表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/166

19-4 リオ主任、脚は飾りじゃないと気付いた男(2.5k)

 俺達が【朝帰り】をした日の午前中。朝食の片付けが終わった頃、食堂棟に来客。俺と車いす搭乗のジェット嬢が出迎えると、キャスリンだった。


 いつものデタラメコーディネイトでフラッと現れた。


「みなさんおはようございます」


 とはいえ、珍しい来客ではない。

 最近キャスリンは兵士達の訓練のためにサロンフランクフルトに常駐しており、【一方通信】を使用した施設内放送設備代わりや訓練用各種模擬砲撃装置の発射係として激務をこなしている。


 時間が空いたらここに来てカウンター席でコーヒーを飲んで休憩したりするのだが、今日は何か様子がおかしい。


 入口に立ったまま動かない。


 まさか!


 また立ったまま気絶している! 弁慶か! 今度はナニがあった!?


 いつぞやのようにメアリを呼び、立ったまま気絶しているキャスリン嬢をストレッチャーに載せて医務室に搬送。

 医務室のベッドに移す。


 でも今回はベッドに移したらキャスリンはすぐに意識を取り戻した。

 スミスに【ユグドラシル王国戦略陸軍】の軍医を呼びに行ってもらったが、メアリの見立てでは【過労】だそうだ。


 ベッドで休むキャスリンにジェット嬢が語り掛ける。


「キャスリン最近ちょっと働きすぎよ。【一方通信】による連絡補助はともかく、兵士達の訓練用の模擬弾発射係とか誰かに代わってもらえないの?」

「ええ、さすがに無理が出てきたので少佐に代理を手配するようにお願いしたところですわ。心配かけさせて申し訳ありません」


「いいから、水とか軽食とか持ってくるからしばらく休んでいて頂戴」

「コーヒーが欲しいですわ」


 軽食はジェット嬢が、コーヒーは俺が用意した。

 キャスリンは今日はお休みだ。


 キャスリンはベッドの上で休憩しながら、見覚えのあるオーラを出している。


 あのオーラは俺の前世世界で見た覚えがある。

 【家事育児と仕事を両立して社会で活躍するキャリアウーマンに憧れてがんばってきたけど、核家族構成でソレするのは原理的に無理って気づいたから、長男が小学校入学して延長保育も使えなくなるし、この機にキャリアリタイヤして息子の成長見守るのに専念するわと決意した時】

 のオーラだ。


 王族の一員としての責任感はあるのだろうが、無理しちゃいかんぞ若者よ。

 でも、倒れる前に少佐に代理の手配を依頼しているあたりは、前回の墜落事故の時の教訓が生きているのかな。


 そうしているうちに食堂の昼食営業の時間が近づく。

 兵士達の食堂は別なので、この食堂棟で昼食を食べるのは相変わらず【西方運搬機械株式会社】と【西方航空機株式会社】のメンバーだ。戦時量産体制のため彼等もけっこう忙しい。


 そして、いつも通りの昼食営業が終わる。

 昼食の後片付けが一段落した頃に【ジェット☆ブースター】開発チームリーダのリオ主任が食堂棟に訪ねてきた。

 スーツケースのような鞄を持っている。


 【ジェット☆ブースター】の設計変更について相談があるということなので、テーブル席、車いす搭乗のジェット嬢の対面に案内し、コーヒーを出す。

 俺はジェット嬢の左後ろで話を聞く。


 リオ主任が話を切り出す。


「先日、椅子から落ちて腰を打ちましてね」

「それは大変ね。治療はしたの?」


「まんざら飾りでもないとわかりました」

「無理! 私この人と会話できる気がしない! 今日も何を言っているのか分からない!」


 ジェット嬢が助けを求める目で俺を見上げる。


 たまに居るよね。いきなり話が脈絡のない方向にぶっとぶ人。

 でも俺は40代のオッサン。人生経験豊富なオッサンはそういう人との会話も慣れている。

 なぜなら、前世の俺もどちらかというとそんな奴だったから。


「つまり、リオ主任は、椅子から落ちて怪我したことを通じて、脚が飾りではなくて必要なモノであると気づくことができたと言いたいわけだ」

「そうなんですよ。飛ぶ乗り物にとって、降着脚というものがとても重要であることを身をもって知ったので、前回の反省を踏まえて【ジェット☆ブースター】の改造案をいくつか持ってきました」


 そう言って、リオ主任は鞄から設計図らしきものが書かれた紙を四枚取り出してジェット嬢に渡した。

 ジェット嬢がそれらを見てしばし考えてから応える。


「うーん。よく考えてくれたのはわかるけど、着地の衝撃って大きいからこれで耐えられる自信が無いわ。ドクターゴダードから聞いてると思うけど、魔力推進脚の接合部って推力には強いけど衝撃に弱いのよ」


 リオ主任が残念そうにうなだれながら、鞄から別の資料を出した。


「その機構で難しいとなると、あとはこんな方法になってしまいますが」

「……イイじゃない! コレよ。コレでいいのよ。もう、人選含めて計画全体に不安と恐怖と不信感しかなかったけど、見直したわ! やればできるじゃない!」


 ジェット嬢が嬉しそうにひど事を言ってるが、前回の試運転時の顛末を考えればそう言われるのもやむなし。

 リオ主任は苦笑いしながらも、ジェット嬢が賛成した最終案で設計を仕上げるとのことだった。

 どんな案だったんだろう。


 そして帰り際に、ローラとポーラからの贈り物だといってジェット嬢に手紙とそこそこ大きめの箱を渡していった。


 中身は【くつ】だそうだ。


 リオ主任が帰った後、食堂のテーブルで手紙を読むジェット嬢。


「まぁ、【くつ】といえばそうかもしれないけど。本当にどいつもこいつも私を【最終兵器】にしたがるんだから……」


 【高性能】だからだろ、とは言わない。

 【品質保証部】を呼ばれたくないからな。


「結局、それは一体何なんだ」

「キャスリンの代わりに兵士の訓練を手伝うための【商売道具】らしいわ。アンタも一緒に明日の午前中から来てほしいそうよ。給料も出るみたいだけどどうする?」


「そうか。何をどう手伝うか分からんが、俺に出来ることならがんばろう」

「じゃぁ、引き受けるって返信書くわ。少佐に届けて頂戴」


 ジェット嬢は服の中から紙とペンを取り出して、その場で返信を書いて俺に渡した。

 本当に便利な服だなそれ。


 その後、ジェット嬢は自分の部屋で【くつ】の試着をしたいというので、いつも通り背中に張り付けて二階の四号室に送り届けた。

 そして俺は赤髪の少佐にジェット嬢からの返信を届けるべく、食堂棟北側の兵員宿舎の事務室に向かう。


 そこで少佐より明日の集合場所と集合時間の指示を受けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