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62話 理解者はすぐ側に

 ピッ、ピッ、ピッ……ピピィーーッ!


「はいそこーー! 木の長さがバラバラです! やり直しっ!!」


「くっ。またか……」


 最近覚えた指笛で、せっせと作業に励むおっさん達の背後から注意を促す。

 というのも、現在俺達は地震被害にあった村へ到着し、復興作業に尽力している最中だった。

 先遣部隊としてやって来たのは、まずはラナーク村御一行様、次に殿下と老執事含むその配下、あとはここまで運んでくれた師匠だ。


「っつーか、何で俺が借り出されてんだ? 絶対おかしいだろ」


 人一倍文句は多いが、人一倍良い働きが期待されるサフライは、ブツブツ言いながらも手際良く家の基礎づくりを俺に指示していく。

 大まかな柱は周辺の森から切り出した木を使い地面に深くぶっ刺し、壁は俺の【土魔法】でガッチガチに塗り固める。

 地震によって倒壊してしまった家屋を一軒一軒修繕する訳にもいかないので、応急処置として拓けた場所に長屋をいくつか作り、暫くは集団生活をしてもらう予定だ。


「本当にありがとうごぜえます。いやはやぁ、偶然この近くに立ち寄られた皆様方のおかげで、村は何とか死者を出さずにすみそうですだ」


「なに、困った時はお互い様だろう」


「おおっ、なんと寛大な……!」


 声がした方に顔を向ければ、しきりに頭を下げるハウステ村の村長と、それに対応している殿下と老執事がいた。

 俺達は自身の身分を明かすつもりはなく、あくまで通りすがりのボランティアとして、ラスティアに至っては髪色まで変えて救助活動をしていたのだが、どうにも隠しきれない殿下の王族オーラが村長にも伝わっていたらしく、殿下を見るなり平身低頭でさっきからずっとあの調子なのである。


 ……因みに、俺も一応貴族の息子なんだよ? みんなすっかり忘れてるだろうけど。


「一旦休憩を入れましょうか。そろそろお腹が空いてくる時間ですし」


「わ、私も手伝います!」


「僕もっ!」


「ありがとう。じゃあ、2人にはあっちで炊き出しの配膳を手伝って貰おうかな」


 ビシッと挙手を決めたのは、やる気満々のヴィラとカンラだ。

 今回の事は2人に直接関係がある事ではないし、手伝って貰うにしても先遣部隊の後にしようと思っていたのだが、彼らは何故かついてくる気満々だった。更に言うと、


「アル!」


「ユウ、どした?」


「傷薬が足りないみたいなんだけど、どうしたらいい?」


 そう。何故か幼馴染のユウまで、カンラとヴィラと一緒に部屋に飛び込んで来てしまったのだ。

 なかなか不思議な組み合わせだなと思わないでもなかったけど、あの時は気にしている暇もなかったので、無理なら後で師匠に送り返して貰うつもりで引っ張って来てしまった。


「んー。それなら鞄にいくつか入れてたはず……はい。なくなったら師匠にも聞いてみて。それまでには補充しておくよ」


「わかった。ありがとう!」


 ユウは傷薬を受け取ると、一番最初に確保した救護室に走って行く。

 ここ、全人口約100名の小さなハウステ村に着いた時には倒壊した家屋に埋もれてしまっていた人は十数名、落下してきた家財や家具で怪我をしてしまった人は約三十名、かすり傷程度で済んだのが十数名、たまたま家の外に居たり、運よく無傷で済んだ人は約半数だった。


 俺達が到着した頃には震災から48時間未満といったところだったが、今のところ死亡者はでていない。

 それというのもーー


「アルファン様。こちらへどうぞ」


「ジークさん、ありがとうございます」


 用意された炊き出しに皆が並ぶ中、今日もオールバックな彼はわざわざ俺の分を先に確保してくれていたようだ。

 まだ十分に温かいそれを受け取ると、建築用に切り出した端材を適当に椅子代わりにしてみんなで昼食をとりだした。

 炊き出しのメニューは現地で備蓄していた麦とくず野菜、こちらから提供した干し肉をぶち込んだだけの麦粥だったが、良く煮込まれているおかげか野菜と肉の旨みが染み出してなかなか滋味深いお味に仕上がっていた。


「救護室の様子はどうですか?」


「……先程、内密に頂いた秘薬のおかげで、皆ずいぶんと顔色が良くなりましたよ」


 自然と隣り合って座っていたジークさんに重軽傷者の様子を伺うと、周りをキョロキョロと見渡したあと、やけに小声で耳打ちされた。


「秘薬って……そんな大袈裟な。あくまで僕は素材を提供しただけで、その秘薬を作ったのはジークさんじゃないですか」


「いえいえいえ! もちろん調合する者の腕は必要ではありますが、その素材収集こそが一番大変なのです! 私も薬師としてラスティア様に長く仕えさせて頂いておりますが、あんなに貴重で鮮度と質の良い魔獣の血は初めて拝見しました。一体どこで手に入れられたのですか?」


