前ら、もう一人の女の子はどこにいった……?」
一人の男が口元を緩める。
「さぁな、俺たちは知らねぇな。もしかしたらどこかで野垂れ――」
言葉を最後まで言わせずに首を斬り飛ばした。
「残り二人……。お前らも言わないつもりか……?」
一〇人いたはずが数分で残り二人になったことで、男たちは剣を捨て尻餅をつきながら後ずさる。
「殺さないでくれ。女は会頭が……貴族のところへ連れていったはずだ……」
やはり絡んでいたか……。
「わかった……。命だけは取らない」
バスターソードを次元収納♯ストレージに♯に仕舞い、そのまま男たちの太ももに空気弾♯エアバレット♯を放つ。
「いでぇぇ……」
「ぐふっ……」
二人は血を出てきた太ももを必死に押さえる。
全員を制圧すると、ルミーナは子供たちと一緒に部屋を出てきた。
「「「トウヤ兄ちゃん!」」」
子供たちは俺めがけて抱き着いてきた。全員の頭を撫でる。
「お前たち怖い思いをしたな。助けにきたからもう安心していいからな」
「でも、サヤ姉ちゃんだけ連れていかれたの。トウヤ兄ちゃん、サヤお姉ちゃんを助けて」
「わかっている。俺が必ず連れて帰るから養護院で待ってるんだぞ」
子供たちに言い聞かせていると、衛兵たちが建物に飛び込んできた。
あれだけ豪快な音を立てて門を壊したから、さすがに気づいたか。
「この屋敷に侵入者が……ってお前はこの前の⁉」
「あぁ、門は俺が壊した」
「それよりもこれは……」
衛兵たちが男たちの亡骸を見て顔を青くする。
「ここにいる子供たちの養護院がこいつらに襲われて、全員連れ去られた。それを取り戻しにきただけだ」
「……だからといってこの人数を……? 連れ去られたのはここの子供で全員か?」
「いや、あと運営をしているサヤって子が違う場所に連れていかれた。それはこれから俺が取り返してくる」
「……取り返してくるって言われても、この惨状でお前をはいそうですか、と解放できるわけないだろう。確かトウヤ殿であっているかな? それでどこに行くつもりだ」
衛兵の問いに素直に頷く。しかしここでのんびりしている訳にもいかない。
「連れていかれたのは……マッグラー子爵の屋敷だ」
俺の言葉に衛兵は目を大きく見開いた。いくら攫われたと言われてもこれから貴族の屋敷を襲うのは目に見えている。
素直に通してくれるはずもないか。
衛兵たちは剣を抜き俺に向ける。
「貴族の屋敷を襲うと言われても、通せる訳ないだろう……?」
俺は時限収納♯ストレージ#から貴族の証を取り出して衛兵に向ける。
「――トウヤ・フォン・キサラギ侯爵だ。これで文句ないだろう?」
「なっ‼」
「まじかっ⁉」
俺の言葉に衛兵は驚くが、まだ生き残っている男たちも驚愕の表情をする。
「……まさか……救国の英雄に俺たちは喧嘩を売ったのか……」
「あぁ、その通りだ」
俺は振り向いて残った二人の男たちに教える。
「失礼いたしました。キサラギ侯爵とは知らず。この場は私たちにお任せください。すぐに貴族街の衛兵にも連絡します。おい、誰かすぐに走れ!」
「はいっ!」
若い衛兵が一人駆けていく。
「ルミーナ、後は任せた。俺はサヤを取り返しに行ってくる」
「あぁ、子供たちと養護院で待っているからな」
ルミーナが拳を突き出してきたので、俺も手を挙げて拳を合わせる。
「子供たちは私たちが責任をもってお届けしますので安心してください」
「頼む」
俺は軽く頭を下げて、門のところで待っていたコクヨウに飛び乗る。
「行くぞ、コクヨウ! 目指すはマッグラーの屋敷だ!」
「ヒヒーン!」
コクヨウは勢いよく走りだす、来た道を戻り、貴族街の門で監視をしている衛兵の上を飛びぬけて一直線にマッグラー子爵の屋敷へと向かう。
数分でマッグラー子爵の屋敷に到着したが、門には二人の衛兵が待機している。
「そのまま門をぶち壊せ」
俺の言葉がわかっているのか、スピードを緩めることなく、門を蹴り飛ばす。
「ぎゃぁぁぁぁ」
吹き飛ばされた衛兵には悪いが、今は構っている暇はない。
