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10話 武器と採集

「坊っちゃん、遂にやりましたね!」


 防壁を造り始めて十日目。

 当初よりやや日程をオーバーして防壁が完成した。住人達は誰が集めたわけでもないが、完成を見届ける為に自然と集まっており、最後の工程を終えるとあちこちからワッと声が上がった。


「これで、嫁と子供達は安心して暮らせる」


「俺達が盗賊共を追っ払ってやるんだぜ!」


「ねえねえ母ちゃん! この壁なーに!?」


「あの時みたいな心配はもういらんのじゃな」


 声だけで、みんなのテンションが軒並み上がっているのがわかる。

 それは家族想いな父親の感嘆の声だったり、血の気の多い若者がアゲアゲだったり、子供はあまり意味が分からないのか初めてみた防壁に興味津々だったり、老人達が感極まって涙目ぐんでいたりと反応はバラバラだったが。


「アルは相変わらず規格外だな」


 住人達の様子をうんうんと頷いて眺めていると、苦笑している伯父と、最近よくその伯父の隣にいる彼女の姿があった。

 伯父達も防壁の完成を見届けに来たのだろうか。  伯父はあまりミーハー気質ではなかったように思うのだが。


「今日はどうしたのですか?」


「いや、アリッサがどうしても見たいと言うのでな」


 苦笑いな伯父と、顔を紅潮させている彼女。

 成程。商人としては気の良い伯父は彼女に押し切られたんだろうなとあたりをつける。


「そのついでと言っては何だが、サフライと造った武器を試作品が出来た。 確かめてくれ」


「!」


 布に包まれていた長細い槍を取り出すと金属に似た性質の硬い槍が出てきた。

 槍を持ち上げたり、先端の殺傷性がありそうな尖った部分を見る限り、サフライと伯父はとんでもなく高性能なものを作ってくれたのがわかった。


「軽くて扱いやすい……。 アリッサさんはどうでしたか? ちゃんと武器として使えそうですか?」


「対人戦を考えているのであれば、先端部は斬れ味がイマイチだったので、剣に使われる鋼などの金属を用いるか、さらに研磨して斬れ味を良くするなどした方がいいかと。 持ち手は硬くて軽い、それでいて軽過ぎないので、初心者でも扱いやすい武器だと思いました」


「貴重な意見ありがとうございます。 では、伯父上はそれを兄に伝えて下さい。 志願兵の数ほど量産出来たら、非戦闘員でも使えそうな新たな武器も作製していきましょう」


 狩猟ならともかく、戦闘経験などない俺は冒険者である彼女の意見も有り難く受け取っておく。

 父やガハンスにももちろんこれから意見を聞くが、女性から見た視点というものも役に立たつかもしれないからだ。


「うむ。 サフライにそう伝えよう」


「何かあれば直ぐに飛んでいきます」


 伯父とにやりと笑い合って別れる。

 ここの所伯父には随分と世話になっているので、この騒動が落ち着けば何かお礼でもした方がいいかと思うが、それは追々父にでも相談することにして、午後からの同行者を加えての森での食糧調達に急いで向かった。




****




 奇妙な野鳥の群れが、忙しなく鳴きながら森の上空を旋回している。

 騒がしいその鳴き声は、俺が初めて森に入った時、日本のヤギを思わせる鳴き声で初対面時の俺を大いに混乱に陥らせたものだった。


「母様、本当にこんな所から生えてくるのですか?」


「そうよ。 焦ったら取れないから、ゆっくりね」


 森での採集に付き添ってくれる母と、その母の護衛として腕の立つガハンスと俺の三人で、鬱蒼とした森の中で取れる採集や狩猟に精を出していた。


「え、ええっ、何これ!?」


「一発でとれたのか。 凄いぞ、アル」


 背が足りない俺を肩車してくれる長兄は、季節関係なく真っ青に色付いた葉を持つ木の傍まで行くと、その青い葉一枚を両手で三十秒程暖めるように俺に言った。……うん、わけがわからない。

とりあえず言われた通りにしていると、その葉はどんどん肉厚になっていき、三十秒経つ頃には両手に収まらないほどの真っ赤な人参に変化していた。


「この木はキャロスの木と言って、冬を除いた季節はいつでも取れるぞ」


「いつも食べてるでしょ?」


「ほら、次はマルネギの木だ。衝撃を与えたら落ちてくるからな」


 兄がそう言って隣の木に拳を叩きつけるとボロボロと玉ねぎが木から落ちて来て、慌てて母と二人で拾っていく。

 森に入るようになってからは修業がてら狩猟をする機会も多く、採集も出来る限りしていたので自分はなんでも知っている気になっていたが、母と兄に教えられることは俺が知らなかった事ばかりだったのでとても新鮮な気持ちだった。


 言われてみれば、俺は今まで狩猟がメインで、自給自足出来ない肉ばかりに意識が向かっていたかもしれない。

 この、いつもスープに入っていた人参も農家で作っているものだとばかり思っていたが、この世界の人参は自生でしか存在しないらしい。

 一通りなんでも知っている師匠でも生まれた地域が違えば知らないことも実はあって、そもそも、金持ちの師匠がせっせと採集しなくても金で解決出来るというのも理由に上がりそうだが。


 その後も日が落ちるまで三人で採集に励み、時折襲ってくる動物や魔物を俺と兄で狩っていった。

 今日は無限鞄を持つ俺と同行している為、持ち帰る量を気にせずに狩猟できるので、張り切った兄と母はここぞとばかりに取りまくって狩りまくっていた。  俺も二人につられて森の中を禿げにする勢いで奮闘し、蜂蜜が沢山手に入ったのでとても満足です。


 その中でも特に嬉しかったのは、蜂の巣を発見した事と、じゃがいもとさつま芋、かぼちゃを発見出来た事だ!

 じゃがいもはピンク、さつま芋は黄色、かぼちゃは白といった悉く怪しい色をしていたが、無属性魔法の鑑定で調べた結果、毒もなく問題なかった。

 この世界での栽培方法は不明だが、これを人の手で育てることが出来れば不足気味な麦に変わって腹を満たせるし、自給率も大幅にアップ出来そうだ。


 連日、この三人で励んだ結果。

 最終的な成果は、果物・山菜・穀物・蜂蜜・肉、の各種盛り合わせてんこ盛りで、十畳ある客室でも収まらなくなり、急遽、自宅の隣に特大の食糧庫を設けることになってしまった。

 無論大量の食糧を食べきる事も腐らせる事も出来ないので、食糧庫全体に時間停止の機能を付け、冷凍室・燻製室・乾燥室など思いつくまま食材や用途に分けて機能を付けた部屋に思うまま放り込んでおく。


 冷凍室や乾燥室はともかく燻製室は魔法だけでは作れないので、檜風呂を作った時に木を嗅ぎ分けた自慢の鼻でリンゴっぽい木とか色々探して作ったんだぜ! みんなににやにや笑われながらな! 誰か俺を褒めろ!




「なあ、お前らアルファンに影響され過ぎじゃないか?」


 完成した食糧庫を見上げた父の呆れた視線を受けて、母とガハンスはそっと目を逸らした。



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