2-4 新開発!魔力ロケットエンジン(2,2k)
水筒を飛ばして遊んでいたら、外が暗くなってきて風も冷たくなってきた。
だから遊びはぼちぼち切り上げて、二人で馬車の残骸に入る。
ジェット嬢を馬車の座席の上に置き、俺は馬車の床に座る。
ビッグマッチョな今の俺の身体では窮屈すぎて馬車の座席に座れない。
火魔法で作った照明の下で次の目的地について話し合う。
食料は二人分で考えるとあと二日分もない。
食料を残してくれた本隊にとっては、俺の降臨はイレギュラーだったのだ。
「金貨ならある程度持っているから、町にさえ到着すれば何とかなるわ」
「最寄りの町までどのぐらいかかるんだ?」
「アンタの歩く速さなら二日で着けると思う」
地図を広げながらジェット嬢が応える。
だったら問題なさそうな気もするが、ジェット嬢が憂鬱そうに続ける。
「でもねぇ。町に到着して本隊と合流するのも気が進まないの。役割は果たしたし、仕事は終わったし、アンタも居るし……」
事情は分からんが、本隊と合流したくないようだ。
まさか、林で迷子になったのもわざとか?
だったらそこまでして行きたくないところにわざわざ行く必要も無い。役割を果たして仕事が終わったのは俺も同じだ。
行きたいと思うところに行けばいいんだ。そう思って聞いてみる。
「逆に、今一番行きたいところはどこだ。そこに行けばいい」
「ここから東側にヨセフタウンっていう町があるの。以前私が住んでいた町。今はそこに帰りたいわ。ここからじゃ遠すぎるけど」
地図を指さしてジェット嬢が言う。
仕事が終わったから地元に帰りたいという気分か。
俺はこの世界の文字は読めないが地図ならわかる。地図を見てヤマ勘で距離を読み解くと、ここから東南東130km~180kmぐらいか。
歩いて行くには遠いな。食料が持たない。
それに、ジェット嬢はこう見えて両脚切断の大怪我をしている。切断位置は直接見てはいないが、おそらく膝関節より上側。重症だ。
この世界の医療がどんなものかはわからないが、早めに医者に診せたい。
「飛んでいけたらいいのになぁ」
ジェット嬢は馬車の窓から外を見上げて寂し気に言う。
「飛んで行ったらいいんじゃないか」
俺は応える。
ジェット嬢は目を丸くして続きを聞きたそうにしていたが、夜も遅くなっていたので続きは夜明け以降ということで、馬車の中で寝た。
◇
翌日夜明け。俺はファンタスティックな帰省作戦概要を説明した。
廃棄してあるボートに大砲から作った魔力ロケットエンジンを搭載して魔力ロケットボートを製作。それに乗ってヨセフタウン郊外上空まで飛ぶ。
ヨセフタウン郊外上空で、魔力ロケットボートを切り離し、落下傘でヨセフタウン近隣に降下し、そこからは歩く。
ファンタスティックに無茶苦茶で、かつ前世の俺の趣味が強く入っている。しかし、ジェット嬢がいればこんな無茶苦茶なこともできそうな気がしていた。
キーパーツになるのは、魔力ロケットエンジン。
フロギストン物質変換による空気生成を大砲の砲身内部で連続的に行い、生成した空気を砲口から噴射。その噴射の反動を推進力とする。言うなれば、無限燃料ロケットエンジン。
ファンタジーとテクノロジーの融合が生み出す反則技デバイスだ。
本当にできるかどうかはわからない。
分からないなら、分からない部分を一つ一つ検証していけばいいのだ。
検証その一
推進力を維持するだけの莫大な量の空気生成を連続的に行うことができるか。
昨日落下した砲身を回収し、それを今度は砲口を上にして三割方地面に埋める。その状態で、砲口付近での流速が音速近くになるぐらいの空気生成が連続的にできるかどうかを試す。
試してみたジェット嬢曰く、媒体となる砲身に身体が触れていれば余裕で可能だという。
離れていても任意の場所で空気生成はできるが、魔力ロケットエンジンに推力を与えるほどの流量は得られなかった。
触れていない場所でもある程度の空気生成が可能とのことなので、ボートの空中における姿勢制御はこの風魔法で可能ということも分かった。
検証その二
大砲一門でこの飛行が可能か。
ここは前世の俺の記憶が役に立った。
ロケットエンジンの推進力は質量流量と排出速度で決まる。
荷物の中にあった紙切れに、この世界の文字ではない俺にしか読めない文字を書いてうろ覚えの計算式と、うろ覚えの定数を駆使してざっくり計算をする。
計算の結果、この大砲の口径では噴射量が足りないことが分かった。
搭載するロケットエンジンの数を増やすか、この大砲の口径を広げる改造をするかジェット嬢と協議。
搭載数を増やすとその分重量も増えるので、口径を広げる改造をすることに。
火魔法での加熱と、風魔法の応用で発生させた衝撃波を使って、砲身端部の口径をロケットエンジンのノズルのように広げる改造に成功。出口口径は元の三倍ぐらいになった。
これで計算上は推力は十分。のはず。
計算間違ってたらごめん。
検証その三
着陸に使用する落下傘が製作可能か。
俺は捨ててあったテント生地とロープを使って落下傘を仮組み。ジェット嬢の風魔法により展開させてみて、うまく展開しない場所があれば修正。
そうやって形を決めたら、その仮固定にあわせてジェット嬢が皮用の裁縫道具を駆使して縫い合わせていく。ジェット嬢は意外にも裁縫が上手い。
そういえばこのおんぶ紐的ハーネスも即席で作っていたな。
忙しくそんなことをしていたら空が暗くなってきたので、軽く食事を摂って馬車の中で就寝。
ジェット嬢も楽しんでいるようだ。俺も楽しい。




