13-3 重症キャスリンとドクターカー(1.9k)
俺とジェット嬢が【勝利終戦号】に撃墜された二日後。ヴァルハラ平野上空の【制空権】を奪われてジェット嬢の怒りを買った翌日午前中。
朝食の片付けが一段落して、俺が調理場への立ち入りが許される時間になった頃。ジェット嬢は医務室で安静にしているので、俺が一人で食堂掃除をしていた時。
食堂棟入口にフラッと来訪者が訪れた。
「ごきげんよう」
格好がヤバイ女。
頭には先の尖がった魔女帽子。
額にバンダナ。今日は赤いバンダナ。
目にはハート型の色の濃いサングラス。
鼻と口はマスク。こっちも今日は赤い。
全身は黒ロングスカートのワンピース。
前には青いエプロン。なんか赤い柄が付いてる。
腰には黄色のウェストポーチ。これも今日は赤黒い柄付き。
背中に赤いマント。
というデタラメコーディネートの女。
キャスリンだ。
とはいえ、珍しい来客ではない。
週一回ぐらいのペースで【試作2号機】の定期点検があるため、その時にはこうやってフラッとこのヤバイ格好で食堂棟に現れる。そして、点検が終わるまでの間、食堂でコーヒーを飲みながらジェット嬢と雑談などして過ごすのだ。
「いらっしゃいませ」
いつも通り、俺は喫茶店風に挨拶を返す。
でも、今日は何か様子がおかしい。
いつもなら、テーブル席に座ってなにがしか注文するのだが、今日は入口に立ったまま動かない。
近づいて声をかける。
「どうしたんだ?」
キャスリンの足下に広がる血痕を見つけて絶句する。
「!!!?」
しかも、立ったまま気絶している!
どこの弁慶だ! ナニがあった!?
メアリを呼び、立ったまま気絶しているキャスリンをストレッチャーに載せて医務室に搬送。医務室ベッドに移す。
俺は【西方運搬機械株式会社】の設計室常駐のドクターを呼びに行った。
ドクターはキャスリンを診察するなり重症判定。
応援要員が欲しいということなので、初診の診断書を持ってドクター・ゴダードを呼びに俺がヨセフタウン市街地まで走る。
マッチョダッシュで呼びに行き、診断書を見て顔色変えたドクター・ゴダードを抱えて、必要最小限の機材を入れた鞄を背負ってマッチョダッシュで走って帰る。
この世界初のドクターカー的な何かになった気分で走る。
助手と残りの機材は準備が出来次第、馬車で後から来るとか。
そうこうしているうちに昼食時間が近づく。
医務室はドクター二名に任せて、メアリと俺と、腰痛に耐えて車いすに乗るジェット嬢で食堂の昼食営業を行う。
ここの食堂は【西方運搬機械株式会社】の社員食堂でもあるので、昼食時間帯はお客様が多い。
ジェット嬢の動きが腰痛で鈍くなって配膳効率落ちた分、経理部のクララが臨時でウェイトレスを手伝ってくれた。
その間に、ドクター・ゴダードの診療所の馬車が到着し、医務室あたりが騒がしい。
あちこちドタバタしながら昼食時間帯が終わり、昼食片付けが一段落。クララは仕事に戻る。
メアリ、ジェット嬢は医務室へ。キャスリンの全身の外傷を処置をするので、俺は当然立ち入り禁止。途中でちょっと出てきたメアリから容態を聞いて、俺ドン引き。
生きているのが不思議なぐらいの重症。
全身打撲に骨折箇所多数。
顔面にも大きな裂傷。
主な出血個所は腹部の大きな裂傷。
意識不明で今まさに生死の境をさ迷っているとか。
食堂棟まで歩いてきたよな。どうなってるんだ。
キャスリンの快復を祈りながら俺は食堂の掃除をした。
ウィルバーと無人航空機の話をする予定があったが、ウィルバーは現れず。
俺はコーヒーを飲みながらキャスリンの無事を祈り続けた。
…………
そして、夕食時間帯。
医務室から疲れ切ったメアリとジェット嬢が出てくる。
また経理部のクララが応援要員として駆けつけて夕食準備。ここの手伝いはフォード社長の指示とのこと。
夕食が終わったらクララと俺で後片づけ。メアリとジェット嬢はドクター達用の軽食を持って再び医務室へ。
一段落したらクララは帰り、食堂は俺一人。
キャスリンの容態は気になるが、俺に出来ることは無い。
昼間に現れなかったウィルバーが気になったので、ウィルバーの仕事場である格納庫に行くことにした。
格納庫に行くと、珍しく扉は閉じられており、通用口にキャスリン付の護衛騎士が一人立っていた。
話を聞くと、俺以外は入れるなとキャスリンから指示が出ているとのこと。
格納庫の中に入ると、そこにはあんまりな光景があった。
大破した【試作2号機】が機首を下にした形で台車の上に乗せられてロープで固定されていた。
台車は大型の幌馬車を即席で改造したもののようで、俺の前世世界の高床台車のような形だ。
その前に、ギロチン台。
そして、縄で縛られたウィルバーがそのギロチン台の下に固定されて泣いていた。
「僕が、一体、何をしたって言うんですかぁ……」
いつぞやと同じように嘆くウィルバーだが、本当に今度は何をしたんだ?




