臨死戦隊★ゴエイジャー 護衛達成編(4.9k)
ソド公武装蜂起の報を受け、一日かけて準備をしたのちエスタンシア帝国北部鉱山地帯まで飛行した【双発葉巻号】機内。反乱軍司令部上空にて【魔王】と【魔王妃】を投下した後、カラフルな男達五人は楽しみながらも状況が動くのを待っていた。
ジャジャジャジャーン
「一応リーダー 操縦室の指令席 臨死レッド!」
「機長は俺だが 皆で乗ったの初めてだ 臨死ブルー!」
「メカ担当兼副操縦士 二人で操縦安全増し 臨死イエロー!」
「特務あり 機首の窓にて写真機かまえる 臨死ブラック!」
「揺れる最後尾で飛行機酔い 臨死グリーン オェェェェェ」
「こらぁぁぁぁぁぁぁ!」
「何してくれてんねん! 機内よごされへんで! イエロー、投下扉だ!」
「機長! やめてください機長! 普通の人間はここから落ちたら死にます!」
「違う! 換気や。新鮮な空気浴びろ! そして医者だ! 医者呼べ!」
「その医者が酔って吐いてます!」
「面目ない。【医師道精神】でなんとか耐えようとしたが、揺れが酷くて……」
「辛いなら先に言わんかい。最後尾のそこは縦揺れが大きいから一番酔いやすいねん。レッドの隣の補助席に移りなはれ。多少はマシになるやろ」
「すまない機長」
グリーンはレッドの座る指令席の後ろの補助席に移動。
引き続き、鉱山地区上空の旋回飛行を続ける。
「機長。ちょっと宿題あるので操縦代わってもらっていいですか?」
「ええけど、宿題って何やイエロー」
「機内で時間がある時に、メンバー内で【リバーサイドシティ】に関する情報をまとめるようにと【魔王妃】様から頼まれています。主にブラックを当てにしているそうですが、ブラック何か知っていますか?」
「十六年前に【魔物】の襲撃で壊滅したとされるあの街か。確かに【緘口令】が出されている情報がいくつかある。あの娘が聞き出せと言うなら喋っていいってことだろう」
写真機を搭載した機首の席でブラックが応える。
「ウプッ。なるほど……他に聞かれる心配の無い飛行中の機内は秘密会議にも適していると。私もちょっと気になっていたことがあるんだ」
操縦室内の補助座席に座ったグリーンも応える。
「禁書庫の資料にも記録が無いあたり、意図的に【隠蔽】されている何かがあると【魔王妃】様は気にされています。ブラックからお願いします」
「確証は無いが、あの街で【魔物】を作ってたんじゃないかと思っている」
「な・なんだってー!!」
ブラックが語る衝撃の内容に、機内は騒然となる。
「あの街が【魔物】に襲われて壊滅した時期と、国内全域で【魔物】の被害が激増した時期が重なる。あの事件の直後に私は前線に転属になったから事件以前の現地の様子についてはよく知らないが、近隣住人によると確かに【魔物】は増えたらしい。だが、その件については【緘口令】が出されていて、先輩方から事件前後の様子の変化については聞いたことは無い」
「【魔物】は【魔王】が【魔王城】で作っているっていうのが常識でしたが、実際は違っていたのでしょうか?」
「【魔王】も【魔物】は作っていたんだろう。あの事件以降の【魔物】の分布中心は【魔王城】周辺と【リバーサイドシティ跡地】の二か所に分散していた。それが読み取れる記録資料は後から処分されたがな」
「では、リバーサイドシティは【魔王】の作った【魔物】に襲われたのではなく、都市内で作った【魔物】に滅ぼされた可能性があると
「そう推測はできるが、確証は無い。だが、【77年ユグドラシル東部スタンビート事件】で遭遇した【魔物】の数が桁違いに多かったことを考えると、あの街に【魔物】の発生源となる何かがあったと考えたほうが自然だとは思っている」
「あの街の跡地の再開発工事が進んでいると聞いていますが、一度調査に入ったほうがよさそうですね」
