幕間 退役聖女の野望(3.9k)
【真・金色の滅殺破壊魔神】という物騒な異名を持ち、【世界征服】を達成している私だが、本来目指していたところは未達成であった。
あのアホと出会ってからちょうど二年目の今日。
あのアホと【魔王城】で二人で一日過ごしたら無性に【喰いたく】なったというのもあり、本来目指していた【いい女】の【答え】を手に入れるべくメアリとマリアから教わった【表現が間違っている正しい男の喰い方】を実践した。
あのアホを【回復魔法】の【波動】で寝させた状態での実践。
実践自体がドウだったかは【滅殺案件@ワタクシ】だけど、あのアホは寝たままでもいい仕事をした。
あのアホの【高◎性能】は私に【答え】を射ち込んだ。
現在、あのアホの上。座る位置はいつもより後ろ。
やたら納まりが良い場所にて、あのアホの【高◎性能】を私の中に捕獲しつつ、射ち込まれた【答え】の意味を考えている。
【いい女の答えは母親と覚えたり】
私は、私にそれができると考えたことは無かった。
だけど【答え】を射ち込まれた今、なぜそれを考えなかったのか不思議にすら思える。
私にはそれができて当たり前だったのだ。
【魔王討伐計画】の作戦概要が発表された会議にて、初対面で殴りかかって拳を弾かれた時に感じた衝動。
あの時はそれが何なのか分からなかったが、今なら分かる。
私は、あの最強の肉体と、私の滅殺破壊な魔力を掛け合わせた【最強で不滅の生命】を産み出したい。
そう思ったのだ。
衝動の意味を理解しないままでも、私はあの最強の肉体を手に入れるためにありとあらゆる手段を使った。どんな酷い扱いにも耐えた。
でも、あと少しで手に入るというところで【お預け】になり泣いた。
あれから二年。
私はついに手に入れた。
あの時欲しかったものは既に私の中にある。
これで、【最強の生命】である【魔王子】を産み出せる。
【魔王】を継ぐ者。
【世代交代】をする最強の【魔王】。
長年求めていた【答え】。
しかし、今の私には物足りない。
かつて、私達は先代の【魔王】を倒した。
強かった先代【魔王】の亡骸を焼き払ったのは私だ。
【魔王討伐計画】を通じて、最強の【魔王】ですら、討伐の対象になったら倒されてしまうことを私は知った。
そして、【戦争】を通じて人間の強さを知った。
戦う理由、戦う意思を持った人間の集団は強い。
火力、戦力が不利であったとしても、知恵の力、技術の力、高い練度と強靭な精神力で、多数の犠牲をものともせずに敵を打ち倒してしまう。
私が産み出す【魔王子】も、少しでも何かを間違えて、討伐の対象となったならば人間達の力で打ち倒されてしまう。
それどころか、私も危うく討伐の対象になるところだった。
人間同士の戦場で一度でも戦力として前線に出てしまったら、世界のバランスを崩すデタラメ要素として討伐の対象となってしまう。
【最強】では【不滅】に届かない。
【最強】だけではこの世界で生き残ることすら難しい。
それを、私は知ってしまった。
私の本当の望み。
【不滅】に届く何かが欲しい。
だから、射ち込まれた【答え】だけでは物足りない。
マリアがこっそり教えてくれた【表現が間違っている正しい男の喰い方】の裏技がある。
物足りなければ【強化改造】をすればいいと。
私は私を満たす【答え】が欲しい。
あのアホを繋げた形で【強化の波動】を生成。
捕獲している【高◎性能】に全力照射。
『ギニャァァァァァァアァァァァァァァアァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
………………
遠くから帰ってきたような感覚で目が覚めた。
あのアホの隣に仰向けに寝かされている。
二人とも服を着せられている。
私はいつぞやの患者着。あのアホは寝間着だ。
ベッドの上は綺麗に掃除されている。
窓の外は明るい。
時間的には昼のようだ。
いつも通り脚は無い。
そして今は腰から下の感覚も無い。
手は動く。
身体の感覚が何処まであるのか手で探っていると、私の胸の上に紙が置いてあることに気付いた。それを手に取り目の前に持ってくる。
なにか文字が書いてある。
【愛はプロトンと覚えたり】
マリアが助けてくれたようだ。あとでお礼を言おう。患者着はマリアが着せてくれたのだろうが、いつものおんぶ紐的ハーネスを着用していないのでちょっと心細い。
