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18-2 サロンフランクフルト前線基地(2.1k)

 首都のヘンリー邸にて、徹夜で戦術と兵器の打ち合わせをした翌日午前中。俺達は【試作1号機】と【ウィルバーウイング】の【編隊飛行】でサロンフランクフルトに帰還した。

 

 【試作1号機】の乗客としてヘンリー卿も一緒に帰ってきたけど、ヘンリー卿だけは最前線となる領内各地に指示を出した後、再度ウェーバ操縦の【試作1号機】で首都に戻る予定だ。


 ヘンリー卿の趣味のために使われていたこのサロンフランクフルトは、元は前線基地だったそうだ。

 そして、今回も再び前線基地として使われることになる。


 そういうわけで、その準備のために一気に慌ただしくなる。


 食堂棟北側広場の空いた土地に、兵員宿舎を作る工事が始まった。

 今日中には【ユグドラシル王国戦略陸軍】の主力部隊が首都から大型馬車の車列で出発するので、六日後にはその大人数が到着する。

 野営慣れしている部隊ではあるが、必要最小限の施設は完成させておく必要がある。

 必要となる大量の食料については、オリバーが西方農園の収穫分と、不足する分は各地の農家から買い集めることで対応するとのこと。


 裏山の斜面を利用した戦術訓練施設の準備も開始した。


 土木工事を得意とする【くさ三連星さんれんせい】と、その仲間たちが工事準備を始めている。五日程度で可能とのことだ。

 戦場となるヴァルハラ平野の測量も従来は平野部の測量だけだったが、丘陵きゅうりょう部の精密な測量が必要になったので【ヴァルハラ平野捜索隊】の活動を再開した。


 そして、鉄が大量に必要になるので、エドゼル社長を中心として国内各所から鉄材料の購入手配を行う。情報伝達はキャスリンの【試作2号機】が頼りだ。


 昨晩の徹夜の打ち合わせで俺が前世世界の知識から持ち込んだものは【反斜面陣地はんしゃめんじんち】【迫撃砲はくげきほう】【成形炸薬弾せいけいさくやくだん】の三つだ。


 【反斜面陣地はんしゃめんじんち】とは。


 丘陵地帯きゅうりょうちたいの地形を活用した防衛陣地の形の一つで、敵に向かう側と反対側の斜面に主要な陣地を構築するというものだ。


 敵から見るとこちらの陣地は丘陵きゅうりょうの影に隠れているので、直接攻撃はできない。丘陵きゅうりょう越しの間接攻撃も狙い撃ちができないので有効な攻撃は困難だ。

 これで【重機関銃】や【大砲】の火力を無効化する。

 でもそれだけだとこちらからの攻撃が出来ず、丘陵きゅうりょうを突破されてしまう。

 そこで、【迫撃砲はくげきほう】を使う。


 【迫撃砲はくげきほう】とは。


 大砲の一種で、砲弾を斜め上方向に発射して山なり弾道で敵を狙うものだ。

 水平発射の大砲とは異なり発射の反動を地面で受け止めるため、構造が複雑で大掛かりになる駐退復座機ちゅうたいふくざきが不要となり、大口径の砲弾を簡単な構造の大砲で発射できる。


 反斜面陣地はんしゃめんじんち側にこの迫撃砲を多数配置。弾着観測と射撃指示を丘陵きゅうりょうの頂上から行う間接照準方式で、一方的に敵の頭上から砲弾の雨を浴びせることができる。

 しかし、山なり弾道の迫撃砲弾では【戦車】の装甲に対する貫通力が不足する。そこで、【迫撃砲はくげきほう】の砲弾に【成形炸薬弾せいけいさくやくだん】を使用する。


 【成形炸薬弾せいけいさくやくだん】とは。


 砲弾内の炸薬を漏斗ろうと状に成型し、爆発エネルギーを砲弾前面に集中させることで装甲の貫通力を上げたものだ。これで【戦車】を撃破する。


 逆に言えば、敵の【戦車】を撃破しる装備はこれしかない。一両でも討ちもらしたら危機的状況になる。


 幸いヴァルハラ平野には、【反斜面陣地はんしゃめんじんち】構築に適した丘陵きゅうりょう地帯があることが分かっており、そこは予測進撃ルートと重なる。九月に残骸を発見したのもその周辺だ。

 敵の火力を無効化する手法を使えるなら、あとは兵站能力の勝負になる。


 昔誰かが言っていた。


 【作戦行動において戦闘より重要なのは補給】


 【補給や行軍を支えるのは移動力と輸送力】


 【動く力と運ぶ力の優劣が戦況を左右する】


 俺の前世世界ではその視点を無視して【防衛戦】なのに【玉砕戦ぎょくさいせん】になってしまった戦いもあったが、今回はそんなヘマはしない。


 前線基地であるサロンフランクフルトに必要物資と人員を集約。


 この前線基地と複数の【反斜面陣地はんしゃめんじんち】の間、距離およそ20kmの区間に複線でレールを敷設しトロッコを走らせて、人員、食料、弾薬の輸送を高速で行えるようにする。

 そして、陣地防衛の人員は三交代制とし、途切れない補給との組み合わせで、平地に釘付けにした敵軍を二十四時間体制で【迫撃砲】で頭上から圧迫し続け降伏を促す。


 昨晩話し合ったこの作戦概要を元に、少佐率いる【ユグドラシル王国戦略陸軍】の作戦検討班にて具体的な【反斜面陣地はんしゃめんじんち】の立地と設計詳細及び、トロッコ用レールの敷設箇所を検討している。

 【迫撃砲】は、ユグドラシル王国内にある精密機械の製作を得意とする領地と、ヨセフタウンの鍛冶屋に設計検討を依頼。

 【成形炸薬弾せいけいさくやくだん】については、ユグドラシル王国南部の鉱山地帯にて爆薬の研究をしている研究室があるとのことなので、そこに開発を依頼。


 そんな中で、今日の俺とジェット嬢は通常進行だ。

 昼食時は厨房立ち入り禁止のウェイターとトレーラック付き車いすのスーパーウェイトレス。昼食営業終了後は、食堂の掃除。


 夕方に、【西方航空機株式会社】のリオ主任が食堂に訪ねてきて、【八咫烏やたがらす】の推進装置開発に協力してほしいと頼まれた。

 よくわからないけど俺とジェット嬢は快諾した。

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