15話 大工さんのお仕事
「はっ、俺はいつから大工にジョブチェンジしていた?」
俺のそんな呟きは完成間近の施工作業の音に紛れた。
難民達の受け入れが決定したその翌朝。
領主一家と伯父、料理長のミルク、あとは難民達の代表者としてアリスの父親が朝食後の会議の席に着いた。
まず最初に議題に上げられたのは、彼等の住居についてだ。
「今はお館様がベッドを貸し出して下さっているおかげで、村にいた頃よりもみんな安心して良く眠れています」
なんせ前は、老朽化で打ち捨てられていた馬房を改造した掘っ建て小屋に一族みんなで住んでいたので、ベッドなど久しぶりに使いました。雨風が入らない住居はやはり安心感が違いますね。
アリスの父は朗らかな笑顔で、俺たちの涙腺を的確に撃ち抜いた。……視界が歪んで前が良く見えない!ミルクは泣いてないでスイートポテト持ってこい!
現在難民達には客室である十畳の二部屋を貸し出し、夜間は一部屋ずつ男女で別れて使って貰って子供達は両親のどちらかがいる部屋を好きに行き来出来るようにしていた。
ベッドは各部屋の四つと、あと二つの客室を使っていた伯父の護衛四人の部屋から使っていないベッドを移動させて、合計十二個のベッドを難民達に使って貰っている。あ、因みに伯父は家族用に空いている一人部屋にいるよ?
難民達がいくら平気だと言っていても、約十人が十畳の部屋でひしめき合って寝るのだ。ベッドもそうだが広さも足りないだろう。
男たちはほとんどのベッドを女子供を優先させていて雑魚寝状態だというし、かと言ってこの村にそんな大所帯が泊まれるような使い勝手のいい施設はない。
あるなら先にそちらを利用している。
「アルファン、悪いが頼めるか?」
……とびっきりのマイホーム用意してやんよ!
だが、とりあえず屋根があって全員が寝られる家であればいいと言う父からの依頼を快く引き受けたはいいが、家族それぞれの家を用意してやるにはあまりにも時間がかかり過ぎるし現実的ではない。
なので、盗賊の件も片付くまで難民達が固まって泊まれる大きめの施設を作る事になった。
ーーどうせなら、難民達が出て行った後も村のみんなが利用出来るような施設がいいよな?
幸い、今は俺や父やガハンス、兵士達の活躍によって得た魔石が山のようにある。
我が家では俺や母がいるので消費量は少ないが、各家庭では当たり前に魔石によって水や電気がガスが補われているので、魔石は村の運営に関わる必要不可欠なライフラインだったりするのだ。
それを数年分差し引いても潤沢にある魔石。
これを使えば、村のみんなの快適な娯楽施設になるのではなかろうか?
そんな夢を膨らませた俺は、初挑戦となる三階建の大型施設の建設をはじめた。
まずは窓から見晴らしが良い湖が見えるようにと、少し離れた場所選びから始まり、初めての三階建だということで骨組み作りから慎重に慎重を重ねて取り組んだ。
俺に大工の経験はないが、土魔法で作成した骨組みが完成したところでいつも動植物に毒がないか調べるのと同じ要領で鑑定すると、《百五十年は壊れないしっかりとした鉄筋コンクリ》と頭の中に直接インプットされたので安心だ。……一応、製造年月日と百五十年後は危ないよって書いとこう。子孫達が憂き目に遭ったら大変だからね!
とりあえずはあれとこれとそれをつくるか……。そうだ!あれなんか入れたら楽しいんじゃないか!? そんでもってみんなが寝れる部屋がいるだろ?……んでもって、あれも欲しいな……いや、ならあれも必要か……なんならもっと快適に……いやいや……んん……
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完成後。
「「「は?」」」
みんなのぽかーんとした顔が、夢の中へ逃避していた俺を現実へと引き戻す。
正直やりすぎました、ハイ。
「……お前は、”とりあえず” の意味を履き違えて覚えてはいまいか?」
「かえふことびゃもこひゃいまへん!」
「や・り・す・ぎ・だ。 それは、わかったな?」
「あい!」
また俺のほっぺがぁっ!!
まだふっくらしてプリティーなほっぺが憂き目に!
ガハンス兄様は母様に似てガチギレするとやばい人なんだね! 知りたくなかったそんな新事実!!
その後は土下座も辞さない勢いで平謝りし、なんとか許して貰った。……ん?なんかデジャヴ。
新たに建てられた建造物ーーもとい、温泉付き旅館は余りにも規格外過ぎた為、俺と師匠が共同で作った事にしておけと言われた。
単純な作りの防壁だけならまだしも、まだ子供の俺が一人でこんな建物を作ったと外部の人間に知られれば大騒ぎになり、うちの村のみんなみたいに「アル坊ちゃんは器用だな〜」と呑気に納得してくれるわけがないからだ。
師匠も呆れながらも了承してくれた。ちゃっかり条件はつけられたけど。
それより、うちの家族は俺よりも師匠を信用している節があるのだが、気のせいだろうか?
なんだかんだ言ったが現時点では難民達の住居に過ぎないので、温泉付きの宿として活用するのはまだまだ先の事になる。
俺が次にしなければならないのは、難民達を村のみんなにどうやって受け入れてもらうのかを考る事だ。
この村にそんな事をする人がいるとは考えたくはないが、隣村に負けない田舎領地だということも加味しておかなければならないだろう。
今日は、ミルクに作って貰っているご飯を週に一度師匠宅へまとめて運ぶ日なので師匠に相談してみよう。
「そんなもん儂が知るか」
「即答ッ!?」
俺の相談は、僅か五秒で終了した。
そうだよ、師匠は元々こんな人だったよ!
ひたすらクールな人だから、俺が盛り上げなきゃって思って自宅にいる時より俺がハイテンションになって師匠にウザがられるという不毛な戦いを二年前からしてたのを思い出した! 二ヶ月ぶりだからかなんだか懐かしいね!
「だが、そのアリスという幼女は気になるの……」
「師匠ダメです。それは犯罪です!」
キリッと言ったらげんこつされた。冗談なのに。
師匠は悶える俺を放って、アリスの気になる点について話し出した。
「伝承にある末裔が存在するなど俄かには信じがたいが、この村と変わらぬほど貧しかった隣村などではシルバーのピアスを手に入れる手段などないであろう。わざわざピアス穴を開ける理由も」
「そうなのですか?」
師匠でも知らないのかー。へーっと俺が言うと、師匠は人を馬鹿にするようにフンと鼻をならす。
「お前みたいな子供にはわからんじゃろうが、シルバーはこの世で最も価値の高い鉱石だ」
「…………なるほど」
そう言えば前世でも、銀は金より価値が高かった時代があったと聞いたことがある。
今も昔も鉱石には興味がないし、あった所で縁もないだろうから気にしたこともなかったが、今はそんな時代であったのかと、日本の現代社会にいた以前の自分とのギャップに改めてここは異世界なんだと言われた気がした。
だがそれなら、命からがら逃げ果せた難民達が自分達を信じて貰うのに父にピアスを託し、託された父がすんなりと難民達を信用に足る人物だと受け入れたのも理解出来る。
「今度その幼女を一度ここへ連れて来なさい」
「アリスをですか?」
「儂が、その旅館とやらに向かってもいい。 盗賊の件が落ちついた頃でもいいので、調べておきたい事があるのだ」
「……はい」
だが、それ以上はまだ聞くな。
師匠は細めた目の視線だけでそう言っていた。
もうやけくそだあばばばば




