表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/166

11-5 残念美人キャスリン、酒に沈む(2.0k)

 【曝気槽ばっきそう】で汚水の攪拌を始めた二日後。俺とジェット嬢が街歩きをしてウェーバが【試作1号機】で大活躍した翌日朝。


 朝食の片付けが終わった後で俺は一人で格納庫に向かった。

 ジェット嬢はなんか疲れていたようで車いす搭乗で食堂で縫物をするそうな。


 格納庫に行くとウィルバーとウェーバが【試作2号機】の点検整備をしていた。


「ウェーバよ。昨日は大活躍だったそうじゃないか」

「小柄でよかったって思えたの初めてだった。俺、飛行機乗りとして魂を磨くよ!」


 ウェーバは嬉しそうに応える。


 これが自分の道を見つけた若者の姿。魂が輝いているよ。

 若者を導くのが役割の40代のオッサンとしてはすごくうれしい光景だ。


 ふと見渡すと、格納庫内にはウェーバ専用機となりつつある【試作1号機】が見当たらない。


「ところで、お前の【試作1号機】はどうした? 格納庫内にも見当らないし、滑走路にも無かったように思うが」

「キャスリン様が【試作2号機】の整備を急いで欲しいと言ってたから、今日の第一便は操縦交代してもらったんだ。キャスリン様は【試作1号機】も自由自在に操縦できるんだ」


 嫌な予感がした俺は、それが的中しないことを願いながらウェーバに確認する。


「操縦者交代の件は、先方に伝えてあるのか? 積載量が変わるだろ」

「あっ!」


…………


 【試作2号機】の整備を終わらせた後、滑走路で【試作1号機】の帰還を待つ。

 三人揃って心の中は恐慌状態だ。


 小型飛行機の重量制限というのは厳しい。

 貨物と乗員の合計重量は安全に離陸可能な規定重量以内に抑えなければならない。

 つまり、ウェーバ操縦で予定していた量の貨物が、キャスリン操縦だと全部は載らない。


 今日の第一便は、乗客三名とアンダーソン卿が培養していた種菌と微生物用薬剤の予定。


 到着予定時刻が近づきアンダーソン卿が部下二人と台車を持って滑走路にやってきた。


 予定時刻を過ぎること約1時間。

 南の空から【試作1号機】が現れた。


 滑走路に綺麗に着陸し、待っている俺達の傍まで来ると操縦席からキャスリンが降りてきた。


 その恰好は、黒のワンピースと、赤いマントだけだ。いつも着用していた、魔女帽子、バンダナ、サングラス、マスク、青エプロン、黄色のウェストポーチは着けていない。


 少しでも軽くしようとして外したのか?


 そういえば、素顔を見るのは初めてか。かわいい系の美人さんか。

 降りてくるなり【ステキな笑顔】でウェーバに歩み寄り口を開く。


「ウェーバ。貴方あなたがとても優秀な操縦士であることがよくわかりましたわ」

「あ、ありがとうございます。キャスリン様」


 青ざめながら応えるウェーバにキャスリンは【愁いを帯びたステキな笑顔】で問いかける。


「【試作2号機】の整備は終わってまいすか?」

「もちろんです。格納庫にて仕上がっています」


 キャスリンは【ちょっと涙目なステキな笑顔】でウェーバに応える。


「ありがとうございます。……少し一人にしてくださいませ……」


 そう言い残してキャスリンは格納庫に向かい、【試作2号機】の操縦席に床下から搭乗した。

 そしてそのまま夕方まで出てこなかった。


 【試作1号機】の本日第一便の貨物は種菌と薬剤と実験器具だった。

 乗客は居なかった。


 操縦者があの状態だったので、乗客は全員搭乗を拒否したに違いない。

 だから、計画を変更して種菌と薬剤と機材の輸送を優先したんだろう。


 アンダーソン卿によると、今は人員よりも種菌と薬剤と機材が欲しかったのでこの予定変更は都合がよかったそうだ。

 ボルタ領から化学を学んでいる人間が二十名ほど応援要員として到着したので人員は足りていると。


 ちょっと待て。

 悪臭問題の要因は人が集まりすぎたことだってこと忘れてませんか?


 その日、ウェーバは【試作1号機】の第二便と第三便を無事運航した。

 往路ではヘンリー卿がアンダーソン卿用に用意した好気性微生物培養用の魔力駆動小型送風機を送り届け、復路では人員六名と機材と薬剤を運び込んだ。


 アンダーソン卿は異臭漂う【曝気槽ばっきそう】の前面に陣取り、鍋奉行ならぬ【泥奉行】となり部下達に水質分析や薬剤投入及び攪拌を指示していた。


 その夜、キャスリンは食堂のテーブルで見覚えのあるオーラを出しながら焼酎の一升瓶を抱いて【泥酔】していた。その脇にはジェット嬢が寄り添っていた。


 あのオーラは俺の前世世界で見た覚えがある。

【夫に脚太くなったと言われたけど、これはアンタが希望した共働きで仕事と家事の両立という日常激務でついた筋肉で太くなった脚ですがと、この筋肉脚で失言夫に全力蹴りかましてやろうかという気持ちを抑えて、内助の功を体現すべく明日の夫の弁当のカロリーを半分に減らしてやろうと決意をした時】

 のオーラだ。


 酒って、キャスリン成人してたんだ。

 それはそうと旦那さんに八つ当たりするのはやめてあげてね。

 俺はキープディスタンスの心で、自らの寝床、機械室に退避した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