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7-2 フォードとプランテの暑苦しい友情(1.3k)

 展示室でウェーバが違う種類の【電波】を飛ばしてから三日後。トラクターの開発が始まってから一週間が経過した。

 何パターンかの車体の試作機が出来上がったようで、外では試作トラクターが走り回っている。

 直流直巻電動機と鉛蓄電池の組み合わせは良かったようで農園での実用化も近そうだ。


 そんな日の夕方、掃除をするためにジェット嬢を背中に張り付けて展示室に行くと、プランテが部屋の隅に置いた鉛蓄電池の前でしゃがみこんでいた。

「どうしたプランテ。鉛蓄電池は今日も大活躍だったじゃないか」

「鉛蓄電池がトラクターから降ろされてしまいました……。電源としては魔術師乗せたほうが長持ちするし、そのほうが車体が軽くなるとかで」

 悲しそうな顔を上げてプランテは応える。


「あちゃー」

 俺は額を抑えて天を仰ぐ。


「私の鉛蓄電池は、実用化される前に時代遅れになってしまいました……」


 魔法で発電ができるこの世界では確かにそういう選択もアリだな。

 でも、魔術師はどこにでもいるわけじゃない。

 電動機の実用化には蓄電池技術の進歩は必要だ。


「プランテ、よく聞け。鉛蓄電池は蓄電池の王だ。決して時代遅れなんかじゃない。特に、体積エネルギー密度、大電力放電能力でコイツに勝てる化学蓄電池はあと百年は完成しない。一回外されたぐらいで嘆くな。自分の開発した技術を信じろ」

「でも、重さだけはどう工夫しても克服できません。動くものに乗せるにはこれは致命傷です」

「その重さが利点になる用途もあるんだ。あきらめるな。頭を使え」


 そんなやりとりをしていたら、展示室に泥だらけ傷だらけの姿でフォードが駆け込んできた。


「プランテ! ここにいたのか!」

「フォードさん。どうしたんですかその恰好」


「走行中にトラクターが横転して、一緒に乗っていた魔術師もろとも畑の中に投げ出されたんだ」

「なんでそんなことに。鉛蓄電池を外したことで軽量化してパワーも上がったはずでは?」


「プランテ! すまん。俺が間違っていた! 鉛蓄電池を外して魔術師だけで発電すると、電動機の出力が安定しなくて走行時に激しく振動したんだ」

「そんなことが……」


「そのうえ床下の鉛蓄電池を外したことで重心が上がったのも悪かった。鉛蓄電池を載せている時にはなんともなかった溝に車輪を取られてあっさり横転でこのざまだ」

「じゃぁ、電池は重くてもいいんですか」


「ああ。あのトラクターの走行を安定させるには鉛蓄電池の重さも必要だったんだ! 俺にはお前と鉛蓄電池が必要なんだ! もう一度力を貸してくれ!」

「フォードさん!」

「プランテ!」


 ガシッ


 なにこの茶番。

 分かり合えたことはいいけど、技術の進歩の可能性がつながったこともよかったけど、無駄に暑苦しいこの男の友情劇場必要かな。

 こういう時にはだいたいあの人いるんだよなぁと、展示室の入口を見ると。


たっとい。かなりたっといわ……」


 涙と鼻血で顔がすごいことになっているメアリが居た。


 腐ったカオス空間で途方に暮れて立ち尽くす俺。


「医務室に行きましょう。横転に巻き込まれた魔術師が心配だわ」


 背後からジェット嬢の声。


「そうだな。メアリがこの状態だったら俺たちで何とかするしかない」

 入口で腐るメアリの横をそーっと抜けて、俺達は医務室に向かった。

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