4-2 フォード青年はセクハラの罪で蹴り飛ばされる(2.6k)
サロンフランクフルト食堂棟バリアフリー化工事の翌日。
ジェット嬢の魔力推進脚の部品が完成したということで、早速手術となった。
手術後はしばらく移動ができなくなるということで、サロンフランクフルト医務室の手術台にて施術することに。
魔力推進脚の装着。
非人道的な改造人間手術。
だけど、本人が望んでいるならもう何も言うまい。
俺の【失言】のせいで脚を失ったんだ。
せめて、俺が脚代わりになってやる。
そんな気持ちでドクターゴダード、メアリ、義足技師と嬉しそうに手術室に入っていくジェット嬢を見送った後、食堂のテーブルで一人で何杯もコーヒーを飲んだ。
メアリがいないので、自分で淹れた。
手術は丸一かかった。
ドクターゴダードとメアリが疲れた様子で出てきたのが日没後。
手術は無事成功したが、手術直後のジェット嬢の容態の変化に備えてドクターゴダードとメアリはその晩医務室に宿泊した。
◇◇
俺達がサロンフランクフルトに到着してから八日目。そして、ジェット嬢の非人道的改造人間手術を行ってから二日後。俺達の日常生活は安定しつつあった。
ジェット嬢は二階の四号室に入居し、俺は一階の機械室に寝泊まりするようになった。
規格外のビッグマッチョ体型であるが故に普通のベットで寝ることができない俺にとっては、機械室の床に毛布を敷いて寝たほうが快適だったのだ。
単に機械室の雰囲気が気に入ったというのもある。
昨日仕立て屋より届いた新型のおんぶ紐的ハーネスも俺達の日常生活を改善した。
お互いがハーネスを着用してさえいれば自由に脱着ができるので、ジェット嬢はその時その時で俺の背中に張り付くか車いすに乗るかを自由に選べるようになった。
日常生活が安定してきて暇を持て余すようになった俺達は、日中はサロンフランクフルト食堂棟にて雑用係を行うようになっていた。
朝食後、片付けが終わって時間が出来たので食堂でメアリと掃除をしていたら入口ドアが開いてベルが鳴った。
メイド服着用車いす搭乗のジェット嬢と俺が来客を出迎えのため入口に向かう。
入口ドアから入ってきたのは、金髪の男と、茶髪で小柄な青年。
あろうことか、ジェット嬢を見つけると二人とも何も言わずに全力で逃走した。
これはジェット嬢怒るパターンだな。と思ったら案の定怒った。
「茶髪のほうだけ捕まえて連れてきて!」
ジェット嬢の指示を受け、ビッグマッチョダッシュで追撃。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
恐怖の叫びを上げながら逃げる二人。
俺みたいのに追いかけられたら怖いのは分かる。
だが、逃がすわけにはいかんのだ。
指示通り茶髪の方だけを捕獲。
金髪は逃げた。薄情だな。
捕獲した茶髪を脇にかかえて連行中。
その茶髪が文句を言い出す。
「逃げたってことはそういうことなんだよ。分かれよ!」
「追いかけて捕まえたということは、そういうことなんだ。すまん。分かってくれ」
「「はぁ~」」
ため息で意気投合。
なんとなくコイツとは仲良くなれそうな気がした。
サロンフランクフルト食堂棟玄関にて、車いすの上で腕を組んでいるジェット嬢。
その右後ろの執事的なポジションに立つ俺。
その前に立つのは先程捕獲した茶髪の青年。
ジェット嬢の知り合いで名前はフォードというそうだ。
「顔を見ていきなり逃げられるとすごい腹が立つのよ」
ジェット嬢のごもっともな一言。
俺は一瞬ドキリとしたが、今回怒られているのは俺じゃない。
「お久しぶりであります。お会いできて光栄であります」
緊張した面持ちでシャキッとしてビシッと応えるフォード。
その後、ジェット嬢の脚のあたりを見てフラッと近寄ってきた。
「イヨ、その足どうなってるんだ?」
そう言って、ジェット嬢のスカートをめくりあげた。
衝撃波と共にフォードが吹っ飛んだ。
ジェット嬢の魔力推進脚の推進噴流を至近距離で受けて、ノーバウンドで入口ドアに背中から叩きつけられそのまま床に落ちた。
「いきなり何すんのよ!」
ジェット嬢が顔を真っ赤にしてスカートを押さえて叫ぶ。
わかるよフォード。脚がどうなってるのか気になるのは分かる。
でも、いきなり女性のスカートめくりあげるとかダメ行動だから。
俺もやったけど、ダメ行動だから。
ちなみにこの時ジェット嬢の車いすが推進噴流の反動で後ろに跳ばなかったのは、とっさに俺が車いすを抑えていたからだ。
良くも悪くも息が合ってきた。
ガラン ガラン ガラン
俺達のいる位置から右側の食堂から金属バケツが落ちた音がした。
ジェット嬢がとっさに放った推進噴流による被害は、フォードが飛ばされただけでは留まらなかった。
食堂棟入口側に向けて発生させた推進噴流は爆風となり側面にも広がり、食堂テーブルのテーブルクロスを軒並み吹き飛ばしたうえに、雑巾を絞ったバケツの中身を掃除中だったメアリの全身にぶっかけるという大惨事を引き起こしていた。
頭から汚水でずぶ濡れになったメアリが、俺達に目線で問う。
誰?
とっさに俺達は入口でのびているフォードを指差す。
本当に息が合ってきた。
メアリは食堂テーブルの椅子を一脚持ってスーッとフォードに近づく。
まさか、床でのびているフォードを椅子で殴るのか? だったらさすがに止めないと死者が出るぞと、冷や汗を流しながら成り行きを見守る。
メアリはフォードの近くに椅子を置くと、おもむろにフォードを抱き上げる。
抱き上げられて意識を取り戻したフォードはすがるような目線でメアリを見つめる。
フォードよ。たぶんお前が期待しているような展開じゃないぞ。
メアリは椅子に座り、抱き上げたフォードを自分の膝の上にうつ伏せに置いた。
そして。
スパーン スパーン
「ギャァァァァァァァァ」
尻叩きの刑が発動。
スパーン スパーン スパーン
「片付け! 掃除! 弁償!!」
「ハイ! 直ちに! 直ちに! ギャァァァァァァァ」
その光景をただ見守るジェット嬢と俺。
俺は重要なことを口にした。
「魔力推進脚は建屋内では使用禁止だな」
「そうね」
ジェット嬢も異論は無いらしい。
その後、メアリは着替えるために隣接する居住棟に一旦帰った。
掃除と片付けを命じられたフォードは涙目で滅茶苦茶になった食堂の掃除を行った
もちろん俺達も手伝った。
元々、フォード達が来る前まで掃除していたからな。
掃除と片付けを終えてしばらくしたら、さっき逃げた金髪が荷物を持って戻ってきた。荷物の中身は食材らしい。
彼はオリバーというそうで、フォードと共にこの近くの西方農園という農園の運営をしているとか。
戻ってくるなら、なぜ逃げた。
そうこうしているうちに昼になる。
オリバーが持ち込んだ食材も活用してメアリが人数分調理し、オリバーとフォードが居る分いつもよりちょっとにぎやかな昼食となった。




