9-5 魔力電池、誕生(1.0k)
俺とジェット嬢が魔力推進脚による飛行試験に失敗し、ウィルバーの交換条件を受諾してから二日後。
プランテより、魔力電池の開発に成功との連絡を受けた。
食堂から横領した木炭で単離した金属シリコンにより、魔術師の力を借りることなくフロギストンから連続的に電気エネルギーを生成させることに成功したそうだ。
現時点では、原型機なので安定性や出力に課題があるが、基本原理が確立し、つまり、可能であることが実証されたことにより、実用化への道が開けた。
フォードはその報告をうけて、鉛蓄電池との組み合わせを前提にトラクター搭載型魔力電池の実用化に向けての研究を行うと、【西方運搬機械株式会社】から多額の研究資金の割り当てを行ったとか。
俺も見たい。
どんなものか見たい。
展示室にもってきてくれないかな。
そんな俺にメアリ様から非情な一言。
「食堂棟への魔力関連の道具の持ち込みは禁止させていただきました」
車いす搭乗のジェット嬢からも追撃。
「アンタがああいう物を触ると、危ないことになりそうだからね」
あんまりだ。俺が前世世界でもちょっとだけ夢見たことのある【禁断の永久機関】ぽいものができたのに、見に行けないなんて。
「確かに、俺は、鞘から抜くのに失敗して【国宝の魔剣】を折ったり、前線基地跡地に放置してあった大砲を暴発させたり、作りたての【魔導砲】を暴発させてメアリを殺しかけたうえにジェット嬢があわや冤罪になるところだったけど」
「だったけど、何?」
ジェット嬢とメアリ様が俺の顔を見ながら言う。
自分で言ってて、さすがに俺も折れた。
「やっぱり、ああいうアイテムは俺が触ったりしないほうがいいですよね」
「よろしい」
魔力電池はプランテ達が作り出したものだ。
魔法の無い世界から来た俺がそれを見ても発展や改良について助言できることなんて無い。
前世世界の電気技術について俺が知っていたことは全部教えてある。あとは任せればいいのだ。
俺は魔力電池の実用化を楽しみに待つだけでいいのだ。
俺は40代のオッサン。未来ある若者達に道を示すのが仕事。
自ら道を切り開き始めた若者達がいるなら、わざわざその前に立つような無粋な真似はしない。
自分の意思で進み始めた若者達が道を誤ることが無いようにだけ、離れて後ろから見守るのだ。
それが40代のオッサンのあるべき姿。
俺はそう思う。
●次号予告(笑)●
空を飛ぶことに憧れを抱き続けた青年は、異世界の技術の断片より【翼型】の再現に挑んだ。
風魔法による簡易的な風洞試験、一人で日夜試行錯誤を繰り返して作り上げた【翼型】。
それを組み込んだ翼の揚力で、背中合わせのあの二人が地表より浮き上がる。
その様を望遠鏡で後ろから見届けた時、自らの夢の実現を確信した。
長年の苦労が報われる時が近づいた。
そんな時に彼が抱いた小さな出来心を誰が責められよう。
望遠鏡の向きが出来心に押され、その視野に魔力推進脚の噴射口をとらえた瞬間。
無慈悲な魔力が彼の足元から牙を剥く。
次回:クレイジーエンジニアと空飛ぶ妃殿下




