臨死戦隊★ゴエイジャー 増員編 臨死グレーと戦場の女神(5.6k)
俺は、元・エスタンシア帝国軍【最終兵器】二号車銃撃手。今はユグドラシル王国の【魔王城】所属、【臨死戦隊★ゴエイジャー】の【臨死グレー】ということになっている。
本名はスネークで、最近は【死神】と呼ばれていたが、両国間での身分証明書となる【パスポート】の名前欄をあの地獄娘に【臨死グレー】に書き換えられてしまったので、今後は【グレー】を名乗ろうと思う。
まぁ、無名兵士の名前の扱いなんてそんなもんだ。
【エスタンシア戦友会】メンバーとして、戦争の火種を駆逐する活動をしていたところ、戦場で見た【地獄】の空気を纏う地獄娘が出てきたので反射的に銃撃。
瞬時に焼かれて一日臨死。そのままユグドラシル王国に【拉致】された。
まぁ、【誤射】の報いなんてそんなもんだ。
俺は軍に入隊する前は空を飛ぶ兵器の研究をしていた。【魔物】からヴァルハラ平野を取り戻すために立案された【空中戦艦】計画だ。
エスタンシア工業技術研究所のオービル博士を中心とした国家プロジェクトで、【揚力】を発生させる【翼】を持った機体に【内燃機関】を搭載して飛行。それに【機関銃】を搭載して空から【魔物】を攻撃するという物だった。
俺の所属するチームの担当箇所は【機関銃】。その評価試験のため、俺は銃撃手としての訓練を受けていた。
開発は難航した。
特に【内燃機関】が問題だった。
車両用に開発された内燃機関では重すぎたので、鉱油から蒸留分離した引火性の高い油を燃料とする火花点火式の新型内燃機関を開発した。
確かに軽量で高出力ではあったが、これの燃料が危険だった。
木製または軽金属材料製の機体に引火性の強い燃料を大量に搭載し、その上で【内燃機関】を運転する。
案の定、燃料への引火による火災事故が多発。
開発チームからも事故による死傷者が出て開発は遅延が続いた。
オービル博士はそれでも【空中戦艦】の開発に執念を燃やし続け、食料危機深刻化、魔王討伐成功、陸戦兵器による【魔物】残党の処分の進行と、状況が変わっても開発は続いた。
陸戦兵器による【魔物】残党の処分が完了した頃に、【空中戦艦】を超える【最終兵器】の設計構想が立案された。
それは、厚い鋼鉄製の装甲を持つ車体の両脇に【内燃機関】の動力で駆動する無限軌道を配置し、【大砲】と【機関銃】を走行中にも射撃可能な形で搭載した、機動力と防御力と火力を高次元で融合した究極の兵器だった。
開発中の【空中戦艦】よりも、陸戦兵器として明らかに優れていた。
しかし、オービル博士は【空中戦艦】の完成に固執。
その後に行われた試作機の地上滑走試験にて燃料火災事故が発生し、多くの研究員と共に死亡。この火災事故により【空中戦艦】計画は中止となった。
まぁ、夢追い人の末路なんてこんなもんだ。
その後俺は、他の【空中戦艦】開発部隊と共に【最終兵器】開発部隊に転属。そこでも銃撃手担当ということで、銃の評価と銃撃訓練を続けた。
【空中戦艦】計画中止に伴い軽金属材料の用途が無くなったことで、量産時の部品製造を担当するために材料を在庫していた町工場が多数倒産の危機に陥ったそうだが、何処かの金属材料商社がその軽金属材料を高値で買い集めたことで町工場の倒産は防がれていたらしい。
短期間で【最終兵器】を完成させ実戦配備ができたのは、優れた加工技術を持つ多数の町工場が倒産せずに操業を続けることができていたおかげだ。
まぁ、突貫工事での新兵器開発成功の要因なんてこんなもんだ。
【魔物】残党の処分には成功したが、国内の食糧危機は深刻化。国民は飢餓状態に陥っていたが、ユグドラシル王国はエスタンシア帝国からの呼びかけを無視し続けた。
そんな中で、【最終兵器】の大量生産を目論む【エスタンシア重工業連合会】の後押しもあり、エスタンシア帝国政府は期限を切ってユグドラシル王国に対して宣戦布告。
俺達は開戦に備えて量産型【最終兵器】の生産維持と、運用訓練支援に明け暮れた。
志願兵を募集していたので俺も志願した。
そうすると家族への食料の配給が有利になると聞いたからだ。
まぁ、戦争を知らない人間の志願の動機なんてこんなもんだ。
そして開戦。
【大砲】も【機関銃】も持たないユグドラシル王国との戦い。
鎧と剣で立ち向かう蛮人共を銃と砲で薙ぎ払うだけ。
【魔物】処分よりも楽な仕事のはずだった。
