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12-4 魔導砲搭載の勝利終戦号、暴走(2.4k)

 【勝利終戦号】開発会議から二十五日後、設計室にドクターが常駐してから十七日後の午後。食堂棟医務室に搬送される設計者は居なくなり食堂棟業務は通常進行に戻っていた。


 【勝利終戦号】の設計も順調に進み、いよいよ車体の組み立てを開始するということで【西方運搬機械株式会社】の工場脇、例の木造模型の隣に屋根だけのテントが設置された。

 町内の鍛冶屋職人が集まり、分割して製作されたフレームや装甲板をテントの下で魔法による溶接で組み立てていく。


 その様子を俺とジェット嬢は上空から見守っていた。

 晴れた日に時間ができたときには、ウィルバー作の翼でサロンフランクフルト上空からヴァルハラ平野にかけて遊覧飛行するのが俺達の日課になっており、この日も気ままに空を飛んでいたのだ。


 ジェット嬢は背中に張り付いているので水平飛行では地上は見えない。

 サロンフランクフルト上空を旋回しながら、テント周辺で行われている【勝利終戦号】の組み立て作業を二人で眺める。


「楽しそうねぇ」


 ロケットエンジン係をしながら俺の背中でジェット嬢がつぶやく。


 実際楽しいんだよ。ああいうの結構楽しいんだよ。

 俺は、戦車も好きだが、飛行機も好きだな。

 楽しみなことが増えていく。

 ここでの毎日は本当に楽しい。


◇◇


 【勝利終戦号】開発会議から二十七日後。屋外の屋根だけテントの下で【勝利終戦号】の車体組み立てが始まってから二日後の午前中。

 ジェット嬢を食堂棟に残して地上から組み立ての様子を見に来たら【菱形戦車】の外観はほぼ出来上がっていた。


 ウィリアムが居たので進捗を確認。


「これはどのぐらいまでできているんだ?」

「外装部分はほぼ完成で、今は電動機や魔力電池などの組み込みをしているところです。このまま順調に進めば、来週ぐらいには試運転できそうですよ」


 そう言いながらもウィリアムは何か心配事がありそうな表情だったので聞いてみる。


「どうした。順調そうだけど、なにか心配事でもあるのか」

「設計メンバーの一部から何かが足りないと不満の声が上がっているんですよ。本人たちも何が足りないのかよく分からないそうなんですが、何かが足りないと」


 完成したら仕事が終わって寂しいとかそういうのかなと思っていたら、ウィリアムから意外な返答。

 そこにウィルバーがフラッと現れた。


「その足りないモノというのは、こういうのじゃないですかぁ?」


 その腕に、スーパーミラクルデンジャラス金属パイプ【魔導砲】を抱えている。

 【勝利終戦号】の外装溶接部の確認をしていた設計者二人がそれを見て叫ぶ。


「それだー!」


 こうして【魔導砲】は【勝利終戦号】開発チームに引き渡された。

 そんな危険物持って来るな! そして渡すな!


「僕も【勝利終戦号】にはアレが似合うと思ったんですよ。それにアレを手元に置いておくのが怖くなってきていたので、喜んでもらえる譲渡先が見つかってよかったです」


 【魔導砲】を嬉しそうに持ち去る設計者二人を見送りながら、ウィルバーが本音を漏らす。


「こちらとしても、あの二人が足りないと言っていた何かを補うことが出来たようなので助かりました」


 そんな黒い本音に対して、ウィリアムは嬉しそうに応える。


 確かに【勝利終戦号】には【砲塔】と【主砲】が無かったから【戦車】としては足りなかったのかもしれない。でも、暴発したことしかないアレを積んで大丈夫だろうかという不安はよぎった。

 そして、さっき【魔導砲】を持って行ったあの二人どこかで見たような……。


 組立中の車体上部の設計を一部変更して、【魔導砲】の砲塔を追加するとか。

 まぁ、製作中の設計変更とか、たまにあるよね。


◇◇◇◇◇◇


 【勝利終戦号】開発会議から三十三日後、【魔導砲】引き渡しから六日後の夕方。ついに【勝利終戦号】は動き出した。


 乗車人員は、【車長】【主運転士】【副運転士】【砲撃手】の四名。

 左右の無限軌道で電動機と魔力電池の系統が分かれており、運転操作が複雑になるため運転士として二人を要するとか。

 【戦車】なだけあって車内は非常に狭く、残念ながらビッグマッチョな俺は中に入れない。


 俺もジェット嬢を食堂棟に置いて試運転現場に様子を見に来ていた。

 完成後の試運転という形で、設計リーダのウィリアムが【車長】を務めて食堂棟北側の広場をゆっくりと一周して帰ってきた。


「ウォォォォォォ!!!」


 帰ってきてテント前で止まったところで、待っていた設計チーム三十二名の歓声が上がる。


 やっぱり操縦は難しいようで、組み立てラストスパートで疲れている状態でこれ以上運転するのは危険とウィリアムが宣言。

 全員異論は無く、今日は作業場の片付け後に解散して明日は皆で役割交代して乗り回そうということになった。


 設計メンバーがテント周辺と作業場の片付けをする中、完成した【勝利終戦号】を間近で観察する。


 【菱形戦車】の形状をベースにした鋼鉄の装甲で覆われたいかにも強そうな車体。その車体上部に、明らかに後付けの形で載っている【魔導砲】の砲塔。


 前世世界の【戦車】を知っているせいか、この砲塔部分だけすごく違和感を感じる。


 上側含めた全方位に射撃可能な形によく考えられた砲塔設計。

 だけどその代わりに装甲全く無し。

 砲身も砲撃手もむき出し。


 主兵装が弱点。

 装甲に覆われた車体との防御力配分のアンバランス。

 実際の戦闘に使うには問題になりそうなこの設計。

 実際の戦闘に使うつもりは無いから問題は無いけど、違和感は消えない。


「まぁ設計メンバーがいいって言うならいいか」


 そうひとり呟いて【勝利終戦号】の背部装甲板に触れた。

 その瞬間。


 バチッ


 何か電気のようなものが走った気がして俺はとっさにマズイと思った。

 しかし、思った時には遅かった。


 作業場所の片付けをしていた設計チーム三十六名の目の前で、無人の【勝利終戦号】は突如走り出した。

 まるで意思を持っているかのように北側を目指して逃走。


 設計チーム三十六名の白い視線が俺に集まる。


「…………」


「俺じゃねぇ!! たぶん……」

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