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1-4 脚なんて飾りと確かに俺は言ったけど(1.2k)

 ジェット嬢が背後に張り付いて作業を始めてからどれほど時間が経っただろうか。

 ぼーっと空を眺めていると、後ろから声を掛けられる。


「この上着を着て頂戴」


 前や後ろにやたらと金具やらベルトが付いている変なジャケットを渡された。しかもジャケットなのに腰ベルトもついている。上着というよりおんぶハーネス的な形。


「ベルト類の止め方は分かる?」

「ああ、さすがにそれは分かる」


 前はボタンではなくベルト固定。固定方法は前世のものとほぼ同じなので止められるところは全部止めていく。腰ベルトも前世でお世話になった高所作業用安全帯の要領でしっかりと締める。

 なかなかカッコいいじゃないか。


「固定完了だ」


 そう伝えると、後ろからグイグイとハーネスを引っ張られる。


「大丈夫そうね。もうしばらくじっとしてて」


 何をしているかわからないが、準備も大詰めなのだろう。

 時折ハーネスについたベルトを引っ張られる感触を感じながらおとなしく待つ。


…………


「できたわ。出発よ」


 後ろから俺の両脇に旅行鞄サイズの鞄が二個押し出される。


「着替えや食料品などの最小限の荷物よ。これは貴方あなたが持って。あと、剣は使えないけど一応持っていきましょう。解体して素材として使える可能性があるわ」

「了解だ」


 荷物を持って立ち上がろうとすると、ジャケット越しに後ろに荷重を感じる。

 まさかと思いつつ、その荷重を持ち上げる感覚で立ち上がる。


 ジェット嬢が背中合わせで持ち上がった。


 背面背負い用おんぶハーネス。いや、むしろ背負子しょいこか。

 子供を背負ったことはあるけど、こんな形で成人を背負ったのは初めてだ。


「重いな」


 つい正直な感想が口から出てしまった。


「失礼ね! 今軽くするからちょっと待ってなさい!」


 怒られた。


 そして、後ろで衣擦れの音がしたかと思ったら、破裂音。


 背後に何かが落ちた音がした。と同時に背中が少し軽くなった。

 何かと思って後ろを見ると、


 切り離された両脚が落ちていた。


「!!!!!」


 言葉にならない。ドン引きだ。

 【重い】と言われたので【軽く】するために自分の脚を切り落とした?


 怖い。

 意味が分からない。

 確かに多少軽くはなったけど。

 俺の発言か? 俺が【重い】とか言ったのがまずかったのか。


 脚なんて飾りと確かに俺は言ったけど、それが通用するのはロボットだけだぞ。


 行き場の無いツッコミを脳内に循環させつつ、呆然ぼうぜんと落ちた脚を見ていたら、そこから黒いもやのようなものが噴き出してきた。


「荷物持って逃げて! その呪いに触れたら死ぬわよ!」


 俺は、考えるのをやめた。


「任せろ! 逃げるのは得意だ!」


 荷物を持ってダッシュ逃走。

 さすがのビッグマッチョボディ。ジェット嬢を背負っていてもスピードが落ちない。

 林の中を木の根を避けて飛び跳ねながら走る。なんかジェット嬢が背後目掛けて攻撃魔法を撃ってる気配がするが、お構いなしだ。


 俺は走った。


 俺は40代のオッサン。既婚で子持ちのオッサンだ。

 死後の世界で待っていたこんないびつなボーイミーツガール的状況にえるほど若くはない。


 でも、この瞬間、ちょっとだけ楽しいと思えた。

●次号予告(笑)●


 世界を越えていびつな出会いを果たした背中合わせの二人は、迷走の果てに最初の目的地に到着する。しかし、仕事を終え役割を果たした二人に次の目的地の指示は無い。


 傷付き疲れ果て帰郷を望む女の故郷は遥か遠く。

「飛んでいけたらいいのになぁ」

 女のつぶやきに男は応える。

「飛んで行ったらいいんじゃないか」


 前世で技術者だった男は、その知識と経験でこの世界の魔法理論の解釈を一新。ありあわせの資材でこの世界に無かったものを創り出す。


【魔力ロケットエンジン】


 ファンタジーとテクノロジーを掛け合わせた力が、背中合わせの二人を春の空に打ち上げる。


次号:クレイジーエンジニアと空飛ぶボート

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