8-2 トラクター量産計画(2.0k)
目を覚ましたジェット嬢が宅配便の伝票にサインし受け取り完了。
荷物の中身を確認をしたそうだったので、ジェット嬢を二階の四号室に運んで俺だけ下りてきた。
食堂のテーブルの一つにフォードと対面で座り、二人でビスケットをつまみながらコーヒーを飲む。
さっきのやりとりで気になったことを聞いてみるか。
「工場を建てたいと言ってたけど、何を作る工場なんだ?」
「プランテと作ったあのトラクターを大量生産して売りたいんだ。あれが農場にあれば農作業の効率が格段に上がる。今までと同じ人数で三倍から五倍の面積を耕作できる。売れるはずだ」
「部品や材料の種類は多いだろう。全部その工場で作るつもりか?」
「魔王討伐成功により剣とか防具とかの需要が減ってる。そのせいで、今は国中の鍛冶屋が新しい仕事を探している状態なんだ。だから、そういうところに部品の製作を頼んで車体全体の組み立てをここで行うことを考えてる」
「それはいい案だな。協力してくれる鍛冶屋は居るのか?」
「ここ数日でヨセフタウンや近隣都市の鍛冶屋を回ってきた。構想を話したらみんなぜひお願いしますとのことだった。鍛冶屋と言っても職人さん毎に得意不得意や製作レベルに違いがあるから、得意なところに得意な部品を割り振れば効率がいいことに気づいたよ」
フォードはそう言って、持っていたカバンから部品用や図面のような書類を出して机に並べた。
俺はこの世界の文字が読めないので詳細は分からないが、図面を見ることで全体像は何となく見えてきた。
でも、少し気になることがあった。
「フォードよ。いつの間にそんなことしていたんだ」
「初めて電動機回したあの日からいろいろ準備してたんだ。現場を回っていたら予定してなかった収穫もあったよ。魔王討伐成功の影響で鍛冶屋だけでなく大工とか辻馬車も仕事が減ってると嘆いていたから、そっちにも仕事を頼めそうだ。辻馬車は鍛冶屋から工場まで部品を運ぶ仕事をお願いしようと思ってる」
フォードは楽しそうだ。
「将来的にはいろんなものを作りたいから、ヘンリー卿みたいに新しいものを作れる人もたくさんほしい。そう考えて職人や大工の三男や四男に声を掛けたら手伝ってくれる人が結構集まった。町にある技術学校の講師の方にも声をかけたら興味を持ってもらえて、少しだったら手弁当で講師役を引き受けていいって言ってくれた。だから次は工場を作りたいんだ」
魔法学校の時といい、最近やたらここに大人数が出入りしてると思ったらそんなことになっていたのか。
そうなると、工場以外にも設備必要なんじゃないか。
ちゃんと考えてるか聞いてみるか。
「建てるのは工場だけでいいのか? 食堂とか、この前みたいな講義を頻繁にするならそれ用の部屋も欲しいし部品在庫を持つ倉庫も欲しいぞ」
「そういうのも工場に含まれると思ってどういう設計にするのか大工と相談してるんだ。ここの展示室みたいに設計や実験や雑談ができるような場所も欲しい。倉庫については部品在庫は極力持たないようにできないか今考えてる。それも限界はあると思うからどのぐらいの規模の倉庫が必要かはこれから考えないといけないけど」
「完成したトラクターをどうやって売っていくつもりだ」
「将来像は考えないといけないけど、その部分の本格検討はヨセフタウンと近隣の農家に必要数行き渡ってからでもいいかなと考えてる。これも農家に行って構想とかいろいろ話した。こういうのがあれば欲しいと言ってはくれたけど、前金とかはさすがに無理だから、結局つまり今はお金が欲しいんだよ」
お金の話に戻ってきてフォードは机で頭をかかえる。
あー、お金ね。
ジェット嬢から借りるんだっけ。
そういえば今はジェット嬢が背中に居ないな。
そう思って俺は何となくつぶやいた。
「そういえばジェット嬢遅いな。荷物の確認に時間がかかってるのかな」
「あれ? 今のイヨは迎えに行かないと階段下りれないんじゃないのか?」
そうだった!
俺は慌てて階段に行く。念のため車いすも持っていく。
階段まで行くとジェット嬢が階段の二階側で手すりにぶら下がって待っていた。
片手でぶら下がり反対側の手には座布団を二枚持っている。
「遅かったわね。階段の手すりの下に車いすをお願い」
言われたとおりに階段の手すりの下に車いすを置くと、ジェット嬢は手すりにつかまってスルスルと階段を降りて車いすの座面に座布団を二枚重ねてからゆっくりと乗った。
ちなみに屋内での魔力推進脚の使用は禁止されている。
それでも片腕で自重を支えられるぐらいの腕力があるから、手すりがある範囲ならジェット嬢は自力でもある程度の移動ができる。
「フォードが話があるそうだぞ」
「今日はゆっくりお願い。段差とか気を付けて、ゆっくり押してね」
心なしか今日のジェット嬢はいつもより動きが遅いし、疲れているようにも見える。
昨日の【滅殺破壊魔法】による消耗だろうか。




