9-2 ルクランシェ沈没事件(2.3k)
【魔導砲】暴発による【ジェット嬢冤罪未遂事件】の二日後の午前中。
プランテは、あの日俺が持ち込んだもう一つの素材について何らかの可能性を見出していた。
【滅殺破壊魔法】にて焼失した炭の保管庫から回収した、金属光沢を放つ謎の鉱石。
金属光沢をもつ部分だけ単離して実験をしようとしていたが、量が少ないのでもっと欲しいと。
同じく興味を持ったメンバーを集めて、東池周辺で鉱石集めをすると言っていた。
俺もあの鉱石は気になっていたので、朝食の片付けが終わった頃合いにジェット嬢を背負って東池の方に様子を見に行った。
東池周辺ではプランテと【小柄を誇り魂を磨く会】のメンバー三名を含む六名が落下した石を集めて調べていた。
そして、東池では誰かが溺れているが、誰も気にしていない。
さすがにこれは放置はできないと、プランテに声をかける。
「おいプランテ。東池で溺れているのは誰だ? なぜ放置している。危ないぞ」
「彼は私の研究仲間のルクランシェです。ボルタ領より昨日到着したので例の鉱石の捜索を手伝ってもらっていたんですが、ちょっと問題が発生しまして」
「池に落ちたのか。だったらすぐに引き上げてやればいいじゃないか」
「彼は鉱石を探しているときに、【魔法で出来た鉱石なら同じ魔法をもう一度やってもらえばいいじゃないか】と言い出しまして、作業を手伝ってくれていたあちらの方々に池に放り込まれてしまいました」
【滅殺破壊魔法】で殺されかけた【小柄を誇り魂を磨く会】のメンバーの前でそれ言っちゃったら、放り込まれるのも仕方ない。
俺も納得した。
「それは仕方ないな。しばらく池で反省させよう」
「ちょっと酷いんじゃないかしら」
ジェット嬢が心配そうに口を挟む。
「そろそろ助けてあげないと……あっ!」
「どうしたジェット嬢。あっ。沈んだ? あの気泡はなんだ?」
ルクランシェ青年が水面から消えて、その代わりに溺れていた周辺に無数の気泡が出ていた。
「助けようと思って、風魔法で水中に空気を送ってあげたら沈んじゃった……」
「やめてあげて! 本当に死んじゃう!」
水に気泡を混ぜると、水の見かけ上の比重が小さくなるため、その上に浮いている物の浮力は小さくなる。つまり、沈む。
これで船が沈むことだってあるぐらい危険な現象だ。
結局、【小柄を誇り魂を磨く会】メンバーが可哀そうなルクランシェ青年を救出。食堂棟の医務室に搬送した。仲間意識でも芽生えたかな。
殺されかけた者同士。
肝心な鉱石の捜索の成果について。
プランテ曰く、東池周辺を広範囲に捜索したが、目当ての鉱石はほとんど見当たらなかったという。東池周辺の石が片付いたのは大きな成果であったが、続きは午後からということで一旦解散。
昼休みに入る。
昼食時間帯は食堂の仕事があるので、俺もジェット嬢も忙しい。
俺は食後のテーブルから食器を回収して、テーブルを拭く係。
でかくて邪魔になるから繁忙時間帯は調理場への立ち入りは禁止されている。
泣くぞ。
ジェット嬢は車いすでウェイトレス。
車いすにトレーラックを搭載することで、通常の三倍の効率で配膳ができるスーパーウェイトレスとして仕事を頑張っている。
昼休みが終わり、食堂の片付けも終わったところでジェット嬢を背中に張り付けて東池に再度集合。
午後のメンバーは、俺、ジェット嬢、プランテ、ルクランシェ。
午前中手伝ってくれたメンバーは、午後はフォードの工場建設の手伝いがあるということでそっちに行った。
ちなみに、遊んでいるようにも見えるプランテは研究と勉強目的でボルタ領から派遣されているので、こういう探索活動も仕事のうちらしい。
「午前中は迂闊な発言をしてしまい申し訳ありません。助けて頂いた方々から聞いたのですが、まさかそんな恐ろしい魔法だったとは知りませんでした」
着替えてから合流したルクランシェ青年が午前中の反省を述べる。
「【金色の滅殺破壊魔神】といって、この町では知らない人がいない絶対的な超恐怖伝説なんです。これに関連する話は言葉を選ばないと大変なことになります」
プランテがルクランシェにこの街で生き残るための注意点を説明するが、お前も言葉を選べプランテ。本人が俺の背中に張り付いていることを気づいてないのか。
また吹っ飛ばされるぞ。大変なことになるぞ。
若者達が危険な失言をする前に、俺は話題を変えることにした。
「鉱石の件に話を戻そう。炭の保管庫跡地以外からは発見されてないので、炭の保管庫にあった何かと、溶岩が反応してできたものかもしれん」
「最初に炭保管庫跡地から採掘されたことは聞いていたので、その線はあると思って木炭をもってきました。これを粉砕して、同じく粉砕した溶岩を混ぜて加熱したらあの鉱石ができたりしないでしょうか」
ルクランシェが木炭の大袋を出しながら仮説を語る。
「面白そうね。粉砕して混ぜてくれたら、加熱するのは私出来るわ」
俺の背中から聞こえるジェット嬢の声に、プランテとルクランシェが青ざめる。
「よ、よろしくお願いします。では我々は準備しますので」
プランテとルクランシェが粉砕機などの機材を取りに食堂棟に戻っていった。
やっぱり俺の背中にジェット嬢が居ること気づいてなかったのか。確かに正面からだと俺がビッグマッチョすぎてジェット嬢が見えないからな。
危ないところだった。
しばらくしたら準備ができた。
溶岩からできた石を粉砕したものと、木炭を粉砕したものを混ぜて、スコップで地面に掘った穴に入れる。
俺の背中に張り付いているジェット嬢がその穴の中を火魔法で加熱する。火加減はよくわからないので、溶けるぐらいまでということで赤く輝くぐらいの火加減で加熱を続けている。
俺とプランテとルクランシェでその輝きをワクワクしながら眺めている。
この火魔法を見て気になったので、普通の魔術師とジェット嬢の魔法の発動方法の違いについて俺なりに考えてみた。




