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12-2 戦車模型とサプライヤーコンペ(2.3k)

 食堂棟の展示室で行われた【勝利終戦号】開発会議から三日後の午前中。【西方運搬機械株式会社】の工場脇に【戦車】が出現していた。


 とはいっても三日で【勝利終戦号】が完成したわけではない。

 大物を作るということで、おおよその寸法感覚を掴むために木造で実物大の模型を作ったのだ。


 製作はヨセフタウンの大工職人達。

 車両としては大きいが建物に比べれば小さいので、概略図面を元にそれっぽい形のものを一日足らずで作ってしまった。


 朝食後の後片付けが終わった後、ジェット嬢を食堂棟に置いて一人で見に来た。

 せっかく来たので近くで見てみる。

 形は知っていたけど実物大で見てみると圧巻だ。

 全長9.9m、全幅4.4mの戦車のハリボテ。


 この世界には大砲はあったし、銃もあるそうだけど主な武器は剣と魔法。

 そんな中にコレが出てきて、銃弾を跳ね返し、剣や盾を踏みつぶしながら突進してきたら恐怖だろうなぁとは思う。


 ジェット嬢なら秒殺しそうだけど。


…………


 午後になり昼食の片付けが一段落して時間が出来た頃。

 やっぱり気になるので、またその戦車模型のところに来てみた。


 今度は戦車模型の周りに長机が配置され人だかりができていた。

 その場でいろいろ案内していたウィリアムによると、トラクターの部品の製作を依頼している鍛冶屋や細工屋の担当者を集めて製作できそうな部品の相談会をしているとか。


 俺の前世世界で言うところの【サプライヤーコンペ】みたいなものか。


 集まっているヨセフタウン市内の鍛冶屋もかなりやる気を出しており、過去にヨセフタウンで開発された盾用鉄系超合金【ヨセフ1815】を是非とも使いたいと張り切っていた。


 ヨセフタウンでは過去に【最強の盾】を作るための試行錯誤が流行した時期があったそうで、【ヨセフ1815】はその時に作られた最終成果とのこと。

 その開発の中で、盾には不向きだったけど他用途に転用可能な鉄系合金が多数開発されたり、盾を効率良く製造するための熱間圧延技術が開発されたりと多くの副産物を生み出したとか。


 俺がここに来た後でトラクターや飛行機をやたら短期間で開発できたのも、過去に蓄積したこういう要素技術があったからなのかもしれない。


 でも、なぜ剣じゃなくて盾なのか。

 それはちょっと気になった。


 ちなみに、ジェット嬢が俺への仕打ちとして飛ばす金属製コップもこの試行錯誤の副産物が材料になっており【ヨセフS304】と呼ばれる鉄系耐食合金とのこと。俺の前世世界のステンレスに似ているとは思っていたが、それに近いもののようだ。


 あれはそこそこ重いので当たったらマジで痛い。


 高価になるけど耐食性をさらに強化した【ヨセフS430】という材料もあって、コレは【曝気槽ばっきそう】の散気管さんきかんに使ったとか。


 ヨセフタウンの鍛冶屋すごすぎる。


◇◇


 【勝利終戦号】開発会議から四日後の午後。昼食後の片付けが一段落したので今度はジェット嬢を背負って【勝利終戦号】の設計室に来た。

 【西方運搬機械株式会社】の工場内に設けられた専用の設計室内、志願した設計者が集まって各々担当の設計業務を行っている。


 チーム編成としては、装甲班九名、動力班十三名、機構班十三名の三十五名に、設計リーダのウィリアムを加えた三十六名。

 【西方運搬機械株式会社】所属の設計者の中でもヨセフタウン出身で比較的年齢高めの男達が設計の志願者として集まっている。


 飛行機好きのウィルバーとウェーバはこの設計チームには所属していない。でも必要な時に手伝いに来ることはあるそうだ。


 設計チームの日課として毎日午後に時間を決めて各部分の進捗や問題点の報告会を行っているそうなので、今日は同席させてもらうことにした。

 日によってはウィリアムと各班設計チーフのみで集まる場合もあるそうだが、今日は三十六名全員参加で報告会をするとのこと。


 各部分設計の進捗報告や相談事項が終わった後に俺も一言コメントさせてもらった。


 彼等は良くも悪くも【兵器】に類するものを作ろうとしている。

 平和を脅かすような間違った想いを込めてほしくない。

 ロマンに燃える若い設計者達に向けた俺なりの大切なメッセージだ。


「俺の前世の世界では【付喪神つくもがみ】と言って、物に魂が宿るという言い伝えがある。その解釈はいろいろあるが、俺は、設計者というのはモノに魂を宿らせるという仕事だと思っている。設計者が設計に込めた想いが完成したモノに宿るということだ」


「完成したモノには設計者が込めた想いが宿る。だから、自分達がこの【勝利終戦号】に込めたい思いを明確にイメージして一つ一つの設計を仕上げてほしい」


「間違っても【兵器】というものが不必要なこの世界の平和を脅かすような思いを込めないで欲しい。戦争が目的じゃない。平和を、終戦を目的とする【兵器】に仕上げてほしい」


「ウォォォォォォ!!!」


 【勝利終戦号】の設計チームから歓声が上がる。


 分かって欲しいんだ。

 分かってくれたかな。

 分かってくれたよね。


 彼等は【勝利終戦号】に込める想いを共有するため歌を作った。


 ♪【勝利終戦号】のうた♪

  作詞:設計チーム三十六名

   作曲:設計チーム三十六名


  そこに戦意があるのなら、

  完膚なきまでに踏みつぶせ。

  戦意を砕き平和を守る

  それが我らの勝利終戦号

  我らを悪夢から解き放て


  戦意が川を超えるなら

  完膚なきまでに薙ぎ払え

  戦意を潰し平穏を守る

  それが我らの勝利終戦号

  我らを悪夢から救いたまえ


  戦意が我に向くのなら

  完膚なきまでに叩き落せ

  敵も味方も両方守る

  それが我らの勝利終戦号

  我らを悪夢から呼び覚ませ



 設計室内に男達の熱い合唱が響いた。


 ジェット嬢は、いつの間にか俺の背中で寝ていた。

 ジェット嬢には男のロマンは分からないか。

 分からないよね。

 それはそれでいいよ。

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