6-1 お姉さんとおばちゃんの境界線(1.4k)
40代の開発職サラリーマンだった俺が異世界転生してから十六日目。雷魔法の応用で電動機の運転に成功後、電動機を運転可能な魔術師を養成するための即席魔法学校を開催して、卒業生二十九名と落第者一名を輩出した翌日。
朝食後の片付けも終わり、共に徹夜で語り合った落第者のウィルバーも帰った後。
ジェット嬢を背中に乗せて食堂棟入口の掃除をしていると、またフォードが大人数連れてやって来た。
即席魔法学校卒業生数名を含む二十一名。
荷馬車で大量の荷物も持ってきた。
「量産型電動機の部品ができたんだ。ここで組み立て作業をするから食堂貸してくれ」
フォードが張り切っている。
無論、俺はかまわんが、40代オッサンの常識に従い念押しする。
「管理人の許可は取ってきてくれよ」
勝手に変なことしてメアリに叱られるのは嫌だろう。
「わかってる。ヘンリー卿から許可は貰ってるから、スミスに一声かけてから作業を始めるよ」
そう言ってフォードは食堂棟から出て行った。
居住棟に居る管理人スミスのところに行ったのかな。
しばらくすると、荷馬車からの荷物の搬入が始まる。
許可が取れたようだ。
俺の前世世界で言うところの、宅急便の180サイズの木箱五箱が食堂の奥に運び込まれた。
同時に、食堂奥側半分のテーブルが配置換えされ簡易的な作業所になっていく。
今日は直流直巻仕様の電動機を十台組み立てるらしい。
持ち込んだ木箱から次々と部品が取り出され、巻線用の銅線に絶縁体の布を巻いたり、積層鉄心を組み立てたりと大人数で細かい作業が始まる。
即席電動機工場だ。
巻線用の裸銅線に絶縁用の布を巻くのが大変そうだ。
でも、この世界では合成樹脂とかは発明されていなさそうなので、当面はコレで行くしかないか。
そう考えると絶縁電線ってすばらしい発明だったんだなぁとか思った。
しばらくすると部品が入っていると思われる木箱が追加で二箱届き、オリバーも食材を持ってやってきた。
そんなことをしていると昼食の時間となる。
ジェット嬢を車いすに降ろして皆で昼食。
昨日の即席魔法学校に続き今日の昼食もにぎやかなものとなった。
午後の作業開始。
ジェット嬢も組み立てをやりたいというので、車いす搭乗で即席電動機工場の作業に加わる。
ジェット嬢は手先が器用だから大丈夫だろう。
その光景を見て、前世世界でよく行った会社の工場のことを思い出す。
パートの【お姉さん】達が細かい組み立てを黙々としていたあの工場。
そこで作業する【お姉さん】達。
年齢に関わらず呼び方には注意が必要だ。間違っても【おばちゃん】などと呼んではいけない。
工場の生産能力を脅かす重大案件につながる。
工場の管理監督者のこういう気配りセンスが、その工場の品質レベルと【文化レベル】のバロメータになるんだ。
…………
楽しい時間はあっという間に過ぎる。気が付けば夕方。
この日の組み立てでは予定通り十台が組みあがった。
しかし、その中には回転ブレが大きいものや、やたら発熱が大きいものなどがあり使用可能なものは四台だった。
フォードは十台使用可能にならなかったことが不満そうだったが、同じものを多数作るというのは言うほど簡単なことじゃない。
部品にだって個体差はあるし、組立作業だってある程度のばらつきは発生する。そういったものの影響を最小限にして、量産品の品質を確保するのが【量産設計】というものだ。
試作品と量産品が全く別物になることだってある。
そういうことをフォードに説明すると納得はしてくれたようで、翌日以降に原因究明と改良検討のために、うまく動かなかった電動機は一旦分解して再組立てするということで本日の作業は解散となった。




