12-5 異世界戦車に航空攻撃を挑んだ結果(1.2k)
試運転直後に突如暴走した異世界戦車【勝利終戦号】。
責任の所在はどうあれ現実的に追跡が可能なのは俺とジェット嬢だけだ。
俺は食堂棟に走る。
【勝利終戦号】の設計速度は約40km/h。
不整地を走る場合トラクターでは追いつけない。
また、追いついたところでどうにもできない。
最悪踏みつぶされる。
空からの追跡しかないが【試作1号機】は整備中。
【試作2号機】はキャスリンが乗って行っているのでここには無い。
そして、空から追いついたとしてもやはりどうにもできない。
残る追跡手段は俺とジェット嬢が遊覧飛行で使っているあの翼。
ジェット嬢の魔法なら【勝利終戦号】の捕獲ができるはず。
車いす搭乗で食堂のテーブルにて本を読んでいたジェット嬢を背中に張り付けて連れ出し、格納庫で翼を装着。【ジェットアシストマッチョダッシュ】による滑走で緊急発進。
サロンフランクフルトより【勝利終戦号】の無限軌道の轍を追いかけて、高度300mを時速80km/hで北上。
背中に張り付くジェット嬢に飛びながら事情を説明し飛びながら怒られる。
「剣を折るわ、大砲や【魔導砲】を暴発させるわ、しまいには【戦車】を暴走させるわ、アンタ本当に一体何なの?」
「俺じゃねぇ! 今回は絶対俺じゃねぇ! 針路ちょい右」
「針路右了解。アレ作ってるときにみんなにモノには魂が宿るとか豪語してたじゃないの。それで何か変な術とか使ったんじゃないの?」
「針路ヨーソロー。それは心を込めてモノづくりをしろという心構えを説いたものだ! 怪物を生み出すための呪文じゃねぇ! それに俺は魔法を使えないんだ! 知ってるだろ!」
口論しながらも息を合わせて針路調整。
ジェット嬢は背中に乗っているので地上が見えない。
俺が無限軌道の轍を見ながら針路を指示する。
「じゃぁ一体何なの? 誰も乗ってないのに何で走るの!? そもそも空から近づいても大丈夫なの!?」
「動く理由は分からんが、とにかく止めて持ち帰らないといかん。極力無傷で捕獲したい。アレの目の前にぬかるみを作る。前にウィルバーを埋めたやつだ。穴掘りじゃないぞ。ぬかるみだ。膝まで埋まるぐらいの深さだ!」
「分かってるわ。でも、接近して本当に大丈夫なんでしょうね。あの【魔導砲】載せてるんでしょ。この翼じゃ撃ってきたら回避できないわよ。地上から走って追いかけたほうがよかったんじゃないの?」
走って離陸することを前提にした低速用の翼。
翼に動翼を持たず、操縦はジェット嬢の魔力推進脚の推力偏向のみ。
飛行機としての機動性は劣悪で、遊覧飛行なら十分だが空中戦ができるような代物では無い。
だが、戦車相手の航空攻撃には十分すぎる機動力があると俺は確信していた。
「戦車相手に地上から対峙するなんて自殺行為だ。安心しろ。戦車は空からの攻撃には弱いのが常識だ」
「目標まだ?」
無限軌道の轍の先に高速で北上中の目標物を発見。
捕獲作戦開始だ。
「ターリーホウ。機体進行方向基準で前方ちょい左。右寄りで追い越してから左方向旋回で前方にぬかるみを作る。オマエは旋回時に目標を見ろ!」
「了解!!」
推力を上げて加速し追い越す。左方向旋回で目標に接近。
そして、俺達は撃墜された。
●次号予告(笑)●
モノづくりには夢がある。
だが、夢が現実に変わった瞬間に設計者が負うべき業がある。
その業は、製造物の動作が顧客の期待値を下回った時に発生する。
そして、設計者はその業から逃れることは決して許されない。
【製造物責任】
それは、設計し、世に送り出した製品の全てが役割を終えるまで続く。
ロマンを追い求め、【心のこもったモノづくり】を実践した三十六名の男達は、異世界の陸戦兵器を元に、全く違うものをこの世界に作り出していた。
ぎっくり腰で苦しむ【金色の滅殺破壊魔神】はストレッチャーの上でしどろもどろにつぶやく。
「……ワタクシ、そろそろ怒っていいカシラ」
そして、業を背負ってしまった技術者がもう一人。
自分の夢のためだけに作ったはずの製作物。
それを他者に引き渡した時点で理由を問わずその業は発生する。
その引き渡しが例え不本意なものであったとしても、逃げることは許されない。
設計者が顧客の【期待】を裏切った代償とは。
夢追い人の頭上にギロチンの刃が輝く。
次号:クレイジーエンジニアと品質ギロチン




