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9-4 俺達が飛べなかった理由とウィルバーの提案(2.0k)

 調理用木炭横領容疑により四人揃ってこうべれてつくばってから三日後の午前中。

 ルクランシェは作った鉱石の半分を持ってボルタ領に帰還していた。ボルタ領の研究チームにて特性確認や活用方法の模索を行うとか。


 プランテは引き続きこちらに残り研究を続けていた。フロギストンから自発的に発電を行うような装置を作り、鉛蓄電池と組み合わせてトラクターに搭載するのが目標とのこと。

 プランテよ、それが作れたら【永久機関】に近いものになるぞ。がんばれ。


 プランテとルクランシェが自分の研究に戻っていったのと、【滅殺破壊大惨事】の後片付けも落ち着いてきたので、俺とジェット嬢はちょっと暇になってきた。


 そこで魔力推進脚による飛行試験を行うために、ウィルバーを誘って東池周辺に来ていた。

食堂棟北側の広場のほうが広いのだが、そちら側は今はフォードの工場を建設中でたくさん人が来ている。

 そのため、自由研究のようなことは東池周辺で行うのが慣例になっていた。


 ウィルバー立ち合いの下で、ジェット嬢の魔力推進脚の推力で離陸を試みる。

 そして、離陸に失敗して俺が腹ばい姿勢で地面にこすり付けられる。


 俺が痛い。

 俺の服がボロボロになる。


 前世で好きだったロボットアニメでは、背中にロケットエンジンを背負った人型ロボットが優雅に空を飛んでいた。


 でも、俺は知っていた。あのエンジン配置では飛べないと。


 重心より後ろ側で自重を越えるような大推力を出したら、前のめりに倒れた状態でねずみ花火のように地面を走り回ることになる。


 今の俺のように。


「ジェット嬢よ、このスタイルでの飛行はちょっと無理があるぞ」

「うーんそうね。推力は十分だけど、なんかこう、前後のバランスが取れないというか」


 離れた場所で見ていたウィルバーが声をかけてくる。


「おーい、ちょっと僕近づいてもいいですかぁ?」


 離れた場所で見ていたのは理由がある。

 また、近づく前に確認するのにも理由がある。


 ジェット嬢が推進噴流を出すとき近くにいると、吹き飛ばされるのだ。

 俺達二人の自重を持ち上げるだけの推進噴流でもそれが地表に当たって周囲に広がるときの流速はかなり速い。


 ビッグマッチョの俺ですら、気を付けて踏ん張ってないと足を流されそうになる。

 普通の人間だとあっさり流速に足を流されて転倒し、倒れた状態で吹き飛ばされて擦り傷だらけにされてしまう。

 今のウィルバーのように。


 俺の前世世界のジェットエンジンやロケットエンジンと異なり、推進噴流の温度はそれほど高くないので火傷の危険性は無いのが救いだが、危ないことに変わりはない。


「こう、魔力推進脚の角度を、私からみて後ろに向けてバランスを取るのはどうかしら」


 背中のジェット嬢が魔力推進脚の噴射口を俺の脚に当ててくる。


「やめてくれ。俺の脚に推進噴流が当たる。あと、この角度で推力を出すとオマエの骨にも悪影響が出そうだ」


 推進噴流で俺の脚が吹っ飛ばされたら着陸ができなくなるぞ。

 それに、ジェット嬢はバカ力ではあるが、身体は人間の女の子だ。

 骨や関節に変な方向に力を加えると、骨折や脱臼の可能性もある。


 恐る恐る近づいてきたウィルバーが声をかけてくる。


「今飛ばないでくださいね。僕が飛ばされてしまいます」


 ウィルバーは俺達を見ながら、俺達の周りを何週か回った後、もっともなことを言い出した。


「イヨさんが下になれば簡単に飛べるのでは?」

「それはカッコ悪いからダメ!」


 俺とジェット嬢の不条理な理論が同期し、ウィルバーは顔をひきつらせた。


 分かってる。

 分かってるんだ。


 推力はジェット嬢の魔力推進脚から出る。

 そして、その魔力推進脚の噴射口は俺から見て後ろ側の方向に広い可動範囲がある。

 だから、ジェット嬢が下になり、俺がジェット嬢に背負われる形になれば、推力を下方向の広い範囲に動かせる。


 推力だけなら余裕があるんだ。

 この形で飛べば俺の前世世界における飛行機やヘリコプターよりも自由度の高い飛行性能が普通に出せるはずなんだ。


 でもダメだ。

 ビッグマッチョの今のこの俺が、ジェット嬢に背負われる格好で飛びたくない。

 カッコ悪すぎる。


 【手段のためには目的を選ばないどうしようもない人間】だからこそなのか、飛びたいという欲望よりも、カッコ悪いという抵抗の方が勝ってしまう。

 ジェット嬢も同じ考えなようで、俺を背負った形で飛ぶのは望むところではないらしい。

 良くも悪くも息が合ってきた。


「僕の飛行機作りに協力してくれるなら、お二人がカッコいいと思える形で飛ぶ手段を提供しますよ。今の背中合わせの配置で、イヨさんが上になって飛べればいいんですよねぇ」


 呆れた顔で俺達を見ていたウィルバーが、交換条件を提案してきた。


 ウィルバー、本当に飛行機を作ろうとしていたのか。

 俺達はウィルバーの野望に協力することにした。

 俺達がカッコよく飛ぶために。

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