屋敷の入り口でコクヨウから降りると、そのまま魔法で屋敷の扉を吹き飛ばす。
そのままずかずかと入っていくと、私兵が次々と現われた。
すぐに探査♯サーチ♯を使い、建物の中の人を確認していく。
二階の端の大部屋に四人がいるのを確認できると、俺はそのまま進んでいく。
「襲撃者だっ! こいつを止めろ!」
向かってくる私兵を殴り飛ばし、時に魔法を使い吹き飛ばしていく。威力が高すぎたのか、屋敷の壁をブチ抜いて私兵は消えていった。
階段を上っていくと、剣で斬りかかってくる私兵たちを次々と殴り飛ばしていく。
「今の俺は容赦できないぞっ! 次からは命の保証はしない」
そう言い切ってから時限収納♯ストレージ#からバスターソードを取り出す。
私兵たちが一歩下がったのを見計らって一気に身体強化♯ブースと♯を使い、駆け抜けて目的の部屋の扉を蹴り飛ばす。
部屋の中には貴族服を着たマッグラー子爵と、養護院の監査をした上級監査官、あとはスエーン商会の会頭、そして縛られたままのサヤがいた。
「トウヤさんっ!」
「何やつ⁉」
そのまま部屋に入り、入り口近くにいたサヤの前に立つ。
「お前たち……何をしたのかわかっているんだろうな?」
殺気を向けて言葉を放つと、マッグラー子爵はソファーから崩れて尻餅をつきながら後ずさりながら喚く。
「お前! 貴族の屋敷に襲撃などかけてわかっているのだろうな! 不敬罪で死刑だっ!」
「そうですよ。ここにはマッグラー子爵がいらっしゃる。冒険者が入ってこれる場所だと思っているのか」
三人の言葉に気にせず、俺はサヤのロープを切る。
「サヤ、待たせたな」
「トウヤさん……助けに来てくれて……ぐすっ、ありがとうございます……」
目に涙をためたまま俺に抱き着いてきた。
「大丈夫だったか? もう俺がきたから安心だからな」
「……はい、大丈夫でした……」
サヤの頭を軽く撫でて後ろに下がっているように伝え、俺は三人に向き直る。
「お前たちの誘拐は現行犯だ。すでに商会は衛兵たちが押さえている。ここにくるのも時間の問題だ」
俺の言葉に立ち上がったマッグラー子爵が鼻を鳴らす。
「冒険者風情の言葉に衛兵が言うことを聞くと思っているのか? ここは貴族街だぞ。わしの言葉が誰よりも一番に決まっているだろう」
その言葉と同時に下の階から声が聞こえ、次第に駆け音が大きくなってきた。
「ここかっ!」
衛兵が数名剣を構えながら部屋に入ってきた。
マッグラー子爵はしめたとばかりに、手を大きく広げる。
「衛兵たちよ、よく来てくれた。この貴族の屋敷に侵入してきた男を捕らえよ! あとで褒美をとらすぞ」
しかし誰もマッグラー子爵の言葉に耳を傾けず、三人に向かって剣を向けた。
その反応にマッグラー子爵の表情は真っ赤になり、怒鳴り始めた。
「なぜ、わしの言うことが聞けない! わたしはマッグラー子爵だぞっ!」
その言葉に衛兵の一人が剣を向けたまま、一歩前に出る。
「……マッグラー子爵だということは理解しております。しかし、誘拐事件の主犯としてマッグラー子爵を捕らえるのは変わりません」
「何故だっ⁉ わしの言葉を聞かずにそいつの言葉を信じるんだっ?」
「何故と言われても……」
衛兵が俺に視線を送ってきたので一歩前に出て貴族の証を見せる。マッグラー子爵の持っている証より豪華な侯爵としての証明を。
「トウヤ・フォン・キサラギ侯爵だ。お前は俺が援助している養護院を襲った。他に何かあるか?」
「な、なんだと……。あの……救国の英雄……だと……」
「そんなバカな……」
「嘘だろう……」
マッグラー子爵、上級監査官、スエーン商会会頭が揃って驚愕の表情をし、力が抜けたかその場で崩れ落ちた。
「キサラギ侯爵が確認をして許可をもらっている。お前たちは貴族でもなんでもない。ただの犯罪者だ。この三人を連行しろ」
衛兵の言葉に残りの衛兵がロープをもって縛っていくが、反抗する気も起きないのか下を向いたまま直に縛られていく。




