20-2 急所を仕留めた男達と武運長久の祈願(3.1k)
【ジェット☆ブースター】の初飛行をしてから四日後の午前中。今日も【黒部隊】の訓練を行っている。
訓練開始当初は【二連装ジェット☆バズーカ】に圧倒されていた【黒部隊】であったが、元々は選抜された精鋭部隊。初日のジェット嬢のアドバイスに従い日常生活にも訓練を取り入れた彼等は短期間でとんでもない強敵になっていた。
訓練中、少しでも油断すると俺達が瞬時にペイント弾まみれにされる。
気配を消して地下通路を動きまわり、モグラ穴を駆使してあらぬ方向から突如ペイント弾を放つ。しかも、息を合わせて九人連携の【同時弾着】で撃って来る。
マジで手強い。
そんな訓練を通じて俺もジェット嬢程ではないが【殺気】に敏感になった。
ジェット嬢の指示なしでもペイント弾の回避ができるようになったのだ。
今、訓練場の中央部平地で彼等の攻撃に備えている。
【黒部隊】は九名一チーム。作戦にもよるがおおむね【同時弾着】狙いで撃って来る。
だから初弾が来たら次の八発が瞬時に来る。
神経を研ぎ澄ませて気配を探る。
【殺気】を感じた!
九時方向から俺の背中のジェット嬢狙い。
一歩前に出る。
ヒュッ
一発目、回避成功。
次、三時方向から俺の足下狙いで一発!
素早く一歩下がる。
ヒュッ
ペイント弾が膝を掠めて飛び去る。二発目、回避成功。
避けた先の膝を目掛けて二時方向からその次が飛来。
読まれていたか。
もう一歩下がる。
ヒュッ
三発目、回避成功。
だけど続けて二歩下がった直後でバランスが悪い。
そこに次。
十時、零時、二時方向から俺の首あたり目掛けて【同時弾着】狙いで三発。
腰を曲げて頭を下げて回避。
背中に載るジェット嬢の分まで頭を下げないといけないので腰を大きく曲げる。
ヒュッ
俺の頭上、背中に載るジェット嬢の上あたりを交差する形で三発通過。
四、五、六発目、回避成功。
すまん。驚いたかな。
でも、重心が前寄りになりすぎた。
体勢を立て直すため脚を前に出そうとする。
「あっ!」
背後のジェット嬢が声を上げる。
その瞬間、背後、五時、七時方向からジェット嬢目掛けて【同時弾着】狙いで二発。
バァン バァン バァン
回避できないので、背面のジェット嬢が【二連装ジェット☆バズーカ】で二発を同時に蹴り落とす。
七、八発目、回避成功。
しかし、発射の反動で姿勢の立て直しが遅れ、発射音で気配を見失う。
あと一発。何処から来る?
ベシャッ「ぎゃふっ!」
ペイント弾が命中した軽い衝撃とジェット嬢の変な悲鳴。
前に足を出して体勢を立て直し上体を起こす俺。
「コラー! なんてことするのよ!」
バァン バァン バァン バァン バァン バァン バァン バァン
怒りの叫びを上げ【二連装ジェット☆バズーカ】を後方に乱射するジェット嬢。
何が起きたか分からんが今それをされるとマズイ。
気配が読めなくなる! それに、敵はもうそこには居ない!
