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14-2 波動医学が解く、体格と回復魔法の謎(2.4k)

 ジェット嬢が【回復魔法】を使えなくなった原因。

 【呪い】でないなら一体何なのか。


「まだはっきりと分からないが、聖属性魔法にもフロギストンが関連しているように見える。だから原因は別にあると考えている。ちなみに、他に【回復魔法】が使える知り合いは居るのか?」

「居るけど、この近くには居ないわ」


「近くなくていい。呼ぶつもりは無い。フォード社長から【回復魔法】の使い手は男が多くて、王宮になら何人か居ると聞いた。王宮周辺で顔見知りは居ないか? 居たら、どんな奴だったか教えて欲しい」

「王宮の病院に知っている人は何人か居るわ。わりと普通の人よ」


「普通っていうのはどんな風に普通なんだ」


 コイツの感覚で言う普通が当てにならないというのもあるし、今回知りたいことは人柄とかじゃない。


「見た目かな。普通の男って言う感じ。服装が制服だったからかな。あんまり印象は覚えてないわね」


 聞き方を変えよう。


「その中に、ウェーバみたいな小柄や、今の俺みたいなビッグマッチョは居なかったか?」

「居なかったわ。オリバーとフォードの間ぐらいの背丈の人が多かったかな。そう考えると【回復魔法】を使える人にはそのぐらいの背丈の人しかいなかった気がする」


 オリバーとフォードの間なら身長170cm程度。確かに普通の男だ。

 俺はジェット嬢が自分の脚で立っているのを見たことは無いが、腹ばい状態で見た体格のバランスと、今の姿から推測すると、おそらくジェット嬢の元の身長もそのぐらい。

 俺から見れば小柄の範疇だが、ジェット嬢はこの世界の女性の中では大柄だ。


 【回復魔法】の適性と体格には関係がありそうだ。

 だとしたら、ジェット嬢が【回復魔法】を使えなくなった原因は分かる。


「原因は両脚の切断だ」

「どういうこと?」


「今の話を聞くと、【回復魔法】を使える条件の一つに術者の体格がある。男の方が使い手が多いというのも多分それが原因だ。そして、ジェット嬢は元は【回復魔法】に適した体格をしていたが、両脚切断で体格が変わって、その条件を満たさなくなった」


 体格の話になってジェット嬢が明らかに嫌そうな顔をした。

 女性にとってそこは愉快な話じゃないことは分かっているけど、キャスリンのためだと思って耐えて。お願い。


 でも、体格と【回復魔法】の適性とフロギストンのつながりが見えない。

 その【答え】が見えないと対処法の検討が出来ないのだが。


 しばらく不機嫌そうに黙っていたジェット嬢が一言。


「確かに、【回復魔法】で使う治療の波動が上手く生成できなくなったけど」

「【答え】知ってるんじゃねぇかー!」


 【波動医学】


 俺の前世の世界ではそう呼ばれる医療技術が存在した。治療に適した周期の電磁波、音波等の波動を生体に照射することで治療を行うものだ。

 しかし、これは一般的に医療技術として認められておらず、迷信とかインチキとかそういう扱いを受けていた。


 前世にて、医療に見放された妻の病を治す手がかりを求めて俺はその分野の文献を読み漁ったことがある。妻の病の治療はできなかったが、迷信やインチキと切り捨てられるものではなく、全体像は未解明ながらも何らかの効果や原理があるものと感じてはいた。


 それに対して、この世界には魔法があり、それの物質源及びエネルギー源となるフロギストンが存在する。

 このフロギストンを媒体にした波動による【波動医学】で、肉体の修復を高速で行うことができても不思議ではない。


「【答え】って何よ」

「【回復魔法】っていうのは、術者の体内で生成した治療の波動を、患者に照射か注入して回復を促進するようなものか」

「そうよ」


「その波動の生成に術者の身体を使用するから、【回復魔法】の適性が体格の影響を受けると考えられる。影響を受けるのが、身長なのか、体重なのかは分からんが……」


 ヤバイ。

 ジェット嬢の機嫌が明らかに悪化してる。

 体重の話とか、女性に対してはタブーだね。

 説明は切り上げて、対処法の検討に移ろう。


「自分の身体以外の物も含めて波動を生成することは可能か?」

「試したことは無いわ」

「だったら試してみよう。脚の代わりになりそうなものを繋ぐことで波動の生成が変わるかどうか」


 俺は医務室から出て、調理場で昼食の下ごしらえをしていたメアリから大きめの【大根】を一本借りてきた。

 何でもよかったけど、波動の生成に人体を使っているなら生物的な材料のほうが成功率が高いと考えたからだ。


「その【大根】を片手で持った状態で波動の生成を試してみてくれ」

「試してはみるけれど、脚の代わりとして【大根】を渡されたことが無性に腹立たしいわ」

「それはメアリからの借りものだからな。腹が立っても焼き払ったり粉砕したりするなよ」

「分かったわ」


 ジェット嬢は再びキャスリンの顔に手を当てて【回復魔法】を試みる。

 左手で【大根】を掴み、右手で治療。

 なんてシュールな光景。

 持たせるなら【ネギ】のほうがよかったかなとか今更ながらに思う。


「なんか少し波動の生成が変わった気がする。治療ができるほどではないけど、少し良くなったような……」

「なんとなく、解決の糸口は見えてきたな。【大根】を増やしたらいけそうか?」


「そんな気はしなくもないけど、治療ができるほど変えるには大量に必要な気がするわ」

「それなら【大根】以上にフロギストンの波動生成に影響を与える物が欲しいな。【魔力電池】発明者のプランテならなにか見つけているかもしれん。ちょっと聞いてくる」


「今度はあんまり変なものを持ってこないでよ」


 俺は、調理場に居るメアリに【大根】を返却した。同時に、治療用の魔力関連のアイテムの食堂棟への持ち込みの許可を申請した。

 【俺が触らない】という条件で許可を頂くことができた。


 許可の条件からして、俺だけでプランテのところに行くわけにはいかなくなり予定変更。ジェット嬢を連れて行くことにした。

 医務室に常駐しているドクターにキャスリンの容体観察を交代して、ジェット嬢を背中に張り付けて【西方運搬機械株式会社】のプランテの研究室に向かう。

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