第10話
「なんだとっ⁉」
スエーン商会の応接室で一人が怒鳴り散らしていた。
昨日の人身売買の現行犯で捕縛されたことは、次の日の朝にはスエーン商会の会頭の耳へと入る。
会頭はすぐに上級監理官に連絡を行い、そこからマッグラー子爵へと報告を行う予定であったが、衛兵詰め所からも役所へと連絡があり緊急性が高いとのことで、朝一番でマッグラー子爵へと報告がされた。
自分が関わっているだけに腹の中は煮えたぎっていたが、その表情を見せずに淡々と報告を聞き指示を出した。
会頭自身も詰め所へ赴き事情聴取に応じたが、知らぬ存ぜぬで通し夕刻には開放されることとなった。
そしてその日の夜に三者で極秘の会談が設けられた。
会頭からの説明を聞いていたマッグラー子爵は怒りで飲んでいたワイングラスを投げつける。
「なんで捕まったんだっ⁉ いつもの通りであったのだろう」
「それが……何やら冒険者が嗅ぎまわっていたらしいです。それで現行犯で……」
「どうするつもりだ⁉ 相手方とは話がついてるんだぞ。すぐに他の子供を用意しなければならんだろ」
「そうは言ってもですね……。今回のことで各養護院に通達が回ったらしく、子供たちの人数まで確認しにきているらしいです。あそこの養護院には衛兵が詰めておりますし……」
そこで黙っていた上級監査官も口を挟む。
「実はですね……。その捕縛した冒険者というのが、前に数人けしかけて逆に潰されてしまったAランクの冒険者なんです」
「何……Aランクだと……。そんな高ランクがなぜ養護院の調査などやってるんだ⁉」
「それが……自分でも養護院を開いてるのです。私が監査をしたので間違いありません」
上級監査官の言葉にマッグラー子爵は考え込む。
「そういえば新規の養護院の許可を承認したな……。その養護院のことを教えろ」
「えぇ、実はそこの養護院は――」
養護院は子供は多くないが、若い女性一人が運営していることを上級監査官が説明していく。
若い女性一人と聞き、マッグラー子爵の口元が緩む。
「その運営者の女はどうなんだ……?」
「まだ成人して間もないですが、それはなかなかの……。まさかっ⁉」
「冒険者が運営しているなら、依頼を受けて留守も多かろう。新しい養護院の子供が誰もいなくなってもおかしくはないだろう?」
マッグラー子爵は注文を受けていて足りない子供をその養護院から補充するように考えた。
上級監査官も深く頷く。
「確かに。冒険者は依頼を受けないと金銭は入ってきませんからね。高ランクの冒険者なら遠くの依頼を受けることも多いでしょうし。その養護院に寝泊りしている様子ではありませんでしたからね。一晩ですべてを終わられば……」
上級監査官の言葉に満足したマッグラー子爵は、新しいグラスにワインを注いで一気に飲み干した。
「なら、わかっているな……? 三日以内になんとかしろ。あと、女はわしの屋敷へと連れてこい。じっくり調教してやるから」
「わかりました。うちの商会の裏の者を全員集めます。三日後までに必ず」
「うむ、それでいい。あとは任せたぞ」
「「はいっ」」
その後、マッグラー子爵が商会を後にし、上級監査官と会頭の二人が残る。
先ほどまでの緊張感は抜け、二人ゆっくりと寛ぎながら酒を酌み交わした。
「それでうまくいきそうか……?」
「必ず成功させねばなるまい。それにしてもマッグラー子爵も無理を言われる。今後は警戒されるだろうから少し大人しくしないとまずいな……」
「そうだな。役所の方はこちらで上手くしておく」
遅くまで二人の密談は重ねられていったのだった。
ちょっと短いけど明日も更新しますから!




