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20-1 ジェット☆ブースター初飛行、俺は部品(1.7k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから二百十一日目、サロンフランクフルトで開戦準備が始まってから二十日目。【黒部隊】が【鬼教官】に蹴り倒される訓練が開始された三日後の夕方。


 あの訓練は毎日続けているが、今日は俺達は少し早めに切り上げて機動推進牽引機【ジェット☆ブースター】の試運転を行っている。


 この【ジェット☆ブースター】は単体飛行も可能なある種の【飛行機】であるが、翼を持たない。

 俺の知る【飛行機】の概念とはかけ離れたメカニズムで飛行するトンデモメカだ。


 魔力推進脚に接続した二個の大口径ノズルがメインエンジン。

 ピッチングとヨーイングの姿勢制御用サブエンジンをジェット嬢の頭上に伸びるパイプ先端に配置。ジェット嬢から見て二時、六時、十時方向に連続噴射することで、飛行時の機体の傾斜とメインエンジンの推力方向を制御する。

 併せて、ローリング制御用エンジンを左右両脇に伸びるパイプに各一方向配置し、必要に応じて噴射することで機体の回転を制御する。


 フロギストン物質変換により作り出した圧縮空気による無限燃料の魔力ロケットエンジン。

 質量保存の法則を風魔法でぶち壊して作ったこの反則技デバイスの特性を最大限活用して、前世世界では原理的に不可能だった物をこの世界の技術者は作り出してしまった。


 【品質保証部】監修の下で単体テストは終了していたので、組み立て後に【機動推進機試験所】の建屋内で最大推力試験もスムーズに完了。


 ちょっと飛んでみたいと言い出したジェット嬢を止める理由もなく、飛行訓練ということで、俺達はサロンフランクフルトとヨセフタウンの間を飛び回っている。


「ファンタスティィィィーク!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ジェット嬢は大喜びで飛び回っているが、急加速、急降下、急転回を好き放題楽しんでいるので、一緒に飛んでいる俺は生きた心地がしない。


 何故俺も一緒に飛んでいるのか。

 なんと俺は、降着装置としてこの【ジェット☆ブースター】に組み込まれてしまったのだ。


 メインエンジンと姿勢制御用サブエンジンを固定したフレームを俺が背負い、そのフレームにジェット嬢を乗せてメインエンジンに魔力推進脚を連結する形で完成。姿勢制御含めた操縦はジェット嬢が風魔法を駆使して行う。

 姿勢制御用のサブエンジンのおかげで、俺が下になった状態でも【ねずみ花火】状態にならずに離陸ができる。


 元々は飛行時は俺が上でジェット嬢が下になる設計ではあったが、牽引している【八咫烏やたがらす】を目視できたほうが操縦しやすいというジェット嬢の意見を採用し、ジェット嬢が上向き背面。俺が下向き正面になる形で飛ぶことになった。

 俺からしか地上が見えないので航法は俺の担当になるが、それは【ウィルバーウイング】で慣れているので問題ない。


 問題は、単体飛行時の機動性能。


 翼を持たずに、魔力ロケットエンジンの推力だけで飛ぶので、飛行機の常識を超えた超絶機動力を発揮する。しかも、メインエンジンの推力は、有翼貨物コンテナを牽引できるだけの大推力。

 加速力、旋回力、上昇力、どれをとってもスーパーロボットのようなもの。


 ジェット嬢は大喜びで飛び回っているが、振り回される俺は、正直つらい。

 酔うとかそういう次元じゃない。


 さんざん振り回されて、目が回り、手足がだらーんと垂れ下がった状態で飛行中の【ジェット☆ブースター】のフレームに吊り下げられる俺。

 背後で機動力と大推力を楽しむジェット嬢に力なく声をかける。


「俺が目を回した状態で着陸したら地上で転ぶかもしれんぞ。日没も近いし、そろそろ遊覧飛行にしてくれ」

「それもそうね。しばらくゆっくり飛ぶから、その間に着陸に備えて身体をほぐしておいて頂戴」


 暫くの遊覧飛行の後、無事着陸。

 ちなみに、着陸時と地上での移動時にはノズルやフレームを何処かにぶつけないように注意が必要だ。

 ジェット嬢曰く、衝撃が骨に響いて痛いらしい。


 なにはともあれ、【ジェット☆ブースター】の単体飛行試験は無事終了。

 有翼貨物コンテナ【八咫烏やたがらす】の牽引飛行試験は九日後の予定だ。

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