「それは無駄だな。あの娘が焼き払った直後に私は調査に入ったが、完全に焼け野原だった。どうやって焼いたのか分からんが、市内全域地下室まで完全に焼失していてあちこち溶岩になっていたぐらいだ」
「では、その時の調査記録資料とかは残ってないでしょうか」
「無いな。禁書庫にあるものと思っていたが、多分処分されたんだろう。どちらにしろ大したことは書いてないがな。まとまりが無くてすまないが、私の情報は以上だ」
「ありがとうございました」
「イエロー、私からも、ちょっと気になっていた情報があるがいいか」
「グリーン。お願いします」
「【極秘事項】だが、先代の王妃様はあの場所で亡くなってる」
「な・なんだってー!!」
今度はグリーンが語る衝撃の内容に、機内は再び騒然となる。
「公式には王宮での病死だったはずですが、あの街で【魔物】に襲われたのでしょうか?」
「あいまいな情報ですまないがイエロー。本当の死因は分からない。でも、リバーサイドシティが壊滅した時の犠牲者名簿が王宮病院に残っていてそこに記録があった。そして、王宮病院には先代王妃様の入院の記録は無いんだ」
「イエロー。それを聞いてちょっと気付いたことがあるがいいか」
「お願いします。レッド」
「これは例の【手当】が絡みそうで話しにくいが、第一王子の件だ。知っての通り、あの御方は【魔物】と【魔王】討伐に執念を燃やしていた」
「そうでしたね。でも、それは単に仕事熱心なだけかと思っていましたが」
「私は【王宮騎士団団長】として第一王子に随伴することが多かったから気になっていたんだが、あの御方は【魔物】や【魔王】を激しく憎悪していた。まるで親の仇のように」
「な・な・なんだってー!!」
レッドが語る驚異の内容に、機内は再度騒然となる。
「【魔物】と【魔王】を母の敵と思って、【魔王討伐計画】を仇討ちの思いで指揮していたということでしょうか」
「【魔王討伐計画】の中では、危険な状況に陥っても無理して計画を強行したことが何度もあった。らしくないなと思ってはいたが、そういう想いがあったなら合点がいく」
「確かにこれは例の【手当】が絡みそうな案件ですね。この推測については報告を控えようと思いますが皆さんそれで良いでしょうか」
「異議なーし!」
イエローの提案に満場一致で同意する男達。
『ぶちっ☆』
ドガガガガガガーン ドガガガガガガーン
脳内に響いた変な音に続いて、地上から響く轟音。
状況は読めないが、男達は誰の仕業かすぐに分かった。
ドガガガガガガーン
「機首下方監視窓より確認。峠道を封鎖していたエスタンシア帝国の陸戦部隊二部隊が壊滅……」
「……やっちゃったぁぁぁー!」
「やっちゃったけど、【魔王妃】様からこうなっちゃった場合の任務の指示が出ている」
リーダのレッドが全員に呼びかけながら、ポケットから封筒を取り出して開封する。
「えー、物騒路線になっちゃった場合は航空写真を頼むと。撮影個所はブラックの指示に従えと。ブラック何か聞いてるか?」
「聞いてる。だが、撮影目標はメンバーには秘密と指示を受けているから、私の指示で機を動かしてくれるか。なるべく低速で」
「了解した。機長。頼む」
ギャリギャリギャリギャリドーン
地上から轟音が響く。
機は水平姿勢で高揚力装置を展開し、機首で写真機を構えるブラックの指示に従い水平飛行。航空写真撮影を行う。
…………
「撮影終了だ」
写真機を操作していたブラックが任務完了宣言。
「お疲れ様」
残り四人がそれに応える。
『ふぁいとー・めっさーつ!』
よく通る声で禁断の掛け声が響く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
震えあがる男五人。
ガタガタガタガタガタ
【双発葉巻号】の電動機も震える。
「機長! 魔力電池が動作不良です! 出力安定しません!」
副操縦士のイエローが叫ぶ。