バァン バァン ヒュッ ベシャッ ヒュッ ベシャッ ヒュッ ベシャッ ベシャッ ベシャッ ベシャッ バァン ベシャッ バァン バァン ベシャッ バァン ベシャッ ベシャッ ベシャッ
【二連装ジェット☆バズーカ】の発射音で周囲の気配が読めなくなった途端に四方八方からペイント弾が次々飛来し、回避も迎撃もままならない状態であっという間にカラフルな姿にされる俺とジェット嬢。
相手の思うつぼというやつだ。
試合終了の鐘が鳴り、惨敗した俺達は訓練区画から一旦退場。
ペイント弾による汚れを取れる範囲で拭き取り次の訓練に備える。
【二連装ジェット☆バズーカ】の乱射により訓練フィールド内が荒れたので、その整備のために休憩時間が長くなってしまった。
待機場所も日陰になってはいるが、なんとなく木陰で休みたい気分だったので、コーヒーを片手にすぐ近くの裏山の茂みのあたりに歩いて行く。
ジェット嬢が未だに背中で震えている。
どうしたというのだ。
さっきの乱射もジェット嬢らしくない。
今の彼等は手強い。
またアレをされるとこちらが秒殺されるから何が起きたのか聞いておこう。
「ジェット嬢よ。さっきは何があったんだ。訓練中に乱射なんてらしくないぞ」
「……アンタがかがんだ時に、スカートの中にペイント弾を撃ち込まれたのよ。下着が汚れたし未だに痛いわ……」
「そうか。それはすまんかった。まぐれ当たりだろうが、その部分は防具装備したほうがいいな」
「本当にまぐれ当たりかしら。なんかこう、周到に狙われたような気がするのよ」
「あの距離でそこまで狙えるものか? だとしたらそれはそれですごいぞ。不道徳ではあるけど」
「もし狙ってやったんだったら、訓練だとしても許しがたいわ」
そんな話をしながら裏山の茂みあたりを歩いていると、茂みの奥から男達の歓声が聞こえた。
そっちの方を見てみると林の中の空きスペースで男たちが胴上げしながら騒いでいた。
【黒部隊】のさっき訓練した班の九人だ。
「イヤッホォォォウ! ついに狙い撃ち成功!」
「俺達のチームワークの勝利だ!」
「初弾で前に進ませて!」
「直後足下に時間差で二発でバランス崩させ!」
「同時弾着三発でかがませて!」
「かがんだところで後方より二発で脚を開かせて!」
「迎撃の圧縮空気砲炸裂と同時にスカートの中の【急所】に一撃!」
「【赤い凶星】に【ギャフッ!】と言わせた俺達生還!」
「そして乱射を誘導して訓練も大勝利!」
「全軍から集まった賭け金は最初に仕留めた俺達の物だ! お祝いだ!」
「生還の願掛け成功を祝して、今夜はみんなで乾杯だ!」
「俺達、生還間違いなし! うははははは!」
なるほど、アレは周到に狙ってやったのか。
戦場から生還するための願掛けみたいなものか。
腕を上げたな【黒部隊】。
そして、【急所】を仕留めた男を胴上げして、願掛け成功を祝って騒いでいたのか。
でも、他に願掛けの方法思いつかなかったのか?
確かに【急所】を仕留めるって言ったのジェット嬢だけど。
女性相手にそれを本当に実行するのは、いくらなんでもえげつないぞ。
こういうことをすると相応の報いがあるのがこの世界の理だぞ。
俺の背中で話を聞いていたジェット嬢が怒りの籠った声でつぶやく。
「……温厚で慈悲深いワタクシは優秀な教え子達に【武運長久の祈願】をしたいので、ワタクシを彼等の方に向けてもらえるカシラ」
俺は、言う通りにする。
止める理由は無い。存分にやりたまえ。
「ミナサンおめでとう! 【免許皆伝】よ!」
「!!!!!」
「元【聖女】のワタクシから【武運長久の祈願】よ。受け取りなさい! 撃ち方用意!!」
「ヨーソロー」
バァン ドシャッ バァン 「光栄でありまグェッ!」ベシャッ バァン バァン 「グエッ!」 バァン 「ごめんなさゲフッ!」 バァン ズザァァァァァ バァン 「どうかお許しギャ!」バタッ バァン バァン バァン ベシャッ バァン バァン ドサッ バァン 「ギャッ」 バァン バァン 「ギャァ!」 バァン バァン バァン 「アンタ達 生き残りなさいよ!」 バァン ドサッ バァン 「私をこんな目に遭わせたんだから! 生き残りなさいよ!!」 バァン バァン ベシャッ バァン バターン バァン バァン 「必ずや生還をグハッ!」 バァン バァン ドサッ バァン バァン バァン バァン バァン バァン
【二連装ジェット☆バズーカ】による【武運長久の祈願】はずいぶん長いこと続いた。
【黒部隊】他チームも【急所】を狙っていたそうだが、ジェット嬢が怒ったので急遽ルールを設定。俺の帽子の上に小さなお守りを標的として装着し願掛け用として代用した。
実質難易度が上がったにも関わらず、他チームも願掛けを成功させ八十一名全員が【免許皆伝】となった。
俺は、顔面ペイント弾まみれになった。痛い。
ちなみに、【全軍から集まった賭け金】とやらは全部ジェット嬢が没収した。
【祈祷料】だそうだ。