【強化の波動】で【高◎性能】は【超☆兵器】に進化。
【魂】もろとも串刺しで私は臨死を初体験。
捕獲されていたのは私の方だ。
自業自得であるが、本当に酷い目に遭った。
【魔物】に何度も瀕死の重傷を負わされたり、メアリにお尻を叩かれたり、あのアホに【地獄】に突き落とされたりと、酷い目に遭わされるのには慣れていたが、さっきのはそれを超越している。
寝たままで私を【臨死】させるあのアホは恐ろしい【魔王】だ。
でも、あのアホはやはりいい仕事をした。
あのアホの【超☆兵器】は私に【野望】を射ち込んだ。
その【野望】は、物足りなかった私を満たしてくれた。
【未来永劫の子孫繁栄】
ここに【村】を作る。
私の子孫が生きる【村】だ。
【国】なんて大層なものでなくていい。
そして、この【村】をこの世界の二つの国が未来永劫守り続ける。
それをこの世界の枠組みにする。
私は【村人】を産み出す。
あのアホにすら【でかい】と言われた私だ。あのアホさえ居ればたくさん産める。
今の私には両脚は無い。
しかし、【世界征服】を達成している。両脚以外なら何でもある。
育児だってできるはずだ。
私が産み出した【村人】の次も考える。
兄弟同士の結婚は良くない。
マリアなら喜びそうだが、それは良くない。
真っ当な形で次世代の【村人】が産まれ続けるように、この【村】にはこの世界の【最強の肉体】と【最高の頭脳】を集めよう。
そして、ここに集めた最高の人材と私の子孫で【世代交代】しながらこの世界全体の安定と発展を支え続けよう。
世界全体の幸せに貢献すれば、討伐されることもないだろう。
いや、その考えが甘いことも今の私はよく知っている。
世界が平和になっても、人々が平穏な日々が続くことを望んでも、【手段のためには目的を選ばないどうしようもない人間】は居るものだ。こういう厄介な連中からどうやって私の子孫を守るべきか。
あのアホに出会って以来、そんな【どうしようもない連中】をたくさん見てきた。
ああいう【どうしようもない連中】は、いくら殴ったり焼いたり薙ぎ払ったり吹き飛ばしたりしても蒸して沸いて出てくるものだ。
そして、そんな連中への対処法も私は既に知っている。
二つの国に【戦争】をさせよう。
両国国民の生活の邪魔にならない程度に国境沿いに【地獄の戦場】を常設して、【どうしようもない連中】をそこに隔離しよう。
安定した世界で混乱を望むようなアホ共に、平和な世界に戦う意思を持ち込むようなアホ共に、私の子孫の安全を脅かすようなアホ共に、望み通り【地獄】を体験させよう。
気が向いたら私も空から【マジックショー】と【一発芸】を披露しに行こう。
披露していない演目は沢山あるのだ。
そして、この【マジックショー】も子供達に伝えていこう。
そうだ。【どうしようもない連中】の中には、【臨死】させるといい仕事をするようになるアホも居るんだ。
そういうアホを見つけたら【魔王城】に連れ帰ろう。
あのアホにぶつけて【クレイジーエンジニア】に加えよう。役に立つはずだ。
この世界の【最強の肉体】と【最高の頭脳】が集い、未来永劫この世界の安定を支えるこの【村】は、この世界の【聖地】としよう。
そして私は【聖地】の始祖となる。
【聖女(始祖)】だ。
私が目指した【いい女】の究極形だ。
それを実現し、それを守り続けるためにこの世界がある。
そのようにこの世界の枠組みを作り変えてしまおう。
神が許した。
そんな気がする。
むしろ私はそれをしなくてはいけない。
そんな気もする。
私は探していた【答え】を見つけた。
隣で寝ているあのアホが起きたら、それを実現するための行動を始めよう。
とりあえず、紙とペンが欲しい。
いつもはいろいろ持っているが、今着ている患者着のポケットは空っぽだ。そう思って手を動かしたら、手に持っていたマリアからの手紙の裏側に何か書いてあることに気付いた。
・レッド 5.1
・ブルー 4.2
・イエロー 11.06
・ブラック 6.2 11.55
・グリーン 4.7
・あの御方 0.00(推測)
・イェーガ王 14.00
マリアも探し物を見つけたみたいだ。
わりと近くにあったみたいだ。
よかった。よかった。
私はその手紙を火魔法で燃やした。