「あの、たまたまなんです。たまたま森で瀕死の魔獣が倒れていたところに兄が遭遇したらしくて。それで余った素材を僕にくれたんです。あ、ちなみにあっちにいる兄じゃなくて、今は王都に住んでいるのですが」


「そうでしたか。それは残念です……」


 いつも冷静なジークさんがぐいぐい来るものだから、咄嗟に嘘をついてしまった。

 しょんぼりしているジークさんには悪いが、ガハンスとは会う機会もないだろうし、目の前にいる10歳児が討ち取ったというよりは信憑性があるだろう。

 ……兄よスマン。俺の犠牲となっておくれ。


「ジークさんの薬はすごい効き目ですよね。薬師さんは初めてお目にかかったので、勉強になります」


「そういえばラナーク村には薬師はいないのでしたね」


 うちの村は薬師は居らず、基本的には自然治癒に任せる人がほとんどだ。

 ひどい怪我や病気の場合は伯父の商店で日持ちのする薬を購入するか、それでも手に負えない時は師匠頼みになる。

 将来的にというか、村に来たいという医者や薬師がいるのなら今すぐにでも欲しいところだが、貴重な医者や薬師はそうそう見つからない。

 俺にそっち方面の適性があればよかったんだけど、さっぱりだったのだからどうしようもない。


「ユウは迷惑をかけていないですか?」


「とんでもない。真面目で飲み込みも早いので、雑用ばかり任せてしまっていますが助かっていますよ」


 にこりと笑ってくれたので、それにホッとした。

 ユウが何故ここに付いて来たがったのか、時間がなかったこともあって詳しい理由をまだ聞けていない。

 村の中では同い年なこともあって会話はよくする方だけど、アイコンタクトだけで彼の心情を理解できるほど、俺はユウを知らなかった。

 いつも俺の頭の中は村の事やその時々の事で頭がいっぱいで、友達と呼べる人間はいるけれど、親友と呼べる人はいないのかもしれないと気づかされる。

 ユウには改めて夜にでもしっかり話を聞こうと決めて、皿に残っていた麦粥をかき込んだ。


「さて。ご飯も食べたことですし、しっかり働きますか。夜までに長屋の外枠だけでも完成させないと!」


「冬を越えたとはいえ夜はまだまだ冷え込みますからね。私は引き続き救護室にいますので、何かありましたら声を掛けて下さい」


 勢いをつけて立ち上がると、ジークさんと分かれて長屋の建築作業を再開させる。

 先に休憩から戻って来ていた現地の村の人は休憩前よりも顔色が良くなってたし、ずいぶんと動きも機敏になったし、いやあよかったよかっ……


 ガシィッ!!


「おいアル」


「ひぃっ!? なんですか兄様、そんな怖い顔して!?」


 前振りもなく、般若の親戚のような顔をしたサフライに突然頭を鷲掴みにされた。

 ……痛い痛い痛い!! ギリギリミシミシ聞こえちゃいけない音してるから!!


「お前、またやらかしたか?」


「??」


 顎先でクイッと指し示された方向には、昼食前とは違って活気に溢れている人々。涙目でざっと見渡したが、何がおかしいのかよくわからなかった。


「……あのな。さっきまで意気消沈して青白い顔してた奴らが、温かい飯食って顔色が戻ったことまでは、まだ俺も理解出来る。だけどな、どうしたらあんなバカでかい丸太を一人で2本も3本も持ち運べるんだよ!?」


「あっ!」


 ふかーい溜息のあと、小声で怒鳴るという器用な真似をしたサフライ。

 よくよく確認してみれば、確かに通常では考えられない動きをしていた。

 していることは先程と全く同じなのだが、森からかなりのハイペースで木が運ばれて来て、その丸太はひとりで数本ずつ持ち上げられ、物凄いスピードで丁度いい木材サイズに切り分けられて、木材の山が着々と積み上げられていく。どうりで、皆の動きがやたら機敏に見えたはずだ。


「お前さっき差し入れに肉渡してたよな。まさかとは思うが、間違えてあのやばい肉渡しちまってねえよな? 俺もさっきから変に身体が熱くて、徹夜明けみてーにテンションが可笑しなことになってるんだが気のせいだよなっ!?」


「ま、まさかそんな…………」


 冷や汗ダラダラで、ガサゴソと自分の鞄を探っていく。


「……」


「……」


「…………兄様って、僕の事よく理解してますよね?」


「言ってる場合か-----!!」


 そのあと、目が血走ったサフライにめちゃくちゃおこられた。


せっかくインフル打ったのに普通の風邪ひいて気付いたら12月が終わってた。

明けましておめでとうございますっっ!!(意味のない元気アピール)


追記:誤字脱字報告ありがとうございます。訂正させていただきました。

追記2:なっ、なんやこの機能めっちゃ便利ィーー!!革命かよ!なろう書いてる人にはめちゃくちゃおすすめです!

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