6-2 フォードとオリバーとトラクター(1.7k)
食堂内に開設された簡易電動機工場にて初の組み立てが行われた翌日の午前中。
昨日の組み立てメンバーが再度集結する中、組み立てが上手くいかなかった原因究明のためヘンリー卿もやってきた。
現在、食堂内でヘンリー卿と昨日の二十一名にジェット嬢も加わり、不調電動機分解原因究明祭りが開催されている。
ジェット嬢はしばらく食堂から移動しないとのことだったので、暇になった俺はフォードと共に食堂棟北側の広場に来ていた。
そこには古い馬車があった。
解体予定の古い車両をフォードが買って持ち込んだらしい。
何に使うのかフォードに聞くと、この馬車に電動機を搭載して馬なしで走れるようにしたいとのこと。
いいね。この世界初の【電気自動車】。
魔力駆動電動機による反則技的な無限航続距離電気自動車。
俺も作りたい。
どうやって改造しようかとフォードと共に馬車の車輪や車軸部分の構造をよく観察する。
車輪はソリッドタイヤ。
サスペンションは板バネ式。
軸受けはオリハルコン製の滑り軸受とか。
そこで気になる単語が出てきたのでフォードに聞いてみる。
「オリハルコンってなんだ?」
「鉄じゃない金属材料さ。強度や耐熱性が鉄より強くて、摩擦が少ないんだ。その分値段も高いけど、鉄より頑丈なものが欲しいところに使われるんだ」
正体は何だろう。俺の前世の世界でパッと該当する材料が出てこない。
チタンやハステロイとかでもなさそうな。と思って聞いてみる。
「どこで作られてる? 作り方とか分かるか? 簡単に手に入るのか?」
「主要な産地はユグドラシル首都より南側の山の中にある村で、作り方は詳しくは知らないけど魔力で生成された金属らしい。材料の加工は難しいけど馬車や農業機械用の軸受け部品としてよく使われるから、幾つかのサイズがそのまま使える形の部品として流通しているんだ」
ファンタスティックな材料でできた部品が規格品として流通しているとは面白い。
軸受けとしての性能も気になるが、耐熱性が優れているというのも気になる。
どのぐらいの耐熱性があるのか、今後部品が手に入ることがあったらジェット嬢の火魔法で試してもらおう。
馬車の構造を確認しながらそんな話をしていると、オリバーが現れて俺の背中にジェット嬢が居ないことを確認してからフォードに対して説教を始めた。
収穫時期が近くて忙しいんだから農園の仕事しろと。
ちなみにオリバーはサロンフランクフルトの北側に広がる西方農園の責任者。
ここ数日フォードが電動機に夢中で農園の仕事をサボっていたのを気にしていたらしい。
うん。仕事サボるのはよくないよね。
電動機を馬車に乗せて走らせたいフォードと、農園の仕事を優先してほしいオリバー。口論になってはいるが、どう考えてもフォードが悪い。
でも、俺も電動機搭載馬車を作りたい。乗りたい。
いや、今の俺の身体では乗れないかもしれないが。
人生経験豊富な40代のオッサンは、こんな時に両者の相反する主張を丸く収めるソリューションを提案できる。
そうだ、トラクター、作ろう。
「トラクターってなんだ?」
フォードが当然の疑問。
紙とペンが欲しかったので、フォードとオリバーを連れて食堂棟に戻りトラクターがどういうものかを図で説明した。
俺はこの世界の文字が読み書きできないので図で説明するしかないのだが、こういう時は図のほうが便利だ。
トラクターというのは何かを牽引して走るための車。
荷車を引かせれば大量の荷物を一気に運べる。言うなれば馬や牛の代替だ。
前世の俺は農家ではなかったので運転したことはない。
だが、住んでいた場所が田畑の多い田舎町だったので、様々な種類のトラクターが農地で大活躍しているところを日常的に見ていた。
魔力駆動電動機を搭載したら運転手一人と魔術師一人の二人乗りで馬数頭分の仕事ができる。
燃料もいらない。農園内で大活躍できるはずだ。
トラクターの概要を説明するとオリバーは強い関心を示した。
フォードの説得もあり、収穫開始までにこのトラクターを少なくとも一台、農園での作業に投入するという条件でフォードは農園の仕事を免除された。
オリバーはここ数日フォードの分の作業までしていたので疲れていたようだ。
でも、フォードが楽しそうなので黙認していたらしい。
結構優しい上司なのかもしれない。
期待に応えてやらねばなるまい。
その後、俺とフォードは夕食後に解散するまで魔力駆動トラクターの設計概要について話し合った。




