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18-5 転生技術者の葛藤(1.2k)

 ジェット嬢が【機動推進機試験所】で【ツッコミ上手】を披露した三日後の夕食後。俺はジェット嬢を背中に張り付けて東池のほとりに居る。

 この世界の文字が読めない俺は、各方面から届く資料や報告書をここでジェット嬢に読んでもらっている。これがここ最近の日課だ。


 背中のジェット嬢が資料の内容を説明する。


「アル博士の研究所、内乱の末解散したそうよ。メンバーの一部は【ユグドラシル王国戦略陸軍】管轄の新しい研究所に所属を移して仕事を始めたらしいわ」

「そうか」


「アル博士は投獄されたって、この資料には書いてあるわ」

「そうか」


「他の開発案件についても、資料届いてるわよ」

「そうか。読んでくれ」


「いいけど、コレも内容が随分アレよ」

「いいんだ。読んでくれ」


…………


 ユグドラシル王国南部の鉱山地帯には発破のための爆薬を長年研究していた研究室があった。アル博士はそこの責任者だった。

 鉱山での採掘作業を安全に行うため、信管や様々な種類の火薬を製造する技術を確立し、改良を続けていた。

 今回はそこに【迫撃砲】の発射薬と【成形炸薬弾】の開発を依頼した。国内では、そこしか依頼できるところが無かった。


 だが、アル博士はその開発依頼を拒否。

 国の状況から開発の必要性を理解する弟子達の説得にも応じず、研究室は内乱状態に。最終的にアル博士は途中だった自らの研究資料を焼却の上、投身自殺を図った。


 重傷を負いながらも一命を取りとめ、再度の自殺防止のため現在王宮地下牢の独房に監禁されている。


 国の発展のため。作業員の安全のため。

 その想いで長年積み上げた技術を人殺しのために使うのが許せなかったそうだ。


 攻め込んでくる敵の兵士は人間だ。

 故郷に帰れば日常生活があり、家に帰れば家族が居る普通の人間。

 そんな彼等を焼き殺すために研究成果を使うのを許せなかったそうだ。


 しかし、今はそんなことを言っていられる状況ではない。

 この国を、この世界を守らなくてはいけない。


 アル博士は投獄されたが、解散した研究室から転属した一部の弟子がこちらの依頼に応じて設計を開始。完成の見通しを立てつつあるとのこと。


 俺にも葛藤かっとうはあった。いや、未だに迷っている。


 新兵器の開発を拒否した俺が、新兵器の開発を提案するのか?


 その結果、長い伝統を持つ研究室を解体し、子弟の絆を破壊した。


 俺は技術者だ。軍人じゃない。


 だが、兵器の提案だけでなく、戦術まで教えた。


反斜面陣地はんしゃめんじんち


 あれは、俺の前世世界の戦争で実際に使われた戦術だ。


 あの世界で、俺が生きた平和な時代のいしづえとなった人達が命と引き換えにのこした知識だ。

 それを、俺はこの世界に持ち込んだ。


 前世世界の英霊えいれいに対して、これは、報恩ほうおんか、それとも冒涜ぼうとくか。


 俺の行為は許されるのか。

 一体、誰が許すのか。

 誰に許しを乞えばいいのか。


 エスタンシア帝国との開戦期日まで残り四十四日。


 俺は、疲れていた。

●次号予告(笑)●


 男の葛藤かっとうをあざ笑うかのように、戦争へ向かって時は進む。

 一時の休息を求め、背中合わせの二人は月の無い闇夜の空に消える。


 思い出の場所で男は悟る。

「女の過去は【滅殺案件】。どちらの世界でも共通だ」


 そして、何かを悟った男はもう一人。

「まんざら飾りでもないとわかりました」

 謎の悟りを語りつつ、脚の無い女に【靴】を贈る。


 開戦が近づく中、かつて剣を武器としていた兵士達は、銃と砲に対峙するための新戦術のための猛訓練を続ける。

 前例の無い戦い。訓練方法も試行錯誤が続く。

 そんな時、王宮騎士団時代に騎士達に恐れられた【赤い凶星きょうせい】が訓練施設に降臨する。


次号:クレイジーエンジニアと有給休暇

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