17-1 牢獄から始まる新兵器構想(2.3k)
40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから百八十九日目。ヘンリー卿の首都邸宅にて戦争と兵器の話で盛り上がった翌朝。
俺達は牢獄らしき部屋で目を覚ました。
部屋に転がっていたのは昨晩バカ騒ぎしたメンバー、ヘンリー卿、ウェーバ、プランテ、ルクランシェそして、俺。
全員揃って当然の疑問を叫ぶ。
「何故だ!?」
各自起き上がり、薄暗い部屋の中で中央付近集まって男五人で円陣隊形で座る。
「昨晩は私の首都別邸で新兵器開発の相談をしていたはずだが、ここは一体何処だ?」
このメンバーの場合リーダ格となるヘンリー卿がぼやく。
「王宮の地下牢よ」
女の声が聞こえる。
全員バッと声の方向を見る。
「おはよう皆さん。昨晩はお楽しみだったわね」
微妙に不適切な表現を混ぜて朝の挨拶をしたのは、ジェット嬢。
牢獄の入口、鉄格子の近くで変な形の座椅子に座って俺達を見ていた。
「ジェット嬢か。昨晩居なかったけど、一体何処に行ってたんだ?」
「ずっと居たわよ。アンタの背中に」
「えっ!?」
「話は全部聞かせてもらったわ」
「ええっ!!?」
「皆さんに、大切なお話があります。ワタクシの前に並んで座ってもらえるかしら?」
「!!!!」
「いや、ほら、私動けないし。その距離だと話がしづらいからね。あ、逃げるのはナシで。私の魔法の到達範囲、皆気づいてるんでしょ? この部屋全部範囲内よ」
「地獄だぁーーーー!」
ジェット嬢の遠回しな脅しで男五人が恐怖に震える。
「いや、監獄だよ」
鉄格子の外側から看守二名による優秀なツッコミが入る。
両脇に衝立のような板がある変な座椅子に、いつもの薄赤色のメイド服で座るジェット嬢。
その前にクレイジーエンジニア五人衆が正座で並ぶ。
「我々は王命に従い新兵器開発の相談をしていただけだ。投獄されるような理由は無いぞ」
「そうだ! 投獄される容疑は何もないぞ! 不当逮捕だ!」
ヘンリー卿がもっともなことを言い出し、ウェーバも同調する。
確かに。
こちらの法律は良く分からないけど、やっていたことは自体は邸内での飲酒とバカ騒ぎだから、投獄されるような容疑は無いようにも思う。
ジェット嬢が変な座椅子の上で腕を組んで首をかしげて考えながら応える。
「うーん。ヨセフタウンで自警団の手伝いしてた頃。恐喝の現場押さえた時に奪ったんじゃなくて貰ったんだから無罪だって主張した男がいたけど、あの男どうなったっけ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
いや、本当にどうなったんだよ。
フォード社長から聞いた【お仕置き】の時の話か?
まぁ、法律に抵触しなければ何やってもいいってわけでもないとそういう話かな。
ちょっと気になることがあるので聞いておこう。
「プランテとルクランシェはヨセフタウン出身じゃないと思うが、その頃の話を聞いたことがあるのか?」
「社員研修用資料として配布された【黙秘録】に」「おい! やめろ!」
「ちょっと! 何それ! 聞き捨てならない名称出たわよ! もしかしてその資料出回ってるの!?」
ルクランシェの回答をウェーバが止めるも間に合わず、ジェット嬢が叫ぶ。
ダッ ステーン 「グエッ!」
ルクランシェが逃げようとして立ち上がり、派手にずっこけた。
ジェット嬢に視線が集まる。
「…………」
「……私、なにもしてないわよ……」
「すみません。逃げたい気持ちに身体が追いつかず、勢い余って転んでしまいました……」
「それだー!」
いきなりプランテが叫んで立ち上がる。
「何なのよ。いきなり」
「勢い、つまり【慣性力】だ! フロギストンのエネルギー変換が終わるまで、【慣性力】で素材を閉じ込めればいいんだ! いくら大きな力があっても、質量を加速するには0でない有限の時間が必要になる!」
ヘンリー卿が勢いよく立ち上がった。
意味に気付いたようだ。
「そうか! 容器が爆圧に耐えられずに素材が爆散してしまいエネルギー変換が中途半端に終わるところが【滅殺破壊弾】の設計上の課題だったが、爆圧に耐える強度が無くても単純に重い材料で囲ってしまえば、爆散までの時間稼ぎが出来て、爆発エネルギーを増大できるということか!」
ウェーバも飛び上がった。
「じゃぁ昨晩行き詰っていた構造上の課題はクリアの目途が立ったのか! あの机に紙とかペンとかないかな。設計概要をまとめよう! 重い材料がいいならプランテが好きな鉛でいいんじゃないか!」
ものすごい勢いで部屋の奥にある机の方に駆け出す三人。
「私も、私も混ぜてくださーい。重いのがいいなら、鉛よりいい材料あるんです」
さっき転んだルクランシェも足を引きずりながらそちらに向かう。
「なんなのアレ……」
呆れるジェット嬢。
俺もどう答えたらいいのがわからないが、そこは人生経験豊富な40代オッサン。分かる範囲で答えよう。
「あれが、【クレイジーエンジニア】だ」
ガサガサ バサバサ
「紙あったぞ! 反省文用の原稿用紙!」
「ペンもありました。三色もある。やったー!」
「描け! 慣性力で爆圧を閉じ込める構造だ!」
カサカサカサ シャカシャカシャカ
「構造名【慣性閉じ込め】! 材料はルクランシェ! 数値覚えてるか!」
「あります。これです。この構造なら加工もいけます」
ガサガサ シャカシャカ シャカシャカ
「すばらしい! これなら年内に初回実験までいけるか!」
「最初の実験は我が領内の北端でぶちかまそう。奴等たまげるぞ!」
「輝け! 我らの【滅殺破壊弾】!」 シャキーン
「すみません看守さん。あそこで騒いでるアホ四人をぐるぐる巻きにして独房に隔離してください」
「かしこまりました」
「なぜだぁぁぁー!!!」
ジェット嬢の無情な指示により、【クレイジーエンジニア】達はそれぞれ独房へ連行されていった。




