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7-4 小柄を誇り魂を磨く会(2.9k)

 東池から男達が這い上がってきた。


 お互いの無事を確認し、着弾した溶岩の無い場所に集まってへたり込んでいる。

 ずぶぬれでボロボロだが、ちゃんと九人いる。

 見たところ大きな怪我はしていないようだ。ひとまずは安心だ。

 だが、この【滅殺破壊大惨事】の再発を防ぐため、俺はこいつらに言っておかねばならないことがある。


 ウェーバのコンプレックスを心情的に理解できなかったことを理由に中途半端な指導をしてしまった俺にも責任はあるのだ。

 40代オッサンとして最後まで責任もって導いてやらねばならん。


「この大惨事はなぁ、不甲斐ないお前らに対して神が落とした天罰だぞ」

「いや、これは滅殺破壊」「天罰だ!」


 疲れ切った表情のウェーバが疑問を口にする。

 他のメンバーも否定するような目線を送ってくる。

 だから、俺は念押しする。


「天罰だ。これは天罰! それ以外の何物もあり得ない。それとも俺に回れ右させたいか?」

「これは天罰です!」


 全員がシャキッと同意した。

 理解が速くて助かるぜ。


「俺はウェーバに【長身はモテ要素ではない】という大切な言葉を教えた。だが、お前らはその解釈を間違えたんだ。それがこの【大惨事】の要因だ」

「どこをどう間違えてこのようなことになってしまったのでしょうか」


 ウェーバが救いを求めるような目線で問いかける。


「【大惨事】の主要因となった最も罪深い間違いは、大切な言葉を大きく曲解し、長身女性に対する攻撃的な発言を許したことだ。これは非常に罪深いことだ」


「どんな理由があろうとも、誰も聞いていないという油断があろうとも、女性の風貌や体格等を揶揄して女性に不快感を与えるような言動は絶対してはいかん。これは俺の前世の世界では【セクハラ】と呼ばれて、死刑が適用されるぐらいの重罪なんだぞ」

「死刑?!」


 死刑は嘘だけど、今まさにそれで殺されかけたこいつらなら疑問は持たないだろう。

 その真理の前に小柄の一人が涙目で訴える。


「日常的に女にチビとガキとバカにされても。心をえぐられるような罵倒をされ続けても、耐えなくてはいけないのですか! 言い返してはいけないのですか!」


 いい質問だ若造。

 40代のオッサンが男の生き方というものを教えてやる。


「いかん! 男は耐えなくてはいかん。どう言われても何があっても耐えなくてはいかん。野生動物だってメスに反撃するようなオスはおらん。動物だって知っている。オスは、男は耐えねばならんのだ!!」

「人間は動物とは違います! 女性相手に対等に戦ってもいいはずです!」


 そこまで言うなら俺の背中に張り付いている女性と対等に戦ってみるか? とは言わない。


 聞け、そして悟れ。男の生き方を!


「そうだ。人間は野生動物とは違う。知能がある。心がある。だからだ。だからこそ、どんな生き物よりも女性を大切に扱わねばならんのだ。女性を尊重しなくてはならんのだ。究極的には、人間の男の命というのは、女の我儘わがままを叶えるためだけに存在するのだ!」


「!!!!!!」


 九人の小柄達が驚愕きょうがくの表情で絶句した。


「男は男だけでは、次世代に命をつなぐことができん。女性を大切に扱い、女性を尊重し、女性を愛することでしか、次世代に価値を命を繋ぐことはできん。男は自分だけでは自らの命に価値を与えることはできんのだ。だからこそ、女性に尽くし、女性から愛されることに人生における力の全てをささげる義務がある。その義務を全うすることで、男の魂は輝き、女性からの愛を受けることができるのだ。そして、その魂の輝きに女性からの愛を受けた時。男は無敵となり、輝く魂の力を発揮できる」


