2-3 転生技術者の魔法理論(2.8k)
異世界転生した俺。
技術者の感でこの世界の魔法理論を語る。
「エネルギーは現れたり消えたりしない。つまり、人間は食べたものから得た以上のエネルギーを出すことはできないってことだ。」
「しかし、【魔物】を焼くたびに使っていたジェット嬢のやりすぎ火魔法は、明らかに人間が食べるエネルギー量を超えている」
「エネルギー保存則が成立するという仮定でこの現象を説明するには、魔法のエネルギー源は術者の体内ではなく、外から取り込んでいると考えるのが妥当だ。と考えた」
「じゃぁエネルギー源はどこなの」
「この空間に満ちている何かだと考えている。俺はその何かについて仮にフロギストンと名付けた。この名前に大した意味はない。ホニャララでもゴロニャーゴでもいいが、とりあえずフロギストンだ。いいか? ちなみにこの世界でフロギストンという言葉に別の意味はあるか?」
「無いわ。その何かの名前もフロギストンでいいわ」
「じゃ続けるぞ。仮説だが、このフロギストンは、魔法を使う術者の意思か何かをトリガに、エネルギーか物質かどちらかに変換できる性質があると考えている。つまり、火魔法はフロギストンを熱エネルギーに変換した結果。移動中なにかと便利だった水魔法はフロギストンを水という物質に変換した結果だ」
「じゃぁ風魔法は?」
俺も気になっていた疑問をジェット嬢が口にする。
話の流れ的にちょうどいい。
「それは俺も気になっていた。風っていうのは空気の流れだ。この風を作るためには、二種類の方法がある。今ある空気に動きを与える方法と、今までなかった空気を作り出すことで空気を動かす方法だ。ジェット嬢は風魔法は使えるか?」
「使えるわ」
「だったら検証に協力してくれ。ここに水筒のような筒がある。ちょっと口を下にして持ってみてくれ」
そう言って、さっき拾ってきたガラクタの中から金属製の水筒のようなものを渡す。
「持ってみたけど、これをどうするの?」
「その水筒の中に、風を起こしてみてくれ。ちょっと強めに」
「この中に風を起こすの? まぁやってみるわ」
水筒が 跳んだ。
10mぐらいだろうか。空に飛びあがった水筒は、俺の後ろに落ちた。
水筒内で魔法により生成された空気が口から噴き出して、その反動で飛ぶ。俺の前世世界で言うところのペットボトルロケットの水なしバージョンだ。
そして、おそらくこの世界初の魔力噴進弾である。
「何これ! ファンタスティック!」
ジェット嬢が目を輝かせて興奮している。
ファンタスティックでデンジャラスなオーバーキル魔法が使えにるジェット嬢にとっては、俺から見ると簡単なコレのほうがファンタティックらしい。
これが世界の違いかな。
次の水筒を欲しそうにしているジェット嬢だが、渡す前に説明は一旦終わらせておこう。
「風魔法っていうのは、フロギストンを空気という物質に変化した結果と言えるな」
「その水筒全部頂戴!」
まぁ好きに遊んでくれ。
とりあえず全部渡した。
それからしばらく俺はポチになった。
ジェット嬢が飛ばした水筒を拾い集めて戻す係だ。
脚の無いジェット嬢は自分では動けないからな。
「ファンタスティーック! ファンタスティーック!!」
楽しそうにしている。
そしてその後俺はカモになった。
水筒をあろうことか俺目掛けて発射してくるのだ。
当たるとマジで痛いので走って逃げまわる俺。
回を重ねるごとに命中率が上がってくる。ひどい。
「あはははははは! ファンタスティーック!」
夢中で遊ぶジェット嬢だったが、何度も発射して落としてを繰り返したので金属製の水筒も全部ボロボロになり、幾つかは発射時に破裂してしまった。
残念ながら水筒はもう無い。遊び足りないのか、何か飛ばせそうなものはないかと、ジェット嬢は座ったまま周囲を見渡す。
そして、俺がさっき暴発させた大砲を指さして言う。
「アレ取って」
いいけど、さっき俺に触るなって言ってたよな。
結局取ってきた。
大砲から砲身だけ外して、砲口を下にして地面の上に立てている。
前装式なので尾栓は最初から閉じてる。
「うまく飛ぶかなー」
ジェット嬢が立てた砲身に触れながら一言。
「発射するときは合図しろよ。さすがにこれだけでかいと、持っている俺も怖い」
地面に立てた砲身を上のほうから支えながら俺が注意。
カウントダウンをして発射することに。
「「3・2・1」」
「「たーまやーー」」
轟音と爆風。
そして砲身は空高く飛んで行った。
おそらくこの世界初の魔力無砲弾である。
至近距離で発射の爆風を浴びたが、俺はマッチョパワーで耐えた。
ジェット嬢は風魔法か何かで防御したようだ。
「アレに乗ったら、空飛べないかしら」
空高く飛びあがっていく砲身を見送りながら、ジェット嬢が意外なことを言い出す。
「確かに、飛べるかもしれんな」
俺も面白そうだと思った。
空から風切り音が聞こえる。
音のほうを見ると、先程発射した砲身が落下してくるのが見えた。
幸い、落下予測地点は俺達よりかなり離れている。
落下してきた砲身が轟音と共に地面に突き刺さる。
「問題は、安全に着陸できるかどうかだな」
当然のように思ったことを俺は口にする。
「そうね」
問題意識は共有できたようだ。