「【魔王妃】様が大技使ったから空間中のフロギストン濃度が不安定になってんねん。一旦電動機止めろ!」
「そんな! プロペラ止めたら落ちますよ!」
「飛行機はそんなすぐに落ちへん! 免許取るとき教えたやろ! それより舵しっかり持ってろ!」
東の地平線から巨大な火球が上がり、北部平野の地表が業火に包まれる。
そして、爆発の衝撃波が東の空から迫る。
「……【護衛】行くぞ」
指令席に座るリーダのレッドがつぶやく。
「【魔王妃】様は、司令部上空で単独飛行中だ。左下方。間に合う」
機首の窓から護衛対象の位置を確認してブラックが報告。
「【護衛】対象視認。推力全開。左旋回急降下。総員何かに掴まれ!」
電動機を再始動し、機体を左に傾けて急降下する【双発葉巻号】。
「機長! 正気ですか! 衝撃波まともに受けたら空中分解しますよ! 空気の薄い上空に退避しないと!」
「大丈夫や! こんなこともあろうかと、この機の下面はオリハルコン薄板の装甲板で強化しとる。機体は大破するかもしれんが、盾にはなれる」
「我々は何度も【魔王妃】様に守られてきた! そのおかげで生き延びたと言っても過言ではない。その恩に報いるため、今こそ身を挺してあの衝撃波から【魔王妃】様を守るときだ!」
リーダのレッドがメンバーに呼びかける。
「臨死戦隊★ゴエイジャー!」
心を一つにして男達は叫び、決死の覚悟で衝撃波目掛けて急降下。
『ちょっと! アンタ達何やってるの!』
「【魔王妃】様! この機を盾にして衝撃波を避けてください!」
『仕事が違うでしょうが! 私はこのぐらい大丈夫よ!』
「えっ!?」
『あー! もう! ブルー! 機首を衝撃波に向けて!』
「ヨーソロー! 【尻】を落として機首上げ東向き水平姿勢!」
『あっ! しまった間違えた!』
ドガァァァァァァァァァン
機体前方で爆発が発生し衝撃波を分散。同時に視界が真っ暗になる。
「うわっ! 窓に煤か! 前が見えへん!」
『窓掃除するからちょっと前見ないで!』
ザバァァァァァァァ
「機長! 操縦室窓だけ煤取れました!」
「うわっ! すごいな何したんやろ。って主翼も電動機も真っ黒やないか!」
「一瞬見えましたが、【魔王妃】様があの脚から放水したような」
『見るなって言ったでしょうが!』
「ごめんなさい!!」
『だいたい、何やってるのよ! 仕事が違うでしょうが!』
「我々は、【護衛】を!」
『アンタ達の仕事は、私が降りる場所の【護衛】よ! 最初に説明したでしょ!』
「えっ?」
『私は飛んでいる間は何があっても一人で身を守れるけど、一人じゃ着陸ができないし、着陸してしまうと無防備なの。だから降りる場所と帰る場所に【護衛】が必要なのよ』
「……」
『戦闘よりも補給と休養が重要って、攻撃力よりも移動力や輸送力が大事って、兵站軽視で戦えば自滅するってのはアンタ達だってよく分かってるでしょ』
「…………」
『アンタ達は私にとって重要な輸送力と移動力なの。自滅覚悟で盾になって、本当に自滅されたら私は帰れないのよ。仕事をちゃんとして頂戴』
「………………」
『仕事を間違えた罰として、帰ったら【始末書】よ。あと、機体の掃除』
ショボーン……
『でも、気持ちは嬉しかったわ。ありがと』
シャキィィィィーン!
『私は一旦司令部に降りるわ。もうすぐこっちは片付くから、【双発葉巻号】はもうしばらく上空待機よ。帰路の【護衛】期待してるわ』
「ゴエイジャー!」
男達は心一つに次の仕事に思いを馳せた。
俺達ゴエイジャー。
何の【護衛】か分からなかったが、ちゃんと【護衛】はできていた。
今日も【護衛】、明日も【護衛】。
必要とされた俺達はこれからもちゃんと仕事する。
次の仕事は【始末書】だ。
思いのたけを書き記し、超大作を執筆だ。
赤く燃える北部平野と黒く染まる空は、彼等の眼中には入らなかった。




