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7-3 恐怖! 滅殺破壊大惨事(2.1k)

 フォードとプランテが展示室で熱い友情を演じてから二日後の昼休み。

 【長身はモテ要素ではないの会】を結成したウェーバ達の様子が気になった俺はジェット嬢を背中に張り付けて東池近くまで来ていた。


 サロンフランクフルト食堂棟東側にある丘のさらに東には、東池と呼ばれる二個の池がある。その池のほとりが彼らのお気に入りの場所だ。


【長身はモテ要素ではないの会】の人数は九人。


 彼等は池に向かって心の叫びをあげるのを昼休みの日課としている。


「長身はモテ要素ではなーい!」


 同じ悩みを抱える人間が集まってお互いを高めあうのならいいのだが、どうやら揃いも揃ってダメな方向に転がりだしている。


「長身女は価値なーし!」


 40代オッサンとして、若者が間違った方向に転がっていくのを座視することはできない。どうにかして彼等をまともな道に戻してやりたい。


「見下ろしてくるような女は願い下げだー!」


 叫びの内容がいよいよヤバくなってきた。

 そろそろ止めてやらねば。


「いい女は小柄に限る!」

「長身女は子供のころから年齢不詳! 心は子供で身体は大人!」


「ふぁいとー・めっさーつ!」


 突然のジェット嬢の変な掛け声と同時に、すごい勢いで何かが背後に引き寄せられる感覚。それと併せて周囲から俺の方向に金色のオーラが集まってくるのが見えた。


 次の瞬間、地面が揺れて背後からまぶしい光。

 本能的に感じる死の恐怖より視界がスローモーションになる。


 俺の背後で起きたと思われる爆発の衝撃波が、俺の両脇を抜けて前方に居る九人の男達を吹き飛ばし、東池に落とす。

 それに続いて無数の赤熱した小さな何かが銃弾のような速さで俺の背後から周囲に広がっていく。それらが池に落ちた男たちの頭上をかすめて広範囲に散らばる。


 そして、空が少し暗くなったと感じると、視界の上端に大小無数の黄色く輝く何かが背後から空に広がっていくのが見える。

 空に広がったそれらはゆっくりと、落下に転じる。


 まずい!!


 俺は池に落とされて呆然ぼうぜんと浮かんでいる男たちに向かって叫ぶ。


「対空警戒! 急速潜航!」


 男達は上を見て驚愕の表情を浮かべたのち、慌てて池の中に潜っていった。

 全員水面から姿を消したことを確認したぐらいのタイミングで、黄色く輝くそれらは水面と周辺の地面に降り注ぐ。


 降り注いでいるのは赤熱した石?

 いや、高温に熱された溶岩の塊だ!


「動かないで!」

 俺も隠れなければと動こうとしたところで背後からジェット嬢の声。


 そうは言ってもと、その場に立ち止まった状態で隠れる場所を探す。

 まきや炭を置くための木でできた小さな小屋が視界左端に入った。

 あの中に逃げるか? と思った次の瞬間。空から降ってきたバスケットボールぐらいの溶岩の塊が小屋に直撃。瞬く間に小屋は炎上した。


 男達が潜っている池の水面を見ると、大小さまざまな大きさの溶岩が降り注ぎ、着水するたびに小規模な水蒸気爆発を起こしていた。


 まさしく【地獄絵図】。


 そんな状況をどれほど眺めていただろうか。

 気が付くと溶岩の雨は止み、池は水面から湯気を出しており地面のあちらこちらに散乱する赤黒い溶岩の塊からは水蒸気や煙が出ていた。

 不思議と俺の周囲半径1m程度には着弾しておらず、全く動けなかった俺にも一発も命中していない。

 この惨事の原因は俺の背後で起きた何かだ。

 その災禍の原因を確認すべく俺はその場で回れ右して、言葉を失った。


 そこにあったのは、穴。

 東池の三分の一ぐらいのサイズの丸い穴。

 その穴の壁面は溶岩のように赤黒く光り、穴の底では黄色く輝く溶岩がグツグツ沸騰していた。そしてそこから放たれる輻射熱は溶鉱炉のように熱い。


「おい。オマエいったい何をした」


 俺は当然のように背中に張り付くジェット嬢を問い詰める。


「わ、私じゃないわよ。だ、誰かが大砲でも暴発させたんじゃないかしら。本当に危ないわねぇ」


 そんなわけあるか。

 俺は聞き方を変える。


「この魔法発動するのに、さっきの変な掛け声は必要なのか?」

「必要というわけではないわ。でもコレをする時つい出ちゃうのよ」


 かかったな小娘。


「やっぱりオマエの仕業か! 何考えてこんなことをするんだ! 危ないだろ!」


 もう危ないなんて次元じゃないけど、どう表現していいのかもわからない。


「えーと、あー……。実は……。先程ワタクシの耳に入った言葉の中にですね、ワタクシの心の逆鱗げきりんをこう、鷲掴わしづかみにするようなものがありましてですね。それゆえにまぁ、王宮では聖女などと呼ばれていたぐらいに慈悲深く温厚なワタクシもつい逆上してしまい、ちょっとこう、穴掘りなどしてしまったといいますか……」


 観念したジェット嬢がしどろもどろに応える。

 もう、ツッコミどころが多すぎて言葉が出ない。

 でも俺は人生経験豊富な40代オッサン。言うべきことは言うべき時に言っておこう。


「もっと小さい穴でもよかったと思うぞ」

「これが今できる最小サイズであります。ワタクシがんばってここまで小さくしますた」


 これが、裏山のため池や東池を作ったとされる噂の【滅殺破壊魔法】か。

 確かに今回の穴はため池や東池よりも小さいが……トラウマになるよ。

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