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15-5 平穏を脅かす歪みの兆候(1.3k)

 昼食後、鉄スクラップ回収隊はヴァルハラ平野に向けて出発した。


 部隊編成。

 一号車はトラクターにダンプ風台車を連結した小物回収用。

 二号車はトラクターに低床トレーラ的台車を連結した大物回収用。


 運転手はフォード社長とウィリアム隊長。

 スクラップ積み込み作業員として力自慢三人とビッグマッチョの俺。


 トラクターの機動力と、オリバーの麦畑拡大に懸ける執念により、ヴァルハラ平野のヘンリー領北側地区の測量はヨセフタウン周辺を起点に北側に向けて急ピッチで進んでおり、広範囲の地図が出来ていた。


 鉄スクラップ発見地点は測量が出来ている場所よりさらに北側。

 いくつかある丘陵の間を抜けた向こうにある平地とか。


 二号車の荷台に乗ってヴァルハラ平野を走る。

 すると、途中に見覚えのあるものを発見。


 ウィリアム隊長に声をかける。


「ちょっと止めてくれ。いい鉄スクラップを見つけた」

「わかりました。どこにありますか? 回収したいから近くまで寄せます」


「右手前方に転がってるアレだ」

「ボート、ですか? 鉄が欲しいんですけど」


「ボートだけど、船尾に改造した大砲が付いてる。いい鉄が取れるはずだ」

「了解です。近くに寄せます」


 砂地に転がっていたのは、魔王討伐隊の前線基地からサロンフランクフルトまで飛ぶときに使ったロケットボートだ。


 ボートの部分は落下の衝撃で真っ二つに割れていたが、大砲を改造して作った魔力ロケットエンジンは原型を留めていた。


 割れたボートの後ろ半分を魔力ロケットエンジンごと二号車の台車に載せてロープで固定。

 前半分には鉄は無いから今回は載せられない。

 場所だけ覚えておいてまたの機会に回収だ。


 いいお土産が出来た。

 ジェット嬢にも見せてやりたい。

 ある意味思い出の品なので保管しておきたい気もするが、そのへんは持ち帰ってからフォード社長と相談だ。


 往路でいいものを拾ったので上機嫌で予定の場所へ向かう。


 丘陵地帯を抜けて現場に到着。

 そこには、半分砂に埋まったような形で多数の鉄製機械の残骸が散らばっていた。


 それを確認して、俺は背筋が凍るのを感じた。


 【重機関銃】【野砲】【内燃機関搭載の車両】


 全部残骸だ。元の形を留めている物は無い。

 しかし、前世世界の陸戦兵器の知識がある俺には分かる。

 これらは【兵器】だ。


 魔王討伐隊前線基地で俺が暴発させた前装式の大砲よりも数世代進化した陸戦兵器。

 しかも、大半が何かに踏みつぶされたような壊れ方をしている。

 そこに残っていたのは【勝利終戦号】の無限軌道の痕跡。


 これらの兵器はユグドラシル王国側では発明も製造もされていない。

 ここは間違いなくユグドラシル王国の領土。

 エスタンシア帝国の武装集団が無許可で侵入していい場所じゃない。


 国境線はヴァルハラ川だ。

 迷い込むことはあり得ない。


 エスタンシア帝国軍がこれだけの重武装を持って意図的に越境した? 何のために?

 そして、【勝利終戦号】よ。お前はここで、一体何をした。


「おーい。見てないで積み込み手伝ってくれよー。日が暮れる前に帰りたいんだ」


 平穏な日常、平和な未来を脅かす【歪みの兆候】。

 俺は、何をすればいい。

●次号予告(笑)●


 ユグドラシル王国とエスタンシア帝国は共同で魔王討伐計画を完遂した。しかし、そこで発生したイレギュラーがその後の二国間の情報伝達を寸断していた。


 両国間が情報伝達の窓口を探り合う中、【試作2号機】墜落事故により発生したユグドラシル王国内の情報伝達網の混乱が事態の悪化に拍車をかける。


 そして、エスタンシア帝国から最初に受け取ったメッセージは最後通告だった。


【宣戦布告】


 後手に回った外交政策の結末が、次世代の若者達の未来を脅かす。


 そこで本領を発揮するのは

【手段のためには目的を選ばないどうしようもない人間】


次号:クレイジーエンジニアと投獄

(幕間 入るかも)

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