リバーサイドシティに残る橋脚残骸に仮設橋を作って川を渡り、最初の丘陵の脇を抜けようとしたところで変な砲弾で攻撃を受けた。液体を散布するような砲弾だった。
毒薬を疑ったが、違った。
それ以上に厄介なものだった。
進軍を続けると、丘陵前の平地で丘陵の反対側斜面からの砲撃で俺達は足止めされた。
敵は丘陵の向こう側で、こちら側からの攻撃は届かない。
だが、まだこの時点では楽観視していた。
翌日夜明けと共に前方の丘陵陣地に対し総攻撃を仕掛けるため、丘陵前の平地に陣地を構築し渡河した部隊を集結させて態勢を整えることにした。
その夜から地獄は始まった。
日没後に気付いた。
最初に浴びた砲弾の液体は、夜光塗料だった。
夜光塗料を目印に背後から突然来る奇襲攻撃。
その時、退路を塞がれていたことに気付いた。
しかし、気付いた時には遅すぎた。
玩具のような小火力な武器を持ち、地下通路を駆使して【機関銃】や【大砲】を恐れずに陣地奥深くまで侵入し、集積した燃料油や弾薬に放火する特殊部隊。
その気配が消えたと思った次の瞬間、頭上から精密照準で降り注ぐ砲弾。
小口径ながらも、【最終兵器】の上部装甲を撃ち抜いて車内を焼き尽くす恐ろしい砲弾だった。
地下通路からの奇襲と頭上からの砲弾の雨が繰り返し休みなく続く地獄の戦場。
一睡もできずに夜が明けたら、朝日に照らされて浮かび上がる兵器の残骸と仲間達の屍。
それでも休みなく続く特殊部隊の襲撃。
銃で応戦して仕留めても、味方の屍を踏み越えて襲撃を繰り返す。
地下通路出口を見つけて燃料油を流し込んで火をつけてやれば、飛び出してきた火達磨が弾薬集積所に飛び込んで誘爆。それを目印に頭上から降り注ぐ砲弾の雨。
消耗する弾薬。
破壊されていく兵器。
増えていく残骸。
減っていく仲間達。
増えていく屍。
昼も夜もない地獄。
気が付けば【最終兵器】は私が乗る一両が最後。
せめて一矢報いようと、車長と共に破壊された【大砲】の残骸に【最終兵器】を乗り上げさせて砲を上に向け、丘陵奥の敵の陣地に一撃ぶち込もうとしたら、飛び出してきた特殊部隊が奪取した砲弾を砲口に突っ込んだ。
狂気の自爆攻撃。
俺も、相手も、その目に狂気を浮かべていたのだろう。
発射と同時に【最終兵器】の大砲が膅内爆発。
何もかもが吹っ飛んだ。
まぁ、人と人が殺し合う戦場なんてこんなもんだ。
手首を持ち上げられる感覚で目を覚ますと、黒ワンピース、青エプロン、サングラスにとんがり黒帽子と何かとデタラメな恰好をした女が俺の脈を取っていた。
サングラスの上からでも分かった。涙を流していた。
確認が終わった後、俺の傍に赤い旗を立てて、離れていった。
少し離れた場所に【空中戦艦計画】で作ろうとしていたものに近い形の何かが見えた。
女は俺から離れた後も戦場跡をちょこまかと動き回って、あちこちに赤い旗や黒い旗を立てていた。
涙を流しながらも屍だらけの戦場跡を駆け回る神々しい姿に【戦場の女神】の幻影を見た。
だが、俺は動かない身体と再び薄れゆく意識の中で、膝丈までスカートをたくし上げて走り回っていたあの女の生脚に意識を集中していた。
残念ながら中までは見えなかったが。
まぁ、死にかけ男の考えることなんてこんなもんだ。
結局俺は地獄から生還した。
捕虜になり敵の前線基地で治療を受けたのち国に帰された。
俺の部隊の生存者は俺だけ。
全滅した部隊も多かった。
帰国後に戦死した仲間達の遺骨を遺族に届けた。
【死神】の渾名が付いたのはこの時だ。
死で満ち溢れた戦場。生き残った者だけが【死神】と呼ばれる。
仲間達は家族を残して死んだ。
そして、生き残って【死神】となった俺は家族に先立たれていた。
栄養失調を起因とした流行り病であっさりと死んだと聞いた。
俺は、孤独になった。
まぁ、業を背負って生き残った兵士の運命なんてこんなもんだ。
あの地獄の戦場を通じて、俺達はユグドラシル王国が絶対に戦ってはいけない相手であると学んだ。
魔法とかそんなデタラメな力無しで兵器や技術面の不利をものともせずに、人間の知恵の力と高い練度と強靭な精神力で互角以上の戦いをしてくる。
それこそ、自爆攻撃も辞さずに。
開戦前時点では、エスタンシア帝国上層部は、技術面で遅れているユグドラシル王国を武力制圧して属国にしようと考える勢力が主流だった。
この時の敗退で大半が考え直したが、敗退後も一部の強硬派は、食料問題解決後に改良した新兵器で再度戦争を仕掛けて属国化することを主張していた。
兵器の開発と製造で莫大な利益を上げていた【エスタンシア重工業連合会】の連中だ。
そこで、地獄から生還した俺達は結託して【エスタンシア戦友会】を結成。【エスタンシア重工業連合会】の上層部で継戦を主張する数名を【消した】。
【死神】の仕事だ。
【殺人犯】として処刑されて仲間の所に行くつもりで正面から押し入って堂々と撃った。
だが、奴等の死因は病死と発表されて、事件としての捜査は行われなかった。
眉間に風穴開けて自室で【病死】する。
どんな【病気】か分からないが、死ななきゃ治らない【病気】には違いない。
まぁ、戦争で金儲けを企むバカの末路なんてこんなもんだ。
どういうわけか、戦争反対派の先鋒だった首相が敗退後にユグドラシル王国への報復を主張しだしたのでこっちも【消そう】とした。
しかし、首相の意味不明な暴走が国内の世論を講和路線に統合する結果となったので、首相を【消す】のはやめた。
そんな世論を見て首相も改心したのか、ユグドラシル王国との対等な国家関係を構築して共に発展していく未来を語るようになった。
まぁ、現場を知らない政治家の言動なんてこんなもんだ。
戦争を通じて、初戦の敗退を通じて、【死神】達の暗躍を通じて、ユグドラシル王国の属国化を企む勢力はエスタンシア帝国から消滅した。
もし俺達があの戦場で予定通り圧勝していたなら、戦争で金儲けを企むバカ共の思惑通りにあの国は蹂躙され、属国にされていただろう。
そんなことをされた国が、未来永劫大人しく属国をしているわけがない。
報復は必ず来る。どこかで再び戦争になる。
そんな国家関係が両国国民にとって幸せな未来だとは思えない。
俺は地獄の戦場で多数の仲間を失った。
戦いに負けて良かったとは言えない。
だが、彼等の死が無駄でなかったことだけは言える。
これは冥途で待つ彼等へのちょっとした手土産だ。
まぁ、死に損なった兵士の人生観なんてのはこんなもんだ。
【死神】稼業も終わりかと思っていた頃、【不都合な真実】を暴いて【戦争の火種】に油を注ごうとする奴が居るとジョン社長に聞いて、【エスタンシア商工会議所】の三階の会議室にて同席。
そこで【誤射】。
あの地獄娘に焼かれてユグドラシル王国に【拉致】された後、【魔王城】で治療を受けてしばらく軟禁。そこで働く【臨死戦隊★ゴエイジャー】の【臨死ブラック】とは仲良くなった。
そこで、あの地獄娘は戦争の火種にはなり得ないと聞いた。
俺が撃つ必要のない相手だった。
やはり俺は【誤射】をしていた。
処遇が決まり【パスポート】が発行された時、俺の任務は決まった。
エスタンシア帝国での【魚料理】レシピの調査だ。
………………
…………
……
その任務を果たすため、リバーサイドシティを経由してエスタンシア帝国に再度入国。
俺は今、南東部の地方都市にある書店【カランリア堂南東部3号支店】に来ている。
「毎度ありがとうございましたー」
初心者向けの料理本や魚図鑑等を適当に見繕って買った。これを【魔王城】に送れば【魚料理レシピ】の調査は完了だ。
任務の指令を受けた時には一瞬何を言っているのか分からなかったが、ユグドラシル王国には魚食文化が無いらしい。
だが、エスタンシア帝国では普通に食べている。調理法も一般常識だ。
確かに魚の流通量自体多くはないし、食糧危機の際には価格が高騰したのであまり頻繁に食べる物では無いが、【珍味】として酒のつまみなどに重宝されている。
他に、輸入書籍コーナーで面白い本を買った。多分あの地獄娘に関連する書籍だ。これも一緒に送ろう。ついでに、入手しやすい魚の干物も併せて送れば任務完了だ。
まぁ、調査の仕事なんてこんなもんだ。
あとはエスタンシア帝国内を適当にふらついて、【給料日】に何食わぬ顔で【魔王城】に帰ろう。
そしてまた理由作ってこっちに来よう。
定期的に魚の干物を送れば、帰らなくても文句は言われないような気がする。
おっと。大事なことを忘れるところだった。
「すいません。【領収書】お願いします」
「かしこまりました」
俺は臨死グレー。
仕事しているのか遊んでいるのかはグレーだが、経費の精算はグレーにしない。
まぁ、退役軍人の余生なんてこんなもんだ。




