16-3 技術の未来は積み上げにあり(1.8k)
【西方運搬機械株式会社】の社長がフォードからエドゼルに交代し、フォードが【西方良書出版株式会社】設立のため首都に旅立ってから六日後の午前中。
俺達は【西方航空機株式会社】の格納庫に居た。
俺とジェット嬢が遊覧飛行をするのに使っていた翼は【勝利終戦号】に撃墜されたときに全損していたが、ウィルバーがその後継機を作ってくれたというのでそれの試運転をして帰ってきたところだ。
「新しい翼の飛び心地はどうでした?」
「なかなかよかったぞ。翼に動翼がついて俺も多少操縦が出来るようになったのがいいな」
シュバッ
ジェット嬢が俺の背中で両腕を上げて存在アピールしてから語りだす。
「私からは下と前が見えないから、舵取りを分担できるのは助かるわ。あと、下からだと鳥に見えるような外観もいいわね」
「今はヴァルハラ平野上空が飛行禁止ですからねぇ。そうなると遊覧飛行は街のある南側に限られるから、擬装はちょっと工夫してみました」
「作ってくれたのはすごくありがたいんだが、今になって突然これを作ったのは何か理由があるのか?」
「理由ですかぁ……。ちょっといろいろあったので、初心を思い出そうと思いまして」
「【深竜】の件か」
「そうですねぇ。あの開発中止を通じて、自分達には何の技術も無かったということを思い知らされまして」
「何もないということはないだろう。【試作1号機】と【試作2号機】はお前が作ったじゃないか」
「あれは先生から頂いたスケッチを元に再現しただけです。確かに飛ぶことはできましたが、あの形に至る経緯を知らないので、僕にはあの形の必然性すら分からないんです」
「確かに、最初に完成形を見てしまうと経緯が分からなくなるな。でも、俺もあの形にたどり着いた経緯までは知らないんだ。そこを教えてやることはできない。すまん」
「いいんです。ここから先は僕達がこの世界の技術として完成させていくべきなんです。多種多様な鉄系合金を開発したヨセフタウンの鍛冶屋達のように、必死の思いで技術を積み上げる過程が必要なんです」
【深竜】の開発中止を通じてウィルバーもいろいろ考えたんだな。
それはそれとして、気になっていたことについて話が出てきたのでついでに聞いておこう。
「ウィルバーよ。ヨセフタウンの鉄系合金の開発経緯について何か知ってるのか? 【魔物】対策のためとはいえ、盾の開発にだけ執着する意味がちょっと疑問だったんだが」
「ああ、それはですね」 シュバッ
ウィルバーが何か言いかけたところで、背後のジェット嬢が両手を上げて存在アピール。
「……【深竜】の開発中止を通じて、技術開発の過程の重要さとか、そういうことを感じたのは僕だけじゃないんです。ヘンリー卿やフォードさんもいろいろ考えているようでした」
明らかに話を逸らしたな。
なんかジェット嬢が関わっていそうなので今追及するのはやめよう。
他にも気になっていたことはある。
「【試作1号機】の元設計の必然性が分かっていないと言ったが、だったら【深竜】の設計構想はどこから出てきたんだ? あの形は俺の前世世界の航空機だが、俺はあの機のスケッチは描いてないぞ」
「【キツネ耳(茶)】を装備したウェーバが構想図を一気に描き上げましたぁ」
ウェーバの【電波】が絡んでいたか。
本当に発信源は何処なんだ。
まぁせっかくだから、教えてくれるかどうかは分からないが、次に何を作るのか聞いてみることにした。
「次は何を作るつもりなんだ。やっぱり輸送機か?」
「【深竜】よりは小さくするつもりですが、次も輸送機ですね。キャスリン様からも輸送機を期待されているので、その期待に今の技術で応えられるような形をウェーバと検討しています」
「何か解決策があるのか?」
「先生から教えて頂いた飛行機の基本構成から一旦離れる形で検討を進めています。開発名は【八咫烏】にしました。近いうちに原案をお見せできると思います。もしかしたら二人に協力してもらうことになるかもしれません」
「そうか。楽しみにしているぞ」
俺達二人に協力を求めるところが不可解だが、何はともあれ彼等の次回作が楽しみだ。
この後、技術話を少々した後で俺達は食堂棟に帰った。
【深竜】の開発中止を通じて多くの人が技術の積み上げる過程の重要性に気づき、次の歩みを始めている。
この世界の技術の未来は明るい。
そう感じた。