「輝く魂の力!」


「この力を得た男は無敵になれる! 深夜残業から帰ったら子供が夜泣きでお出迎え。それを一晩徹夜であやして不眠で翌日出社し、また深夜残業するような毎日でも死ななかった。仕事と妻の介護と子供二人の育児をワンオペで回し続けても死ななかった。それだけでなく、そんな中でも仕事で成果を上げて会社から表彰されたりもした! 男の肉体というのは、男の精神というのは、男の頭脳というのは、輝く魂の力さえあれば超人的な耐久力と能力を発揮する。お前らにもそれができるんだ! 道を誤ることなく、男の正しい生き方に心定めれば、お前らも無敵になれるんだ!!」


 そう、男の役割に殉じて、魂の輝きを手に入れれば周囲を驚愕きょうがくさせるほどの驚異的な能力が発揮できる。これは本当だ。前世の俺が証明している。


 結局死んだけど。


「だが、逃げた者にはこの輝きは宿らない。女性を大切に扱い、女性を尊重し、女性の我儘わがままを叶えるという男の本来の義務から逃れた者には、女性から逃げようとした者、女性から逃げた者には、この輝きは宿らない」


 背中に張り付くジェット嬢が笑いをこらえて震えているのが分かる。

 ツッコミするなよ。

 今だけはツッコミは無しだ。頼む。


「女性はな、本能的に逃げる男を嗅ぎ分ける力を持っている。社会の中で、集団の中で、価値を持たない逃げる男を叩き潰し、【滅殺めっさつ】する本能を持っているんだ。女性に罵倒されると言ったな。それはその本能の体現なんだ。小柄だからとかそんなのは理由に過ぎない。小柄を理由に卑屈になり、男の義務から逃げているその魂を【滅殺めっさつ】しようと罵倒しているんだ」


 背後の震えの種類が変わった。

 怖い。自分で言ってて怖い。

 頼むから何もしないでくれよ。もう逃げないからお願い。


「では、私たちはどうすればいいのでしょうか。どうすれば、魂を輝かせることができるのでしょうか」


 メンバーの一人がすがるような目線で求める。

 そんな彼に俺は道を示す。


「すでに女性に直接罵倒されるほどまでに無価値と判断されているなら、そこからの道のりはつらく険しいものになる。一発逆転のような都合の良い方法は無い。だが、男の命の目的、男の義務、男の生き方を悟り、一日、一日、いや、生きるすべての瞬間でそれを体現することを心がければ、魂の輝きは得られる。」


「長い道のりになる。だが、心定めて道を誤らなければ、必ずたどり着けるんだ。そこにたどり着いたら、体格が小さくても、顔が不細工でも、その魂を女性は認めてくれる。愛してくれる。未来につながれるんだ!」


「師匠!」


 小柄達は男泣きした。

 スクラムを組んで男泣きした。

 そして、悟りを開いた表情で叫んだ。


「俺たちはこの瞬間から【小柄を誇り魂を磨く会】だ!」×9


 そして、池に向かって横一列に並んで叫ぶ。


「小柄を誇り魂を磨く!」

 「小柄を誇り魂を磨く!」

  「小柄を誇り魂を磨く!」

   「小柄を誇り魂を磨く!」


 その魂の咆哮ほうこうはずいぶん長い時間続いた。


 周囲を確認する。

 やっぱりメアリが居た。


たっとくなった。ずいぶんとたっとくなったわ……」


 炭保管小屋の焼け跡の影からたくましくなった小柄男たちに熱視線を送る。

 そうだよ。男の命の意味を理解し、己の魂を輝かせることで男はどこまでも強くなる。

 彼等はこれから大きくなる。


 身長以外の部分で。


「でも、私は男の人は大きいほうがいいな」


 ジェット嬢がぜんぶ台無しにするようなことを小声でつぶやいた。


「今それを言うな。俺が居るからいいじゃねぇか」

「それもそうね」

●次号予告(笑)●


 異世界技術由来の電動機。魔法応用の魔力電池。

 それらを搭載したトラクター。


 便利なものが出来たなら、売ってみたくなるのが人の常。


「工場を建てたいんだ! お金を貸してくれ!」


 商売をするなら資本金が必要。だが、商売にはそれ以上に大切なものがある。

「信用って大事よ。そのためにも、約束を守るのって大事よ。あぁ、お尻が痛いわ」


次回:クレイジーエンジニアと若い起業家

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