5-2 滅殺破壊属性なんて聞いてない(2.4k)
雷魔法が使えない受講生達に、その理由を語る俺。
「音や窓から入る光は何度も見たので、雷というのは知っていますし、雲から地面に向けって光が走るものというのも知識として知ってはいるのですが、それが光る瞬間を直接見たことはありません」
受講生の一人が応える。
確かに、この辺雨少なそうだし、雨降ってるときに空をずっと見上げるようなこと普通はしないよね。40代のオッサンの俺だって自然の雷による稲妻をはっきり見たのは数えるほどだ。
「自然の雷の実物を見る機会は限られているが、せっかく魔術師がこんなに集まったんだ。今実技やっているメンバーの誰かに実演してもらって雷というものをよく見ておくといい。それだけで使えるようになるかもしれん」
「多少痛いのが我慢できるなら魔術師の作った雷に触れてみるのもイメージトレーニングになるとは思う。試す場合は雷魔法の制御の上手い奴に協力してもらって、倒れた場合に備えて複数人数で試してくれ」
電気を学ぶためにわざと感電する。
俺の前世の世界では考えられなかった訓練方法だが、イメージが重視される魔法の練習としてはアリだろう。安全第一が前提であるが。
ついでに他属性についても分る範囲で言及しておく。
「火魔法も同じだ。この中に火魔法使える奴はいくらかいるだろう、だが、おそらくそれぞれの火魔法は全く別物だ。実際の燃焼反応に伴う火炎はいろんな形態がある。黄色い炎、青白い炎、赤い炎、その中で、火魔法は術者が火だと思ったイメージに沿って発現する。魔法の発現について他人と見比べることはあんまりないと思うが、興味があれば講義が終わった後にでも別の場所で試してみてほしい。違いが分かるはずだ。でも、ここではするなよ。この建物は木造だからな。火気厳禁だ」
「ちなみに、俺の知っている某魔術師の火魔法は俺は火魔法じゃないと思ってる。【魔物】を燃やし尽くした灰を溶岩みたいに輝くまで加熱するような火があってたまるかと。でもその某魔術師にとっては、その【地獄の業火】のようなものが火のイメージなんだ。もしかしたら本当に【地獄出身】なのかもしれん」
受講生たちの顔が若干引きつっている。俺なんか悪いこと言ったかな。
「何が言いたいかというと火魔法も応用範囲が広い。フロギストンの熱エネルギー変換の一形態だから火ではなく単純な高温をイメージすれば鉄を溶かすとかもできると思う」
「鍛冶屋の職人が魔法で鉄を加熱しているのを見たことがあるのですが、これはそういうことだったんですね」
受講生の一人がまた有益な情報をくれた。
「たぶんそういうことだな。理論は理解していないんだろうけど、経験的にそういうことが可能というのを編み出したんだと思う。お前らにもできるぞ。安全第一で試してみてくれ」
そうやって、今考えている範囲のフロギストン理論の説明を一通り終えて講義全体の質疑応答に入った。
そこで受講生から興味深い質問が出た。
「この町で有名なある魔術師の話なんですが、その人が魔法を発動させるときに金色に光って見えることがあります。誰でも光るというわけではないのですが、特定の人が魔法を発動させたときに金色に光るというのはどういう理由なのでしょうか」
「それは俺にもよくわかっていない。だが、フロギストンの消費量が多い魔法を使った際に出るものと考えると、フロギストンの流束が高まったとき発光するんじゃないかという仮説を立ててはいる。ある魔術師っていうのは隣の部屋に居る【金色の滅殺破壊魔神】のことだろう。実際にやってもらって観察すれば何かわかるとも思うが」
「絶対にやめてください!」 グワッ
受講生からすごい勢いで止められた。
「そんなにやばいのか?」
俺の問いに対して、受講生の一人が遠い目をして語りだす。
「あの【金色の滅殺破壊魔神】はやばいなんてもんじゃないです。この近くに池があるのはご存じですか?」
「上空から見たから知ってる。確か裏山の中腹に一個と、食堂棟の東側に二個あるな。不自然に丸い形をしているから誰かが掘ったものかと思っていたんだが」
「アレはどれもあのバケモノが魔法で一瞬で作ったものです。裏山の中腹の池が出来た時に私は現場にいたのですが、本当に【地獄】のような光景でした」
あの池は魔法による爆発で出来たクレータに水がたまったものだったのか。
「あの規模のクレータを魔法で一瞬で作ったりしたら【金色の滅殺破壊魔神】なんて物騒な渾名がつくのもわかるな。現場にいたならその魔法属性に近いものを教えてくれ。火か? 風か?」
「一瞬のことだったのでよくわからなかったのですが、火とか風とか雷とかの普通の属性とは全く違うのは確かです」
「そうか、ならそれ自体が俺のフロギストン理論の裏付けにもなるな。フロギストンによる魔法は属性ありきのものではなくてもっと自由度が高い。それこそ、術者のイメージや技量次第でいろんな属性を新たに生み出せる可能性もある。お前らも頑張ればあの池を作った時の魔法属性を再現できるかもしれんぞ」
「それは全くできる気がしませんが、我々はあの魔法のことを【滅殺破壊魔法】と呼んでいるので属性に名前を付けるなら【滅殺破壊属性】でしょうか」
「いいネーミングセンスだ。【滅殺破壊魔法】。【滅殺破壊属性】。おイタをしたら【滅殺】よ!」
前世のテレビアニメで見た某ヒロインの決めポーズをマネして決め台詞を発動。
教室中が笑いに包まれた。
受講生からこういう反応引き出すのも教壇に立つ楽しみの一つだ。
そんな感じでほのぼのと講義をしていたら、ジェット嬢が実技訓練を指導している展示室のドアが開いて向こうの教室の受講生の一人が顔を出して叫ぶ。
「こちらの部屋まで声が全部聞こえています! なんかもう本当いろいろヤバいんでやめてください! お願いします!」
苦情が来てしまった。まぁそういうこともあるな。
そういえばと思い出す。
「お前ら明日、実技だよな」
受講生の恨みがましい視線が俺に集中する。
教壇に立ったときのつらい状況の一つだ。
「すまん」




