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17-2 脚付き女と失礼男(2.3k)

 牢獄の部屋に残るのは、変な座椅子に座るジェット嬢と俺。


 よく見ると、この変な座椅子は直方体の木箱から上と前の二面の板を取ったような形をしている。

 木箱を材料に即席でジェット嬢専用の座椅子を作ったのかな。

 シートベルトまでついている。


「アレが【手段のためには目的を選ばないどうしようもない人間】なのね」

「そうだな。【クレイジーエンジニア】の鏡のようなものだな」


「本当にどうしようもないわね。四人もあんなになっちゃって、世界が滅びたらどうしてくれるのよ。アンタ責任取りなさいよ」

「正直、すまんかった。何とかするようにがんばるよ」


 そうは言っても、【クレイジーエンジニア】は投獄されても止まらない。

 【滅殺破壊弾】の完成は近づいてしまった。本当にどうしたものか……。


 そんなことを考えていたら、木の板を持った作業着姿の男二名が牢獄にやってきた。


「あ、迎えが来たみたい。私はちょっと用事があるから行ってくるわ。アンタも独房で大人しく待ってて頂戴。くれぐれも変な物作ろうとか考えないようにね」


 牢獄に入ってきた男達は、手際よくジェット嬢の箱型座椅子の正面と上面に木の板を釘止め。

 完全な木箱になったそれに赤いラベルを多数貼り付けて、両脇から持ち上げて手早く運び出していった。


 ジェット嬢よ。

 ソレ座椅子じゃなくて木箱だったんだな。


 この世界の常識は本当によく分からないが、俺の前世世界ではそれは【木箱梱包きばここんぽう】といって重量物や精密機械を輸出する時とかに使う、荷物用の運搬方法なんだぞ。


 そして、木箱に貼り付けられた赤地に白文字のそのラベル。

 俺はこの世界の文字は読めないんだが、そこには【危険物】とか【取扱注意】とか、そんな意味の文言が書いてあるんじゃないのか?


【木箱梱包対応取扱注意型滅殺破壊系ヒロイン】爆誕


 許されるのかなコレ。

 酸欠で窒息する前に【開梱かいこん】してもらうんだぞ。


 その後、俺も独房に移された。

 ジェット嬢の慈悲の心なのか、ぐるぐる巻きは免除された。


…………


 独房の中でしばらく仮眠。

 暗くて静かなので、寝心地はそんなに悪くない。


「出ろ」


 仮眠終了。

 若干寝ぼけた頭で看守に従い廊下に出ると、ドレス姿のジェット嬢が立っていた。


 そう、立っていたのだ。


 綺麗に化粧はしているが、間違いなくジェット嬢。

 腰に手を当てて得意げに俺を見上げている。隣にはメイド服姿の女性が並んでいる。

 お姫様と従者のような組み合わせだ。


 さっき【木箱梱包】で運び出されたジェット嬢がお姫様的ポジション? 何なんだ、この状況。

 隣にいらっしゃるメイド服姿の女性とはどんな関係? 


 昨日からいろいろありすぎてちょっと疲れていた俺はふと思った言葉を漏らす。


「誰?」


 瞬時に顔をひきつらせたジェット嬢が、おもむろに背後の鉄格子に左手でぶら下がる。

 そして、


 ガラン ガラン


 ジェット嬢のドレスのスカート下に脚が落ちた。

 やっぱり義足だったか。作ってあったんだ。


 目の前で脚を切り離すとか、過去のトラウマを思い出すのでちょっとやめてほしいんだけど。

 そんなことを考えて呆然ぼうぜんと落ちた義足を眺めていると、ジェット嬢は右手でドレス後ろ側の飾りを取り外した。

 同時に、スカート下半分が切り離されて床に落ちる。


「私よ」


 ああ、分かってるよ。


 片手で鉄格子にぶら下がり、膝丈ひざたけスカートの下に脚が無い。

 こんなことができるのはジェット嬢以外にあり得ない。

 そのヘンテコギミック付きドレス。いつの間に作ったんだ?


 一緒に見ていた看守が唖然としている。驚くよね。心臓に悪いよね。これは。

 俺もあんまりな眼前の光景に呆然ぼうぜんとしていると、ジェット嬢が怒った。


「分かったんだったら、こっち来て回れ右!」


 言われたとおりに近づいて背中を向ける。

 ジェット嬢はいつものように俺の背中によじ登り、俺の背中に張り付いた。


 一緒に来ていたメイド服姿の女性。アンというそうだが、彼女の案内で牢獄出口の階段に向かう。

 他のメンバーは先に出発したとのこと。


 牢獄出口の階段を昇りながら、背中に張り付いたジェット嬢に聞く。


「さっきの義足で階段上ってもよかったんじゃないか? 脚付きのドレス姿も似合ってたぞ」

「アンタが【誰?】とか言わなかったらそうしたわ」


 前世世界で読んだ創作物でよくあるパターン。

 化粧前後の女性を別人と認識してしまうアレ。


 ファンタジーな読み物としては面白いとは思うが、現実的にはそんなの絶対あり得ないと俺は思う。

 普段会わない人間ならともかく、身内とか普段会う相手なら化粧したって大怪我したって顔は普通に分かるだろ。

 俺の前世の妻も詐欺メイク自称してたけど普通に分かったぞ。

 確かに綺麗にはなったけど。


 普段一緒に居る相手に対して化粧したぐらいで別人認識で【誰ですか】とか失礼すぎるだろ。


「…………」


 そこまで考えて、俺はやっと気づいた。

 失礼やってるのは この俺だ。


「やってもぅた……。俺はやっぱりダメな奴だ」

「反省しなさい」


 俺は、深く反省した。


 階段を昇って地上階。

 王宮内の通路を進みながら俺はジェット嬢に確認する。


「どこに向かってるんだ? まさかギロチンじゃないよな」


 俺もこの流れでギロチンは無いとは思っているが、失言の罪は自覚している。


「王族に言いたいことがあるんでしょ。国王に直談判して秘密会合を手配したわ。時間がないから会合に直行よ。軽食ぐらいは出してもらえるように頼んでおいたわ」


 俺と違って、ジェット嬢はできる奴だ。そう思った。


「国王に直談判とかオマエ本当に何者なんだ? でも今の状況では最高にありがたいぜ」


「どうするつもり?」

「暴言を吐くつもりだ」


「やっぱりね。ヘンリー卿達には悪いけど、話はつけてあるから思う存分やっちゃって」

「ありがたい」

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