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11-2 活性汚泥法、異世界に降臨(2.4k)

 俺の前世世界では水は潤沢じゅんたくだった。


 排水処理も都市インフラとして完成しており生活排水による異臭に悩まされることはそんなになかった。

 それを支えていたのが【下水処理場】。


 そして、そこで使われていた排水処理技術【活性汚泥法】


 好気性微生物による有機物の分解処理を連続的に行う水処理プラントで【曝気槽ばっきそう】、【沈殿槽ちんでんそう】、【返送汚泥へんそうおでいライン】の3要素で構成される。


 【曝気槽ばっきそう】にて好気性微生物の力を使って汚水中の有機物を分解。

 【沈殿槽ちんでんそう】にて汚泥と水を分離し、上澄みの水を処理水として放流。

 【返送汚泥へんそうおでいライン】にて、微生物の残っている汚泥を【沈殿槽ちんでんそう】底から【曝気槽ばっきそう】に返送し微生物群を再利用する。


 俺は前世でこの設備を作ったことは無い。

 現物を間近で見たことも無い。

 教科書的な知識しかない。が、ここではそれでも十分と思った。


 この国では有害物質の廃棄に厳しい規制があるので、排水に危険な有害物が混じることはぼぼない。合成洗剤などが実用化されていないため排水の成分のBOD/COD比は高く生物処理に適した水質のはずだ。

 処理量についても、俺の前世世界よりも一人当たりの水使用量は少ない。水魔法があるからといっても皆水は大事に使っている。

 そもそも水に関しては俺の前世世界が贅沢すぎたんだ。


 そして、サロンフランクフルト敷地の東側に各処理槽として使えるサイズの池がある。

 一番小さい滅殺池でも容積的にはオーバースペックだが、ここで作れる部品でどこまで曝気ばっきの効率を上げられるかが未知数だから多少オーバースペックな選定の方が無難だろう。


 【期待】に応えるという技術者の義務を果たすべく、テーブル上で【お通夜状態】のメンバーに俺が装置概要を説明する。


「一番重要なのは【曝気槽ばっきそう】だ。でも、有害物の分解は微生物がしてくれる。装置としては池に溜めた汚水の中に空気を送り込み続ければいいだけだ。池は【滅殺破壊大惨事】でできた滅殺池がサイズ的に丁度いい。空気を送るのはジェット嬢の風魔法が使えるはずだ」


 今なお悪臭に苦しんでいるジェット嬢が不安そうに口を開く。


「この私が、悪臭を出す汚水を大量に溜めた池に、風魔法で空気を送ると……。それは、どれだけ送ればいいのかしら。一日一回ぐらいなら……」


 この時点で、しまった。マズかった。と思ったけど、俺は覚悟して説明を続ける。


「風魔法はこの前ルクランシェを沈めた時と同じようなやり方でいい。その代わり運転中は絶対に空気の供給を止めたらダメだ。空気の供給が途絶えたら微生物が死滅して場合によっては余計酷い悪臭が出ることがある」


 ジェット嬢が虚ろな目線で机を見つめて震えながら不気味に笑い出す。


「ふ、ふふふふ……」


 怖い。普通に怖い。

 そんな時、窓から風が入り高濃度の悪臭が食堂に流れ込み、ジェット嬢、撃沈。

 机に伏せて動かなくなってしまった。


 いくら魔法発動の射程距離が長いからって、悪臭漂う池に二十四時間休まず風魔法で空気を送り続けるとか、ジェット嬢に頼める仕事じゃないよね。


「空気を送る装置はこちらで何とかしよう。滅殺池の水面全体に気泡が出るぐらいでいいんだな。大至急準備する」


 普段積極的に発言することのないオリバーが珍しく積極的に出てきた。

 そんなオリバーにフォード心配そうに確認する。


「オリバー、まさか、あの風力選別機を解体する気か? 渾身の出来って喜んでたじゃないか」

「背に腹は代えられないだろう。今年収穫分の処理はほとんど終わってる。来年までに作り直せばいい。アレの送風機なら十分すぎる性能が出るはずだ」


 出た。装置の共食い祭り。

 緊急で部品が必要になったから別の動いている装置から部品を取り出して転用する。俺が前世で開発職サラリーマンをしていた時にも経験がある。

 何らかの理由で部品の納期が間に合わない場合や、予算が足りなくて新しいものを買えなかった場合にこの手法を多用した。

 でも、これを繰り返していると最終的には動く装置が全部無くなってしまうという諸刃の剣。多用はおすすめできない。


「微生物か。私はよくわからないが、前回の議会でアンダーソン卿に会った時にそんなような言葉を言ってた気がする。この技術についても近いものを考えているかもしれない」


 ヘンリー卿からも有用な情報。

 こっちの世界でも細々と研究していた人物が居たか。それは助かる。


「そのアンダーソン卿に連絡は取れるか? 装置概要を説明したら協力してくれるかもしれん」

「手紙を書いてみよう。でもアンダーソン領はここから遠いから届くまで八日ぐらいはかかるが」


 そうだった。こっちの世界には電話とか無いんだった。

 片道八日ということは返信は早くても十六日後ぐらいか。

 それまでジェット嬢が焼き払うのを我慢できるかどうか。


「キャスリンを使いましょう! ぐるぐる巻きの件があるから彼女は断れないわ!」


 ジェット嬢が復活して叫ぶ。

 そうかその手があったか。


 キャスリンは明日か明後日ぐらいには【試作2号機】の点検整備のためにここに来るはずだ。

 VTOL(垂直離着陸)機の【試作2号機】なら滑走路が無くても、ある程度の広さの平地があれば離着陸が可能だ。

 キャスリンの腕なら建屋の屋根にだって着陸できる。


 そして、キャスリンは第二王子の妻でもあるので各地領主と顔見知りだ。アポなしで突撃しても領主がそこに居れば面会はできる。


 方針は決まった。


 ヘンリー卿はアンダーソン卿宛ての手紙を書く。

 オリバーは空気供給装置の部品確保。

 フォードは、排水を滅殺池に送るための水路の工事の準備。


 俺とジェット嬢は、あんまりやることないので食堂の掃除。


 ジェット嬢によると、キャスリンは【夢中になると周りが見えない】性格ゆえに突然無茶苦茶なことをする悪癖があるが、しばらくして冷静になると落ち込んでしばらく大人しくなるらしい。


 程度の差はあるけど本質的には俺のダメ行動癖に近いもののようだ。ただひたすらにヤバイ女と思っていたがちょっと親近感わいてきた。

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