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14-4 回復魔法、異常発振という暴走(3.4k)

 背中に張り付けた【ウサギ耳対応背中張付型滅殺破壊系ヒロイン】が周囲の視線を集めながらも、医務室に到着。


 食堂は昼食時間帯が近かったが、さすがにキャスリンの治療を優先したかったので、フォード社長に頼んでクララの指揮で【西方運搬機械株式会社】の経理部と生産管理部の女性社員を集めて食堂の営業を代行してもらうことにした。


 医務室にて、ドクター二名とメアリ様立ち合いの下、ジェット嬢を再び車いすに降ろしてキャスリンの治療を再開する。


「今度はなんかできそうな気がするわ」


 顔の傷に手を当てて、治療の波動を照射するジェット嬢が嬉しそうに言う。


 フロギストンの揺らぎのようなものが、ジェット嬢の手からキャスリンに送り込まれているのを俺も微かに感じることができた。

 【ウサギ耳(黒・大・ストレート)】がジェット嬢の頭の上でゆらゆらと揺れている。


 それを見ながら俺の前世世界で未解明だった【波動医学】のことを考える。

 【波動医学】の考え方に近いものが、この世界ではフロギストンを媒体とした波動を使う形で【回復魔法】として成立している。

 しかも、通常の医療より強力な形で。

 もしかして、俺の前世世界にもこの世界のフロギストンに相当するものが局地的に存在したのかもしれない。そして、その存在が【波動医学】による治療の成立条件だったのかもしれない。

 もしそうだとしたら、解明が困難というところも分かる。


 魔法アイテムと【回復魔法】についても考える。

 【回復魔法】のための波動生成は術者の体格の影響を受ける。おそらく他にも条件があり、必要条件をすべて満たす人でないと【回復魔法】は使えない。だから、【回復魔法】を使える人間は限られる。

 だが、今回俺達は【ウサギ耳(黒・大・ストレート)】を使うことで、その体格制限を緩和する技術の可能性を見出した。

 これを応用すれば【回復魔法】を使える人間を増やすことができる可能性がある。

 これだけ強力な治療方法だ。もしそれが実現できればこの世界に与えるメリットは大きい。


 フロギストン理論の拡張についても考える。

 フロギストンを媒体とした波動による魔法。聖属性の【回復魔法】はこれに該当した。

 これで、未解明なのは七属性、聖・火・土・雷・水・風・闇のうち、闇属性のみ。

 闇属性魔法というのはどういう物かはよく分からないが、昨晩見た【踊るキャスリン】が闇魔法とするなら、ウェーバがたまに受信する【電波】も近いもののように思える。

 意味不明という点で。


 現時点での仮説だが、闇属性魔法もフロギストンを媒体とした波動に関連するもので【回復魔法】と同様に体格の影響を受ける。

 そして、聖属性とは逆にウェーバやキャスリンぐらいの小柄な人間に適性がある。

 そうなるとメアリ様にも可能性があるけど、あの御方は闇属性魔法よりも深い【闇】を別に抱えているようにも思える。

 そう考えて、治療に立ち会っているメアリ様を見る。


 床に倒れている……?


 しまった! 考え事をしていて周りを見てなかった!


 改めて医務室内を見渡すと異常事態が起きていた。

 メアリだけでなくドクター二人も倒れている。

 ジェット嬢はキャスリンの顔に手を当てたまま動かず、散発的に赤や紫のオーラを発しており、その頭上では【ウサギ耳(黒・大・ストレート)】が激しく揺れている。


 何だこの状況は?


 【ウサギ耳(黒・大・ストレート)】の振動は大きくなっていく。散発的に発生するオーラは、ジェット嬢周囲にとどまらず、医務室内の各所でカラフルなオーラが発生しては消えるような現象が起きだした。


 ザザッ  ザザッ  ザッ


 俺の耳、いや脳内にも変な音が聞こえてきた。


 前世世界で聞いたことがある、ラジオや無線機から出るホワイトノイズのような音。

 散発的に聞こえだしたが、だんだん周期が短くなり、音も大きくなってくる。


「ジェット嬢、何をしている! 波動生成を止めろ!」


 応答は無い。意識を失っているのか?


