14話 シウラリアスの末裔
「しうらりあす?」
誰だそれは。
それが俺の率直な感想だった。
ーーシウラリアスの末裔、それは破壊を繰り返す穢れた血を持つ者なり。
父が説明してくれた内容はこうだ。
昔々、何百年も前にこの国を立ち上げた初代王の弟、シウラリアスという名の男がいた。
男の容貌は白く抜けるような肌、整った容姿、赤い髪とオレンジ色の瞳で、産まれた時から付いていたという右耳のピアスが印象的な美青年だったそうだ。
兄の初代王は、平民出身から初めて選ばれた勇者でもあり、弟のシウラリアスもまた、優秀な頭脳を持っていた。
平民だった彼はある日、天からのお告げで勇者の力を得て、魔王討伐の旅に出ることになる。
勇者とシウラリアスの幼馴染であった一つ歳下の女の子も、天からのお告げで僧侶の能力を得て共に旅立つ事になった。
幼馴染が好きだったシウラリアスは大変落ち込み、次第に幼馴染を奪った勇者を恨むようになる。
月日は流れて、魔王討伐の最終地。
勇者があと一撃で魔王を打ち倒せる、そんな絶好のチャンスの場面である。
そんな緊迫した中魔王と勇者の間に割って入った者がいた。
弟のシウラリアスだ。
彼女を返せ!
彼女は僕のものだ!
勇者と幼馴染は長い旅の末、将来を誓い合っていた。
勇者と幼馴染の慶事は国中に伝えられ、シウラリアスの村まで届いていたのだ。
シウラリアスは許せなかった。
そうだ。兄を打ち倒せば、彼女の隣に立てる。
シウラリアスは彼女を想う余り、歪んでしまっていた。
その歪んだ魂が魔王に魅入られ、シウラリアスは魔王に身体を乗っ取られてしまう。
敗北寸前だった魔王は負の力を取り戻し、再び国を破壊し人々を喰らった。
既に満身創痍の勇者は復活した魔王に歯が立たない。
国中が阿鼻叫喚に包まれる中、一人の男を狂わせたと気に病んだ幼馴染は僧侶の能力を持ってシウラリアスの中の魔王を懸命に浄化した。
その命が尽きるまで。
魔王は幼馴染の活躍により討たれたが、シウラリアスと幼馴染も死んでしまった。
一度に大事な人を二人も亡くした勇者は嘆き、悲しんだ。
どうして、どうしてだ。
幼馴染も弟もいない。
何のために自分は魔王討伐に向かったのだ。
勇者が泣き暮らしとうとう涙も枯れる頃、再び天啓が齎された。
ーー赤い髪とオレンジの瞳の者は何度でも生まれ変わり、破壊を繰り返す穢れた血が流れているーー
次の瞬間、強い光が差し込み視界を奪われた。
再び目を開けると、死んだはずの幼馴染が勇者の腕の中で眠っていた。
天より、勇者の元に還されたのだ。
その後、勇者と幼馴染は国王と王妃になった。
初代王である勇者は、以後このような悲しい事が起きないよう、赤い髪とオレンジの瞳の赤子が産まれたら王宮に連れてくる様に国中にお触れを出した。
結局、王が生きているうちに赤子が連れて来られる事は無く、人々の安寧は末長く続いた。
王が死んで数百年経った後も、赤い髪の赤子は現れ無かった為、そのお触れは次第に人々の記憶の中から忘れ去られた。
ーー初代王が、弟の産まれ変わりである赤い髪の赤子が産まれていたらどうするつもりだったのかは、未だ解明されていないーー
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「という、お伽話があってな」
俺以外の皆は、この話に基づいた話が原因で迫害されていた事にとっくに気づいていたらしい。
といっても、虚実で混同されたお伽話を信じている者は今では殆ど存在しない。
なぜなら赤い髪でオレンジの瞳の者は複数人存在する為、そのお伽話が真実ならば、この国はとうの昔に滅びているそうだ。
そんなお伽話を信じ迫害までするのはよっぽどの田舎領地のみで、彼等難民達もたまたま居た村が隣村だったばかりに迫害され、相当に運が悪かったと言える。
「アリスがそれだ」
「あ」
そうだった。
大人達の中には一人もいなかったが、あの子は、赤い髪にオレンジの瞳というまさにお伽話にドンピシャの容姿をしていた。
ただ性別は違うし、複数人存在するのなら彼女だけ差別されるのもおかしな話だと思う。
「お伽話には諸説あるが、アリスは産まれた時に右耳にピアスが嵌っていたようだ」
「…………」
ーー初代王の弟が、産まれた時からつけていたというピアスをか?
「アリスの右耳のピアス穴は、先程マリアに確認させた」
「母様が……」
難民達も、先祖に当たる者が赤い髪とオレンジの瞳を持っていた事で元から多少の差別はあったものの、迫害されるほどではなく、住居も村の中心に普通に構えていたそうだ。
だが、二年前にアリスが産まれた際に運悪く村人に見つかってしまいそれは悪い方へ激化した。
気味悪がられたアリスとその親族は迫害の対象となり、住居を移さなければいけない程になってしまったようだ。
右耳にピアスを持って産まれた赤子は “シウラリアスの末裔” と呼ばれる。
盗賊から逃れた難民達は、逃げた先にまた迫害されるような事があってはならないと考え、大人達はアリスの右耳からピアスを外し、森の中へ隠した。
「それがこれだ」
「……おぉ」
差し出されたのは、とてもシンプルなシルバーのリングピアス。
幼女のアリスがこんなピアスをしていたら、怪我をしてしまうのでないか?
俺が確認したのを見届けて、父はピアスを木箱に直す。
「確認に時間はかかったが、これで彼等が隣村から盗賊の手を逃れてきた者だと証明された。したがって、難民達はこの村で受け入れる方向で進めようと思っている。 何か異論のあるものはいるか?」
前半は俺に、後半は家族みんなを父が見渡す。
みんなも特に異論はないようで、これで難民達の処遇は決定した。
「では、明日より盗賊からの防衛に加え、難民達のこれからの生活についても話し合わなければならない」
だから今日は早く休め。
父はみんなにそう言うと、難民達がいる客室に戻っていった。
朝6時に予約投稿したかったのに間違えた……orz




