11-4 ジェット嬢と街デートを楽しむ(1.8k)
俺の【謝罪会見】後に【曝気槽】で汚水の攪拌を始めた翌日午前中。昨晩からよけいに強くなった異臭に鼻が慣れてきた朝。
朝食の片付けが終わった頃に、ウェーバが操縦する【試作1号機】がアンダーソン卿と他二名と少量の荷物を積んで帰ってきた。
アンダーソン卿は連れてきた二名と共に早速現場に向かう。
アンダーソン領にはこちらに来たがっている技術者と必要貨物がたくさんあるということで、ウェーバは再び【試作1号機】で離陸した。
少し遅れてキャスリンの搭乗する【試作2号機】が到着。
到着に時間差があったのは、VTOL機構を搭載している分【試作2号機】の方が最高速度が遅いせいだ。
その後、キャスリンは首都に飛び立った。
この国では化学物質を含む排水を排出するには種類ごとに許可が必要とのこと。アンダーソン卿が今回の【活性汚泥法】の実験のために使用を予定している薬剤について臨時で許可を取るために申請書類を持って王宮に飛ぶそうだ。
この国の環境規制については前世世界よりも厳しいように感じる。
過去に何かあったんだろうか。
俺もいつも通り現場に向かおうとしたら車いす搭乗のジェット嬢に止められた。
「行かないで……」
昨晩の異臭で眠れなかったのか、目の下のクマが広がって疲れた表情のジェット嬢がすがるような目線で俺を止める。
でも、俺はアンダーソン卿が【曝気槽】で何をするのか気になっているので行きたい。
「ジェット嬢はここで留守番していればいいだろ。現場よりかは臭いが少ないはずだ」
「アンタがあの場所行くと、服に臭いが付くのよ! 臭いのよ! 匂いが付いた背中に乗る私の身にもなってよ!」
ジェット嬢が怒った。
なんか気の毒になってきたので、発想を切り替えて現場の方は若い衆に任せることにした。
「じゃぁ街行くか」
「行く」
嬉しそうに即答するジェット嬢。
街は臭いが無いはずだからな。
異臭の影響で【西方運搬機械株式会社】の工場は臨時休業。
社員寮居住者もその多くが悪臭を避けて外泊しており食堂の稼働率は低い。
昼に俺達が食堂に居なくても今なら何とかなる。
メアリに昼の仕事を休むと伝えて、俺はジェット嬢を背負ってヨセフタウン市街地に遊びに行った。
徒歩で。
ヨセフタウン市街地は悪臭の影響は無かった。
久しぶりに臭いの無い空気を吸う。
ヨセフタウンで【金色の滅殺破壊魔神】を知らない人は居ない。
だから、今回は荷物擬装なしでジェット嬢を背負って歩き回る。
昼食は、やや高級な外食店に入った。
ジェット嬢を椅子に降ろし対面で食事する。
久しぶりの悪臭の無い食事にジェット嬢は満足そうだった。
普通に街歩き。
喫茶店のようなところでコーヒー飲んでケーキ食べたり。
俺は甘いものが好きだ。ビッグマッチョだけどスイーツ好きだ。
ジェット嬢は街を歩く女子たちが気になるようだった。
俺も気になるところがある。
夏場だけど、皆ロングスカートだね。
生足出している娘は居ないね。
そういう習慣なんだね。
だから【セクハラ】は重罪なんだね。
そういえばズボンをはいている娘も居ないね。これも習慣かな。
一日遊んで夕方近くなり帰ろうとすると、ジェット嬢は背中でつぶやく。
「今夜は帰りたくないわ」
気持ちは分かるが、男と街歩きした夕方につぶやく言葉としては不適切だ。
俺は40代のオッサン。前世では既婚で常識人なオッサン。
常識的に帰る一択だ。
「メアリ達が心配する。大人しく帰るぞ」
徒歩で帰宅。
サロンフランクフルトが近づくにつれて強くなる臭いにげんなりしながらも帰る。
食堂棟に帰る前に格納庫に寄る。
【試作1号機】の点検をしているウィルバーが居た。
今日はウェーバが【試作1号機】で大活躍だったとか。
【小柄を誇り魂を磨く会】の会長でもあるウェーバは小柄である。キャスリンよりも小さい。
軽飛行機【試作1号機】は乗客や荷物を搭載できるが、積載量は少ない。
だが、小柄で体重が軽い彼が操縦することで、普通の人が操縦するよりも多く荷物が搭載できる。アンダーソン領からの荷物は主に薬剤なのでこの余剰の積載量が非常に役立ったそうだ。
明日もまた三往復する予定で、こちらに運ぶ荷物を向こうで準備しているとか。
ウェーバがどこ行ったか聞いたら明日に備えてもう寝たとか。
そりゃそうか。一日六時間近く飛行機操縦したら疲れるよね。
俺とジェット嬢も食堂棟に帰ってちょっと遅くなった夕食を頂いたあと、漂う悪臭の中で各自の夜の時間を過ごした。
ジェット嬢はメアリともう一人の女性と医務室に行ったようだ。
ガールズトークかな。