 前世の記憶がフラッシュバックする。

 そこで、俺は似たような現象を経験していた。


「これは、【異常発振】!」


 体内での治療の波動の生成。これは体内で【発振回路】を起動しているようなものだ。

 【発振回路】の基本構成は【増幅回路】と【帰還回路】。

 【帰還回路】にて必要な周期の信号を選別し【増幅回路】の入力に適切な強度で正帰還させることで【発振回路】は安定運転ができる。

 必要な信号を適切な強度で抽出する【帰還回路】が安定運転のキモだ。


 フロギストン波動生成において、その【帰還回路】は術者の身体そのもの。だが、今回はジェット嬢の体格の欠落を補うため、そこに異物である【ウサギ耳(黒・大・ストレート)】を追加した。

 この異物の追加が【帰還回路】の特性を悪化させて【異常発振】を誘発したのか?


 だったら、【帰還回路】から異物を取り除けばいい。


 俺は、ジェット嬢の頭にある【ウサギ耳(黒・大・ストレート)】を掴んで引き抜いた。

 掴んだ瞬間に脳内に強烈なホワイトノイズ音を感じたが、気合で耐えた。


 異常現象が悪化した。


 今度は医務室にある棚や備品が細かく振動しだした。

 前世世界で聞いたことがある【ポルターガイスト現象】のような状態だ。

 ジェット嬢は相変わらず動かない。


 失敗した。

 対処方法を間違えた。


 ジェット嬢は両脚切断により【正常な治療の波動】を生成できなくなっていた。だから異物である【ウサギ耳(黒・大・ストレート)】を追加したのだ。

 それを取り外してしまったら、【異常な波動】しか生成できなくなる。

 この【異常な波動】の効果は分からないが、今起きている現象を見る限り安全なものではなさそうだ。


 振動は激しくなる。

 ジェット嬢周辺にカラフルなオーラが集まる。

 明らかに、危険な兆候だ。


 建屋まで小刻みに振動し始めた。


 ジェット嬢は一瞬で地形を変える【滅殺破壊魔法】の使い手だ。

 デタラメな魔法攻撃力がある。

 それがここで制御不能になり暴発したらサロンフランクフルトだけでなくヨセフタウンまで消滅するかもしれん。


 それは絶対回避しなくては。

 この部屋に動ける人間は俺しかいない。

 俺が問題を解決するしかない。


 考えろ。よーく考えろ。

 俺は40代オッサン。

 クレイジーエンジニアとして生きた前世での記憶がある。



 俺は前世で趣味で無線機を弄っていた時期があった。

 無線用の電力増幅装置の試運転に失敗して【異常発振】を起こした時、部屋中の無線機からノイズ音が出て驚いたものだ。

 その時どうやって【異常発振】を止めたか思い出せ。


 たしか、あの時は、増幅回路の素子が入力電力に耐えられず爆散して発振が止まった。とても高価な部品を派手に壊してしまった悲しい思い出だ。

 いや、それは今はいい。


 電子回路の暴走なら電源を切ればいいだけだ。

 しかし、今回はフロギストンの波動。

 フロギストンを遮断する方法は今のところ無い。電源は切れない。


 では、【増幅回路】となっているジェット嬢自体を破壊?

 ありえん。それはありえん。


 思い出した!


 電子回路における異常発振、寄生振動、ノイズ等の異常動作全般に効果があり、それらの対処としてまず最初に試す万能な方法があった。


 接地アースだ!


 何か接地線として使える物は無いかと周囲を見渡す。

 引き抜いた【ウサギ耳(黒・大・ストレート)】が床に転がる。

 医務室棚周辺には、棚から落下した薬品だかなんだかの瓶が散乱している。

 メアリとドクターは相変わらず床に倒れている。


 部屋の振動は激しくなり、ジェット嬢周辺のカラフルなオーラもどんどん光が強くなる。

 いよいよヤバイ感じがする。

 でも、手の届く範囲に、すぐ使えそうなものが無い。

 展示室まで行けば裸銅線がいくらかあるが、間に合わない。

 今ある物、すぐ使える物。


 ひとつだけある。 俺の身体だ。


 前世世界ではありえない感電覚悟の人体経由接地。

 今はそれしかない!


「必殺! 俺★アーシング!」


 車いす上で座ったまま意識を失っているジェット嬢の背後から、右手で頭頂部をガシッと掴む。

 なめらかで触り心地の良い黒髪の感触が手に伝わる。


 ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ


 激しいホワイトノイズが脳内に響き、意識が飛びそうになる。


 いかん。ここで俺が倒れたら意味が無い。

 脚を踏ん張り、立ったまま気絶だ! 弁慶立ちだ!!

 キャスリンにもできた! 俺にできない理由は無い!

 ビッグマッチョベンケイスタンディングだ!


 ザァァァァァァァァァァァァァァァ……


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