表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/166

6-3 サイボーグ脚と常識テスト(2.0k)

 フォードとトラクターの設計概要について話し合った二日後の午前中。今日もフォードが食堂棟に大人数を連れ込んで何かいろいろやっている。

 そんな中、俺とジェット嬢は食堂北側にある砂場でジェット嬢の魔力推進脚の試運転を行っていた。


 砂場にジェット嬢が座って腰まで収まるぐらいの穴を掘りその中にシートを敷く。

 その中に、半ば埋まるような感じでジェット嬢を座らせて、魔力推進脚の噴射口を斜め上に向けた状態で噴射試験を行う。


 甲高い噴射音が周囲に響く。

 音の大小や音色が変わる。


 魔力噴進脚の噴射口だけ出る位置でスカートを押さえながら、様々な噴射パターンを試しているようだ。


 ちなみにジェット嬢はいつものメイド服。

 ただし、推進噴流がスカートに当たらないようにスカート部は膝丈ひざたけまで切り詰めたようだ。


 一通り今日試したいことは終わったらしくジェット嬢が噴射を止めた。


「これは全力運転は無理ね。身体がバラバラになるかも」


 恐ろしいことを言うジェット嬢に俺が応える。


「飛べればいいんだから全力運転にこだわる必要は無いだろう。それで、飛べるぐらいの推力は出せそうか?」

「二人分余裕で持ち上げるぐらいの推力は出せるわ。この後ちょっと飛んでみない?」


 そうか、その脚二本で二人分余裕で持ち上げるぐらいの推力が出るのか、それはすごいな。

 ちょっと表現が引っ掛かったので、念のために確認する。


「二人って、もしかして俺も一緒に飛ぶ前提か?」

「当たり前でしょう。私一人で飛んだら着陸ができないもの」


 確かにそうだ。

 ジェット嬢一人では飛ぶことはできても着陸はできない。

 仮に着陸できたとしても、地上での移動手段が無い。

 魔力推進脚では立つことも歩くこともできないのだ。


「そろそろ穴から出るわ。回れ右」


 言われたとおりにジェット嬢の座る穴の近くで背中を向ける。

 ジェット嬢は自力で俺の背中によじ登って、背中合わせになりおんぶ紐的ハーネスの金具を固定した。


 この背中合わせスタイルで俺も一緒に飛ぶのか。

 確かにこれなら着陸は問題ない。このマッチョ脚力があれば、不整地だろうと、多少無理な条件だろうとソフトに着陸できる。


 だが、離陸と飛行はどうだろうか。

 推力が足りるとしても、なんかこう、この配置でうまく飛べる気がしない。魔法で飛ぶ研究をしていたウィルバーにでもちょっと相談してみるか。


 そんなことを考えながら掘った穴の前にひざまずいてシートを回収していると、背後から声をかけられた。


「ごめんください。サロンフランクフルトの食堂棟はこちらでしょうか」


 シートをたたみながら背後の男に応える。


「ああそうだ。案内するからちょっと待ってくれ」


 背後から声をかけた男の足音が近寄ってくる気配がする。

 まぁちょっと待ってくれやと思ったときに、後ろからジェット嬢の怒りのこもった声。


「仰角5、撃ち方用意!」


 とっさに膝に手をついて衝撃に備える。

 次の瞬間。


 俺の背中に加わる衝撃と共に、かわいそうな来客が魔力推進脚の推進噴流改め【二連装ジェット砲】の零距離射撃で吹っ飛ばされた音がした。


 かわいそうな気もするが、コレで撃たれる奴は自業自得。

 歴史の必然なのだ。


 到着早々に吹っ飛ばされて砂まみれ傷だらけにされた気の毒な来客を食堂に案内し、入口近くのカウンター席の椅子に座らせる。

 とりあえず来客用コーヒーを淹れた。

 わりとイケメンな青年だ。


「ありがとうございます。私はプランテと申します。こちらで技術の勉強をさせていただくために、ボルタ領から来ました」


 自己紹介する青年に対して、俺の背中でジェット嬢が叫ぶ。


「技術よりも常識学んで! 常識! 初対面の女性のスカートをいきなり無言でめくるってアンタどういう常識持ってるのよ!」

「申し訳ありません! まさか人間だとは思いませんでした」


「なっ! ここまで失礼な奴は初めてよ! 人を持ち上げて重いと言ったり、顔見ていきなり逃げる奴はいたけど! それより上行ってるわ! 反省しなさい! まず反省!」


 背中でジタバタと動きながらジェット嬢が怒りを吐き出す。

 そのセリフの端々にズキリズキリと刺さるものを感じながら40代オッサンかつ常識人である俺はフォローを欠かさない。


「仮にでかい人形だと思ったとしても、それのスカートをいきなりめくるのは頭がおかしいぞ。まず反省しろ」

「でかいって何よ! でかいとか失礼よ!」


 ジェット嬢がなんかちょっとズレたところで怒りだした。


「人間にしては小さいにしても、人形だとしたらでかいだろう。それともこの世界の人形は等身大が普通なのか?」

「それもそうね」


 落ち着いたらしい。


 そして、背中合わせで会話する俺たちを見てプランテが口を開く。


「その件については大変申し訳ないと思うのですが、その、お二方の姿も、なんかこう常識からかけ離れているような……」

「「まず反省しろっつってんだろうが!」」


 俺とジェット嬢の叫びが同期した。これだから最近の若いもんは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